28歳頃の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

28歳頃の話

28歳頃、総合病院の精神科で仕事をしていた。当時、精神科外来には1日90人くらいの患者さんが来院していた。病床数を言うとどこの病院かわかってしまうので明かせない。病床数は当時から変わっていないはずだから。診察に来院する90人のうちに新患は平均4人だった。当時の精神科医は4名ほどで、平均、新患を1名診れば良いのであるが、そうならなかった。

まず、ボス以外に僕を含め若手が3名いたが、1名は女医さんで経験が浅く新患はあまり任せられなかった。もう1人の友人は仕事が遅かったからである。女医さんは外来の再診も少なかった。自然、再診も僕たちに集中するし、みんな週に1日は外勤日(アルバイトの日)があったので、4人揃わない日の方が多いのである。

ある時、調べてみると新患4人のうち平均2.5人は僕が診ていたことが判明。これが毎日ずっと続いたのである。3年以上も。当時、土曜日も午前中は外来を開いていて、救急外来(精神科はないのだが精神科の患者も来る)もあったので、まさに野戦病院であった。僕は野戦病院向きなのである。赴任した初日に、これは良い先生が来てくれたといわれた。まあ、よく言えば仕事が捌けるのであるが、悪く言えば雑なのである。これはO型なので仕方ない。

当時、朝8時半から外来が始まったが、ある時、朝早くからだと疲れるので皆で話し合って9時開店にしてみた。そうすると外来がなかなか終わらないので、結局8時半に戻したのである。

新患を診るにはコツがあり、初診時さっと予診をとる。その病院ではケースワーカーは手伝わない。それから、必要に応じてCTや脳波をとってきてもらう。総合病院に来る患者さんと一般民間の精神病院に来る患者さんではニーズというか、患者さんの病院に対する期待値みたいなものが違う。検査ができるのにしないで何か後で判明した場合、ぼやっとしていたと思われるのがイヤなのである。それと再診を捌く時間を稼ぐのもある。

ここで注意したのは、CTの場合、そんな風に見えなくても、妊娠している可能性のある女性には受けさせられないこと。これは海外でも言われているが、本人が予期しないときに妊娠するケースがけっこう多いのである。日本風に言えば、「出来ちゃった婚」というのでしょうか?

そんな風に、再診の患者さんをこなしているうちに新患の患者さんが検査から帰ってくる。ここでまた診察を再開するのであった。なんだかんだで、相対的に残りの患者が減っているので、また新患を持ってこられる。一度、なんで僕のところばかりに持ってくるか外来の女の子に訊いたら、他の精神科医は新患を持っていくとあらかさまに嫌な顔をされるからと言う。まことに精神科医らしくてよろしい。

そういうわけで非常に珍しい精神疾患や、平凡な病気でも辺縁にあるようなタイプには相当あたった。特に症状精神病のカテゴリーに入る疾患はよく当たったが、こういう病気は総合病院だと他科と連携して治療できるので環境には恵まれていると言えた。当時はきつかったけど、経験だけは積めたのである。

今になって思えば、当時は診察が下手だったと思う(カウンセリング的な意味で)。今の方が同じ雑でもかなりマシになっている。当時は、経験が浅かったし仕方がないが、精神科的な勘を効かせて診断し治療の方針を立てる技術はこの数年間で培われたと思っている。

しかし、こんな生活が長く続くといい加減イヤになってくる。だいたい仕事も休みも区別がないし、気が休まる暇がないのである。それと仕事的には、もう少しゆっくりと時間をかけて患者さんを診たくなってくることもある。

総合病院などの精神科に限らず、特に大学病院もそうなのだが、主治医はやがて移動して、どこかに行ってしまうと患者さんの方が思っている。やがて、主治医交代があることを理解しているのである。

その後、病院を移動し、もう少しゆっくりと診られる環境に移った。


参考
精神鑑定
剖検
象徴的な夢
ポケットベル
精神病院の住み分けについて