海外の薬価の不思議 | kyupinの日記 気が向けば更新

海外の薬価の不思議

個人輸入したことがある人ならわかるが、海外の薬は剤型によりほとんど価格差がない。例えば、10㎎、15㎎、30㎎、50㎎がほぼ同じ価格だったりする。これは特にジェネリックにその傾向が強いが、ゾロフトやアビリファイなども薬価差がそこまでなかった。

これは日本での薬価設定とはかなり異なっている。この理由だが、たぶん医療保険制度と関係がある。日本の場合、皆保険の国なので用量に比例し薬価を高くしても患者さんの負担はそこまで高額にならない。

タイではエビリファイが発売されている。タイでは統合失調症の治療の際に貧しい人はセレネースなどの安価な抗精神病薬が使われるという。予算的にそういう方法しかとれない。

エビリファイは高価なので、お金持ちしか処方を受けられないのであった。

急性期の統合失調症の治療では、エビリファイは少量だと賦活して治療がうまくいかない傾向がある。少量のエビリファイを使うくらいなら、ずっとセレネースの方が治療の成功率が高いと思われる。(質的なものを問わないならば)

結局、エビリファイは高価と言う理由で、全然処方されないことになりかねない。

販売会社から見ると、全く使われないなら売り上げが上がらない。これでは会社として成り立たない。そこで高用量剤型のエビリファイの値下げを行ない、タイでエビリファイを処方しやすくしたのである。(タイの大塚製薬)

エビリファイの剤型の価格差をなくし、小さな剤型も大きな剤型もほぼ同じ値段に設定すれば、エビリファイは漸増していっても費用が変わらないので、相当に使いやすくなる。(治療が続きやすくなる)

例えば、ある患者さんが1日6mg程度の予算しかない場合、この量では全然効かずセレネースなどに切り替えるしかないような人でも、24㎎服用すれば奏功することがある。

会社からすれば、より多くの人に処方されるようにする経営方針が良い。その方が売り上げも上がる。多分そういう理由で、剤型の価格差がないのである。

結局、薬はいったん造ってしまえば、材料費的にはパソコンソフトのようにCD-Rで焼くのとたいして変わらない。

優れた新薬をより多くの人に使ってもらえるようにするのが、製薬会社としての理念に沿う上に、社会的責務も果たしているといえる。

抗精神病薬の場合、長期間投与されることが多いので、少々安く売ったとしても十分に元がとれるであろう。

そういう観点からすると、日本の医療保険制度は、コスト意識がやや乏しい状況を作っているといえる。承認されてしまえば、厚生労働省が薬価を決めてしまうので、先発品の安売りはありえないからである。(ジェネリックを使うように強く言っているが、日本人はブランド信仰があるのか、そこまで普及しない。ここでの日本人は処方する医師も含む)

海外の薬価差のない不思議な状況は、つまりはディスカウント商法なんだと思う。使われないよりは使われる方がマシ。現実的である。

日本の医療保険制度はメリットも非常に大きいので、これを否定するといったエントリではない。

民主党風に、何らかの「事業仕分け的なもの」があってよいのではないかと思われる。

リスパダールコンスタとかエビリファイ液の薬価設定は酷すぎるからである。(個人的に、このクラスの高価な薬は用量の価格傾斜をあまりつけるべきではないと思う)

リスパダールコンスタは、真っ先に生活保護の患者さんに処方される傾向があったらしい。これこそ、コスト意識ゼロを示している。(患者さん負担がないため)

参考
ジェイゾロフトとパキシルの力価の話
エビリファイの液剤の量が多い理由
リスパダールコンスタが高すぎること
ルーラン