精神病院の住み分けについて | kyupinの日記 気が向けば更新

精神病院の住み分けについて

総合病院の精神科の話がこのブログにはよく出てくるが、当時、その病院では原則、覚醒剤中毒後遺症は扱わない方針だった。外来で診ることができる範囲の患者は診察していたが、いざ入院が必要となった場合、他病院に紹介していたのである。この自主的ルールはいくつかの理由があったが、最も大きな理由はやはりヤクザ関係の人が病棟内に入ってほしくないというのが大きかった。いかにもそれ風の人が病院内でうろうろすると、普通の統合失調症の患者さんが恐怖感から病状が悪化することも実際にある。面会などで家族、友人が病棟に入るのも同じように困るのである。総合病院だと、普通のサラリーマンのうつ病くらいで入院している人もいるので、あまりにもギャップが大きすぎると言えた。


総合病院で救急外来を行っている以上、どうしても診なくてはいけないケースももちろんあった。何回か、一般の感覚だと、これはすごいと思われる患者さんにも遭遇している。ある患者さんは、左手の指を金切りバサミか何かですべて切り落として救急外来を受診していた。こういう患者さんは外科的な処置が必要なので、やはり総合病院でないと治療できない。かつて、「覚醒剤やめますか、人間やめますか」という、反覚醒剤のキャンペーンのコピーがあったが、まんざら大げさではないのである。覚醒剤の問題点は、その影響の個人差があんがい大きいことだと思う。覚醒剤後遺症としてさまざまな精神症状が出現するためには、かなり長期にわたり使用することが必要と言われているが、中には弱い人がいて、数回しか使用しないのに神経症的な症状が続く人がいる。これは覚醒剤の後遺症と言うより、その使用を契機に脆弱性のある部分に影響し発病したと考える方が合理的かもしれない。数回使用して全く平気だった人が他の人に勧めて、その人は精神変調を来たすというパターンがみられる。


覚醒剤後遺症で、内科、外科的処置が必要ない患者さんだと、ルールに従い他病院に紹介するが、覚醒剤中毒後遺症を扱える病院は限られているのである。そんな病院の、ある意味、独特な待遇はその業界では周知されており、いわゆる「ヤクザも震え上がる病院」も実際に存在していた。僕が刺されそうになったきっかけの1つは、「○○病院に紹介する」と言ったからである(1回はそうだった)。「お前、舐めとるんか?」と怒鳴られた。まあ、気持ちがわかるけど、ここはそう言うしかないわけで。ある患者さんの話では、そういう専門の病院では、男性看護師が竹刀を持って巡回しているのだと言う。また、ある時、粗相があってヌンチャクでぼこぼこにされたらしい。ヤクザも恐れるはずなのある。


ここで本題に戻るが、そういうどこででも扱えない処遇が困難な患者さんを受け入れている病院があるからこそ、他の病院がきれいな(そうともいえないけど)仕事ができていることは見逃せない。僕たちは、職業柄、そんな病院が少々荒っぽいことをしていても悪くは言えないのだ。ところで、患者さんの立場から見て、偶然、そのような全然場違い的な病院に受診してしまうことはありえるのだろうか?普通、地域でそういう評判はあることが多いので、それを参考にすればだいたい大丈夫と思う。僕はこのブログで、精神科はあまり大学病院と一般精神科は治療に差がないと書いたことがあるが、このレベルならもちろん差がある。一般的に言えば、積極的にデイケア活動や、訪問看護をしている病院はだいたい標準以上の病院と言えると思う。もちろんそれほどではない病院でも良い病院もあるだろうけどね。