カウンセリングをあまり重視していない精神科医 | kyupinの日記 気が向けば更新

カウンセリングをあまり重視していない精神科医

自虐的な表現だが、自分はそんなタイプの精神科医だと思っている。これはずっと以前、たぶん研修医の頃からそんな風だった。少しはマシになったのは、たぶん8年目か9年目くらいだったと思う。

このブログを読んでいて、いったいこの人は精神療法をしているのか?と思う人もいるかもしれない。精神療法なしで済まない人もいるので、全くしていないわけではないが、それなりといったところだ。診察室の雰囲気は悪くないと言われる。

ある時、薬も投与せず良くなった患者さんがいた。女医さんが不思議に思ったのか、

何もしていないのに良くなった?

と問うた。僕は、

お話をしました・・

何もしていないと言えばそうだけど。

彼女は実は何をしたのか聞きたかったらしいが、上手く説明できないため、

「フォース」みたいなものかな?(笑)

と答えた。もちろん、Star Warsに出てくるあれである。

過去ログでは「最初から0-0狙い」などと書いていることがある。薬物療法以外、全く考えずに治療を進めているわけでもない。相対的に重視していないだけだ。

過去ログに出てくる0-0狙いの女性は、よくわからない経過で大幅に回復し、現在は結婚している。(参考)彼女は結婚の直前、挨拶にやって来た。そして、

先生、ありがとうございました。

と言った。彼女には摂食障害ながら電撃療法(ECT)までしているが、このような疾患でECTまで行なうのは、いかに集中して全力で治療しているかを示していると思う。これは僕の誇りでもある。

だって、それがどの程度全体の経過に影響を及ぼしているかは不明だが、今まで良くならなかった人が寛解して結婚までしているのに。

これから本題に入るが、僕はそういうタイプなので、自ずと担当患者が増える。同じ時間に普通の医師に比べたくさんの人たちが診られるからである。

もう15年以上前だが、ある病院で自分が最も多くの患者さんを受け持っていた。入院患者も外来患者も最高に多かった。実はこれには重大な問題がある。

過去ログのプロフィールのテーマで、若い頃、総合病院の精神科で忙しく働いていた記事をアップしている。当時も最も多くの新患を診ていたため、後で困ったことになった。

それは担当入院患者が増え続けることである。

一般の精神科病院では外来の担当患者さんが入院した場合、病棟でも継続して診るのが普通だ。大学病院では、研修医や医員に入院患者さんを割り振らないといけないため、そういう風にならないことも多い(若い医師に経験を積ませるため)。

一般の単科精神科病院では、やはり外来担当の医師が診る方が、薬の適否や家族の状況についてわかっているため、無駄な動きをしなくて済む。禁忌というほどではないが、相対的に良くない薬が外来カルテを調べなくてもわかっているからである。ほぼ失敗するであろう薬物が再び投与されることがないだけでも、患者さんにとってメリットがある。

また、患者さんからすれば、入院した途端に主治医が変わるのは不安なことである。大学病院が一般の単科精神科病院に比べ、治療成績が必ずしも良くない点はこんなところにもある。

総合病院の精神科であれ、単科精神科であれ、連日、新患を多く診続けるとか、いつも救急外来に呼ばれて診ているような状況だと、次第に担当患者さんが増え大変なことになるのである。(初診したその日に入院せざるを得ない人もいるため)

数年すると他の医師に比べ圧倒的に担当患者が増え、同期なのに3倍くらいの差が生じる。担当患者が3倍ということは、彼らの精神科関係の書類も3倍になる。

かといって入院患者を人に頼むのもねぇ・・それでも、長期間入院している人で、もう誰が診てもたいして変わらない患者さんを少し受け持ってほしいとは思う。同じ給料を貰っているのに、この差は不条理である。

だいたい彼らが積極的に新患を診ず、救急外来に呼ばれても行かないために、こういう事態になっているわけで、僕個人がカウンセリングを重視していないからだけではないのである。(参考1参考2

カウンセリングを重視しない精神科医は、結局は自分の首を絞めることになる。

後年、ある病院で外来の看護師さんから呼ばれたので駆けつけた。聴いてみると、外来担当の医師が時間をかけすぎて、外来で待っている人たちがカンカンだと言うのである。同時に外来看護師さんたちもカンカンであった(患者さんからの苦情の応対のため)。

そのような時は、診察を少し早めるなどすれば良いのに、全くそういう配慮もなかったようなのであった。

まあ、1人ずつ十分に時間をかけているなら、それはそれで公平ってことにならないでしょうか?

と僕は言った。そういう風な状況で、長く待っている人をやむを得ず、診察が短い僕のようなタイプの医師が診るなんて、種々の点で不条理というか、いっそう不公平になるような気がする。

ところが、外来看護師さんたちの意見はそうではなかった。統合失調症や長期に通っている安定した神経症の患者さんに、しょうもない世間話を長々しているので、あれは診察とはいえない、くらいの評価であった。

あれだけ時間をかけて診ていて、外来スタッフからあんなふうに思われているなんて、何か哀れだ・・

と心を込めて思った。その時、確か呆れるほど待っていた人たちを4~5名診た記憶があるが、その待っていた人は次から僕が担当医になってほしいと言う。簡単に診察を終わらせているのに、そんな風に言われたのである。(病院には薬を取りに行っているだけ、という感覚の患者さんもけっこういる)

単純に考えても、1人の患者さんを長時間診ていたために、受け持ちの患者さんが他の医師に診て貰っても、そこまで気に病まない医師もどうかしている。

それって矛盾してないか?

かくして、更に自分の首を絞める結果になったのである。

一般病院の精神科医なるもの、心理療法士ではないので、カウンセリング、薬物療法のバランスをうまくとれないとダメだと思う。患者さんが多すぎるからである。要領の悪い医師は結果的に他の医師や患者さんに迷惑をかける。

僕がその日に診た人たちはうつ病圏内の人が多かったが、なぜかテシプールで治療してあり、その後、僕が担当し始めて、ルジオミールやアモキサンを主体にしてかなりのレベルで改善した。ある看護師さんや教師の人などは通常業務に戻れたほどだ。(SSRI未発売の時代)

45分かけて診察するより、2分で適切な薬を選択できる方が、プラクティカルだし患者さんの利益にもなる。

これが結論である。

今でも自分の病院では最も担当患者さんは多いが、それには文句はない。院長だし、それくらい診るのは当然と思うから。

しかし、今以上になると体が持たんね。


参考
2分以内に決断する
リエゾンでのせん妄