ダーウィン第4惑星 | kyupinの日記 気が向けば更新

ダーウィン第4惑星

かなり前だが、ディスカバリーチャンネルで「ダーウィン第4惑星」というSF番組が放映されていた。うちは、ケーブルのディスカバリーチャンネルとアニマルプラネットはよく観ている。嫁さんも好きなのである。

ディスカバリーチャンネルは特にSF物は失敗作も稀ではなく、傑作と呼べる作品は少ない。その中でも、「ダーウィン第4惑星」はとても面白く秀逸だったと思う。

この「ダーウィン第4惑星」は、太陽系外の生物がいそうな惑星の探査の物語である。ダーウィン第4惑星は地球から6.5光年の彼方に位置している。どこまで事実に基づいているのか知らないが、太陽系外で6.5光年の距離は比較的近い方だと思う。

6.5光年は概ね2パーセクほどである。1光年より大きい距離の単位はあまり詳しくないが、1パーセクは1光年を越え3.26光年に相当する。他に天文単位というものもあり、これは概ね地球と太陽の距離で、1パーセクや1光年と比べ圧倒的に短い。

ダーウィン第4惑星に向け、地球から無人探査機フォン・ブラウンが打ち上げられる。この宇宙船は高速で宇宙空間を飛び続け、その速さは光速の20%のスピードに達する。それでも、ダーウィン第4惑星に着くまで42年もかかるのである。

あまりにも遠距離になると、通信を通じての探査機のコントロールが難しくなる。いったん指示をしても探査機に届くのに6.5年もかかるからである。それは冥王星くらいの近い惑星?(現在は準惑星)でさえ難しい。冥王星は平均距離で40天文単位、光速で5時間半もかかるので、相互の細かい迅速なやり取りはできない。

だからダーウィン第4惑星では、人工知能のロボットを使い、1つずつ判断させて探査を進めるのである。その人工知能は4歳のヒトのIQを持つという。それでも、ネコよりずっと賢い。ネコは年齢にもよるが、ほぼ2歳から2歳半程度の幼児の知能を持つと言われる。

今回のエントリでは、その番組の細かい内容は省略したい。この際に出てきた時間の単位や、光の速さ、通信の遅れについて色々考えさせるものがあったので、それについて触れたいと思う。

元々、夜空に輝く星はずっと大昔に発せられた光であり、つまり地球人は過去の宇宙を見ていることになる。ある日、例えば20光年ほどの距離で超新星が爆発したとしても、ガンマ線バーストのため地球上の生物は壊滅的な打撃を受ける。しかし、影響が及ぶのに20年の年月を要すのである。20年未満では地球上では超新星が爆発したことすらわからない。

最近、ディスカバリーチャンネルで「モーガン・フリーマンが語る宇宙」という番組が放映されていた。ある日の特集は「時間」であったが、非常に興味深いと思った。

ヒトはごくわずかに過去に生きていると言う。情報を脳に入れ認識する過程で、僅かに時間がかかるからである。

この僅かな遅れだが、過去には王選手などの打撃(ホームラン)の分析でも出てきていた。つまりカーブなどは、そのボールの軌道を認識した時は既に遅いのである。つまり、ピッチャーが投げた瞬間くらいにカーブを認識し、それに合った軌道でバットを振らないと当たらない。フォークボールのような急激に落ちるような球種は更に始末が悪い。解説で張本氏が話していたが、フォークボールは、予測できる球道のかなり下を叩くか空振りするくらいでちょうどヒットできるらしい。

これはほんの僅かな脳の認識の遅れが影響していると言える。ヒトが僅かに過去を見ている証拠である。

そのモーガン氏の番組で紹介されていたが、ある学者によればマリファナをする人は「ずっとこの場所にいたのでは?」と思うらしい。「時間が遅くなったような気がする」とも言えるが、これは時間認識の遅れとは言わないんだそうだ。マリファナのために到着した時間の目印を見失い、記憶を固定できなくなってしまうという。そのため、ずっとそこにいたように感じるようになるという考え方である。(この辺りは難しいと思った)

過去ログでは、子供の頃は夏休みは大変な長期間であり、今の自分は同じ期間はあっという間に終わると記載している。小学校の6年間は子供にはとてつもない長期間なのである。一方、今の自分の6年間はたいした長期ではない。このブログでさえ、もう5年以上続いているが、凄く長い期間とまでは感じない。実は、年齢を経るごとに時間が早く感じることについて「時間の流れは年齢の平方根に比例する」と言う研究もあるらしい。

旅行に行っても同じような時間認識?の変化が起こる。嫁さんによると、海外旅行の1週間は非常に早く、あっと言う間に終わると言う。これはたぶん非日常の世界で生活することも関係している。(僕は海外旅行の1週間はむしろ長く感じるのだが・・)

彼女によると、帰国2日前に脳内で「蛍の光」が流れ始め、淋しい気持ちになるらしい。

この話は大笑いで、僕は「蛍の光」と言えば、昔行っていたパチンコ屋の閉店時間の店内の雰囲気を思い出す。やはり淋しい気持ちには変わりはない。

ヒトは極度の緊張状態では長い時間に感じられる。これは単純だが、常時かなり注意力を必要とする流れ作業などで生じる。もう1時間は経ったかも?と思って時計を見ると、15分しか経っていないということが起こる。

海外旅行の1週間が嫁さんは早く感じ、僕はむしろ長く感じるのは、日々のテンションの水準の格差も関係しているような気がする。

自分の感覚では、日々仕事をしていて、夕方になるのはいつもあっという間である。だから1週間も1ヶ月も基本的にはあっという間で、このスピードで歳をとると思うと悲しくなる。

モーガン氏の番組では、車を運転している際、まるで時速300km以上で運転しているように周囲の光景が飛ぶように流れていると感じた人の話が出てきた。その人は、世界の動きが急に早くなったと考えたが、本当はその人が遅くなっていたという。その人は話し方も歩き方もスローモーションだったらしい。

その原因は脳腫瘍だったのである。つまり脳の器質性疾患は時間の感覚を変化させうる。

また、他の学者が出てきて、統合失調症の根底には時間認識の障害があるのかもしれないと指摘している。また、そのことが種々の異常体験の原因になっていると言う。「何をしたのかもわからなくなる。やった後に、自分がやったとはとても思えないと訴える」と言っていたが、これはちょっと・・の話ではある。

統合失調症の人たちに漠然とした「時間認識の障害がある」というのは一般臨床で感じるが、普通、統合失調症には上のような所見は見られないと思う。統合失調症の人は、「やった後に、自分がやったとは到底思えない」なんて言わない。

彼は精神科医ではないので、そういう判断をしたのかもしれない。上の症状はむしろ重い神経症の所見である。(解離など)。重い神経症とはつまり器質性である。(このブログ的には)。そう考えると、一連の話の繋がりがより明瞭になる。

マリファナの吸引(薬物性は器質性)や脳腫瘍で時間の進み方の感覚が変わると指摘しているのに、突然、内因性の話を出してくるのが専門性を欠くのである。実は、このように矛盾を孕む番組の流れは、ディスカバリーチャンネルでは時々出てくる。

子供は時間の経過が遅く感じられるのは、脳の成熟の問題から来るのかもしれない。未成熟な脳では成人の脳のような時間感覚にはならないのである。(これもある意味、器質性)

統合失調症の場合、そのようなタイプともう少し異なる時間感覚?の変化が見られる。過去ログあるが、診察時に特に脈絡なく30年前に恩師にお中元を渡した話をすることがある。それを、あたかもついさっき起こったことのように話しているのである。

つまり時間に関しては、器質性疾患と統合失調症では根本的に問題が生じている質が異なる。

統合失調症の人では上の器質性のようにリアルタイムで刻々と動いている時間の話でなく、もっと大きな時間のブロック単位の認識の問題の方が大きい。つまり今現在は意識は清明と言われる所以である(統合失調症は意識は清明とされている)。

巨大な時間経過を無視している話し振りなので、ある意味、統合失調症的認知の障害とも言える。この辺りは、器質性と質的な点でかなり相違がある。

私見だが、時間感覚は成人の場合、器質性の色彩が強いカタトニアやアパシー、あるいはアナザーワールド(過集中)などの病態において、より大きな変化が生じると考えている。ただ、カタトニア、アパシー、アナザーワールドなどは器質性という背景は同じだが、障害の方向性や重さの点で相違がある。

アパシーや空虚感にどっぷりと覆われた状況だと、時間の密度が薄すぎて、1年くらいでも3ヶ月くらいに感じるようである。厳密に言うと、アパシー状態だと1日だけ見ると結構長い。それはつまらない1日だからである。普通、人間は楽しい方が時間の過ぎるのは早く感じる(嫁さんの旅行の話のように)。

ところが、アパシー&空虚感の空間では、1日は経過が遅いのに、3日とか1週間はあっという間に経過するのである。つまり、ミクロでは遅いがマクロではずっと早い。これは時間の密度の問題が、数週間や数ヶ月では明瞭になるが、1日だけではあまりはっきりしないことを意味する。

この後半の話は、ある種の「浦島効果」と言える。3ヶ月くらいに感じていたのに、実際は1年ほど経過しているからである。しかし、元祖の浦島効果とも実際にはかなり異なるような気がしている。浦島太郎は、玉手箱の煙で急激に老化している。しかし1年を3ヶ月に感じていた人が、果たして細胞レベルで1年分老いているのか疑わしいからである。

モーガン氏の番組では、「元々空間はあるが、時間は存在しない」という意見も考察されていた。「全てはこの世界に複数の現在として分布しているだけ」なんだという。時間はヒトの脳内で積極的に作られている?という話もあった。時間感覚の形成に脳の健康度が関与するといったところであろうか。

時間の流れの感覚は、そのヒトの年齢や疾患固有の特性に由来するのであろうが、おそらく脳内のモノアミンやモルヒネ様物質(エンドルフィンなど)の急激な変化も関与している。その理由は、治療により時間感覚に変化が起こるからである。

これは話し出すときりがない。この話から出発すると、一部の精神疾患の人々が、なぜ異常なほど若く見えるかの謎も解けるような気がしている。

まだアップしていないが、ある40歳の全く歩けないほど弱っている女性が入院した日、看護師さんは一斉に彼女の若さに驚いたのである。あれほど弱っていて動けないのに・・

また、テレビなどでも線維筋痛症で長く苦しんだ女性が異常に若く見える人として紹介されていた。これについて、本当に正しいかどうかはわからないが、なぜそうなるのか僕はわりあい理解できるんだな。

これはある種の逆浦島効果といえる。

個々の精神疾患の考察の際に、時間感覚の変化とアンチエイジングの話は避けて通れないテーマである。

いつか「アンチエイジングの謎」のタイトルで記事をアップしたい。いつになるかわからないけど。

なお、既に気付いている人もいると思うが、今回は2011年10月24日に亡くなった北杜夫氏のレクイエム的なエントリである。彼の小説やエッセイに親しんでいなかったら、自分は精神科医になっていなかったかもしれないからである。

参考
地球上の大量絶滅
夢のような本
強烈な印象の夢(2009年1月31日)
21歳の時に・・
20歳前の人なら、まずは25歳くらいまでに良くなれば
古典的ヒステリーは器質性疾患なのか?
統合失調症と痛みの感覚
彼女は髪を鮮やかな紫に染めた