精神科医が自分の家族や親戚に向精神薬を普通に使う話 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医が自分の家族や親戚に向精神薬を普通に使う話

過去ログで、自分の親戚の子を自分の病院に入院させ、治療をした話が出てくる。その前後の経過だが、当初、自分には特に連絡もなく、近所の精神科クリニックに通院していた。

ところがうまく改善せず希死念慮まで出てくる始末で、その家族から自分に連絡があり、治療を任せてもらった。僕が診始めた当時、すぐに休職すべき状態で今後の目途も経たない状況であった。遠方だったので入院治療を選んだ。

その後、経過は順調で3環系か4環系か忘れたが、古典的な抗うつ剤で寛解状態に至った。以前のクリニックでなぜ良くかならなかったと言うと、パキシルで治療されていたからである。(パキシルが悪いわけではなく本人に合わなかった。結果的にだが)

現在、寛解以後、向精神薬は全て中止しており、あれから5年以上は経つが再発はない。この中止のパターンだが、積極的な中止ではなく数年服薬していたが、その後、自然な経過で中止できている。癌だと治癒は5年が目安になるが、精神科に関してはあまりそのような目安はない。なんらかのライフイベントで再発はありうるといったところだ。

その他、過去ログにうちの嫁さんの母親(つまり義母)にアモキサンを使った話が出てくる。これはとても効いたし、その経過から、嫁さん方の叔父にもアモキサンを使っている。なんと義母は未だにアモキサンを服薬している。また、嫁さん方の親戚にも認知症の出始めにリバスタッチパッチを処方したことがある。リバスタッチパッチは奏功し、その後、遠方なので紹介状を書き最寄のクリニックで処方してもらっている。(先日のネコの話はこの人のこと)

一般に、精神科医が抵抗なく親戚や家族に向精神薬を使うのは、自分だけに限らず、知り合いの精神科医も同様である。

元々、全ての精神疾患の好発年齢が児童思春期というわけではなく、結婚後、妻に精神疾患が生じることもありうる。そのような時、夫である精神科医が治療することもあるが、他の精神科医に任せることもある。(幻覚妄想などの症状がある場合、他人の方が治療しやすいということもあるため)

実際、精神科医の家族が、精神科外来にかかっているどころか、他の精神科病院の保護室に入っているという話も聴いたことがある。

精神科医が、抵抗なく向精神薬を家族や親戚に投与できるのは、向精神薬の理解が深く、信頼していることに尽きる。これは生じうる副作用や重篤な有害作用の理解についても同様である。

だいたい、家族や親戚に使えないようなものを、自分の入院患者や外来患者に処方できるわけないでしょう。(と言うのが自然な感覚)。

しかし、精神科医はそうだが、これが同じ医師でも精神科以外の医師だとこうはいかないケースも時々診る。

その大きな理由は、漠然と精神科の薬が怖いと思っていることや、精神科ないしその医療を信頼していないことも関係している。もちろん、精神疾患や医療に対するスティグマもあると思われる。

その結果、医師の家庭の子供で、統合失調症ないしその周辺の疾患にもかかわらず、著しく治療が遅れた状態で、初めて精神医療機関を訪れる場面に僕は何回か遭遇している。

これは父親や母親がなにがしか精神医療を大学中に学んだはずなのに最悪な結果である。過去ログでは医療関係者の方が一般の人よりも精神医療のスティグマは大きいといった記載もしているが、まさにそのままだと思われる。

このようなことから、精神医療は、実に一般社会から理解されない場所に位置していると思う。

これは、マスコミにみられる精神科の記事の現場感覚の欠落もそれに拍車をかけている。

そもそも、現場は精神科医が最も診ているのである。(膨大なN数について言及している)

参考
サルバドール・ダリ
謎の胸痛とアモキサン
パキシルとアンプリット
向精神薬のスティグマと離脱症状について
ヒルナミンを飲んでも眠れないじゃないか!