ジェイゾロフトとパキシルの力価の話
パキシルとジェイゾロフトについて、日本人にはまだジェイゾロフトの方が服用しやすいという点がある。今日はこれについて少し考察したい。
パキシルは高力価のSSRIで、日本ではうつ状態では40mg、強迫性障害には50mgまでの投与が認められており適宜増減できない。いかなる場合にも50mgは超えられないのである。
それに比べ、デプロメール(ルボックス)は150mgまで処方可能だが、症状に応じて適宜増減できるので、実質的にその倍の300mgの処方が可能となっている。
ジェイゾロフトは100mgまでが上限とされており、これを原則超えることができない。ほぼ間違いなく、パキシル60mgとかジェイゾロフト150mgなどの処方はレセプトで但し書きをしていたとしても減点になるだろう。これはパキシル、ジェイゾロフトの薬価がデプロメールに比べ高価なことと無関係ではない。
パキシルは高力価な上、半減期が短いことや血中濃度が指数関数的に上昇するために減量時に離脱症状が出やすい。(参考)また、普通に服用していても変な音が聴こえたり、不快感があったりと奇妙な副作用が出て続けられなくなる人がいる。(参考1、参考2)
ジェイゾロフトの場合、たぶん力価的なものもあるのだろうが、このような副作用が比較的少なくなっている。現在、ジェイゾロフトの処方量が急激に増えているのは、このような理由もあると思われる。
実は、アメリカではジェイゾロフトは疾患にもよるが概ね200mgまで処方できるようになっている。
ジェイゾロフトの適応と用量(アメリカ)
PTSD ~200mg
パニック障害 ~200mg
社会不安障害 ~200mg
うつ状態 ~200mg
強迫性障害 ~200mg
月経前不快気分障害 ~150mg
早漏 ~50mg
ところが、パキシルはたいていの疾患で最高量が50~60mgまでとされており、日本とさほど大きな差がない。
パキシルの適応と用量(アメリカ)
PTSD ~50mg
パニック障害 ~60mg
社会不安障害 ~20mg
全般性不安障害 ~50mg
大うつ病 ~50mg
強迫性障害 ~60mg
月経前不快気分障害 適応なし
早漏 ~40mg
頭痛 ~50mg
糖尿病性神経障害 ~50mg
このようなことから、日本ではジェイゾロフトの用量は控えめの上限に設定されているの比べ、パキシルはわりあい高用量まで認められていることがわかる。これは治験時における日本人の忍容性も考慮されていると思うが、治験時の医師の錯覚もあったのかもしれない。日本人はアメリカ人のほぼ同じ量を服用できるような向精神薬はあまりないからだ。パキシルの日本人の用量が適切と言うなら、ジェイゾロフトの用量設定はもう少し高くしても良かった。(薬価も下げて)
パキシルの40mg処方はザラにあるので、日本人はアメリカ人に近い量をしばしば服用させられていることがわかる。このようなことから、力価だけ考慮しても、ジェイゾロフト100mgよりパキシル40mgの方が副作用が多くてもおかしくはない。
なお、上で、パキシルについて月経前不快気分障害は「適応なし」としているが、パキシルCRは適応があるので、適応が認められているようなものだ。アメリカではパキシルCRという徐放剤が発売されており、ほとんどの疾患でいずれも使えるようになっている。月経前不快気分障害はその疾患特性から徐放剤の方が優れるように思われるので、徐放剤のみ適応があるのはそのためだろう。徐放剤は忍容性が高いためか、たいていの疾患で用量が少し高く設定されている。
今の薬価設定は、ほぼ
ジェイゾロフト100mg=パキシル40mg
となっているが、これは日本の処方上限を意識している。上のアメリカの用量設定からするとジェイゾロフトは薬価が高すぎる。しかもゾロフトは古い薬なので既にアメリカではジェネリックがたくさん処方されている。どうみてもファイザーは日本でぼろ儲けしていると思う。
向精神薬の売り上げ世界ランキング2006年(前年比%)
①ジプレキサ 4364百万㌦(+4%)
②リスパダール 4183百万㌦(+18%)
③エフェクソール(SNRI) 3722百万㌦(+8%)
④セロクエル 3557百万㌦(+23%)
⑤レクサプロ(SSRI) 3059百万㌦(+14%)
⑥アンビエン(=マイスリー)2838百万㌦(+46%)
⑦アリセプト 2483百万㌦(+23%)
⑧ウェルブトリンXL 2213百万㌦(+36%)
⑨ゾロフト 2110百万㌦(‐35%)
⑩トパマックス(=トピナ) 2027百万㌦(+21%)
世界ランキングではゾロフトは9位に入っているが、前年比はガタ落ちである。ジェネリックは多く使われているのであろうが、先発品が売れなくなっているのである。
このような考察から、パキシルについては、日本人に多い量が処方され過ぎているのではないかという疑念が湧く。
臨床的に、パキシルからジェイゾロフトに切り替えていくと、ジェイゾロフトだと抗うつ作用が物足らないと言う人があまりにも少ない。しかもパキシル40mgをジェイゾロフト100mgに変更した場合ですら、抗うつ剤としてのパワーは減っている可能性があるのである。結局、SSRIのうち、パキシルとジェイゾロフトはそこまで用量依存性がないのかもしれない。パキシル40mg服用していた人が、ジェイゾロフト50mgで十分なケースも多く僕は経験している。
パキシルからジェイゾロフトへの変更で、体が楽になったと言う人もよくみるが、単に薬物減量したためにそうなっている可能性もある。
パキシルの現在の用量を認めるならば、ジェイゾロフトはもう少し適宜増量できるようにすべきであろう。もしそうなれば、ジェイゾロフトの薬価はそれに応じて下げるべきだ。
参考
野茂英雄
パキシルは高力価のSSRIで、日本ではうつ状態では40mg、強迫性障害には50mgまでの投与が認められており適宜増減できない。いかなる場合にも50mgは超えられないのである。
それに比べ、デプロメール(ルボックス)は150mgまで処方可能だが、症状に応じて適宜増減できるので、実質的にその倍の300mgの処方が可能となっている。
ジェイゾロフトは100mgまでが上限とされており、これを原則超えることができない。ほぼ間違いなく、パキシル60mgとかジェイゾロフト150mgなどの処方はレセプトで但し書きをしていたとしても減点になるだろう。これはパキシル、ジェイゾロフトの薬価がデプロメールに比べ高価なことと無関係ではない。
パキシルは高力価な上、半減期が短いことや血中濃度が指数関数的に上昇するために減量時に離脱症状が出やすい。(参考)また、普通に服用していても変な音が聴こえたり、不快感があったりと奇妙な副作用が出て続けられなくなる人がいる。(参考1、参考2)
ジェイゾロフトの場合、たぶん力価的なものもあるのだろうが、このような副作用が比較的少なくなっている。現在、ジェイゾロフトの処方量が急激に増えているのは、このような理由もあると思われる。
実は、アメリカではジェイゾロフトは疾患にもよるが概ね200mgまで処方できるようになっている。
ジェイゾロフトの適応と用量(アメリカ)
PTSD ~200mg
パニック障害 ~200mg
社会不安障害 ~200mg
うつ状態 ~200mg
強迫性障害 ~200mg
月経前不快気分障害 ~150mg
早漏 ~50mg
ところが、パキシルはたいていの疾患で最高量が50~60mgまでとされており、日本とさほど大きな差がない。
パキシルの適応と用量(アメリカ)
PTSD ~50mg
パニック障害 ~60mg
社会不安障害 ~20mg
全般性不安障害 ~50mg
大うつ病 ~50mg
強迫性障害 ~60mg
月経前不快気分障害 適応なし
早漏 ~40mg
頭痛 ~50mg
糖尿病性神経障害 ~50mg
このようなことから、日本ではジェイゾロフトの用量は控えめの上限に設定されているの比べ、パキシルはわりあい高用量まで認められていることがわかる。これは治験時における日本人の忍容性も考慮されていると思うが、治験時の医師の錯覚もあったのかもしれない。日本人はアメリカ人のほぼ同じ量を服用できるような向精神薬はあまりないからだ。パキシルの日本人の用量が適切と言うなら、ジェイゾロフトの用量設定はもう少し高くしても良かった。(薬価も下げて)
パキシルの40mg処方はザラにあるので、日本人はアメリカ人に近い量をしばしば服用させられていることがわかる。このようなことから、力価だけ考慮しても、ジェイゾロフト100mgよりパキシル40mgの方が副作用が多くてもおかしくはない。
なお、上で、パキシルについて月経前不快気分障害は「適応なし」としているが、パキシルCRは適応があるので、適応が認められているようなものだ。アメリカではパキシルCRという徐放剤が発売されており、ほとんどの疾患でいずれも使えるようになっている。月経前不快気分障害はその疾患特性から徐放剤の方が優れるように思われるので、徐放剤のみ適応があるのはそのためだろう。徐放剤は忍容性が高いためか、たいていの疾患で用量が少し高く設定されている。
今の薬価設定は、ほぼ
ジェイゾロフト100mg=パキシル40mg
となっているが、これは日本の処方上限を意識している。上のアメリカの用量設定からするとジェイゾロフトは薬価が高すぎる。しかもゾロフトは古い薬なので既にアメリカではジェネリックがたくさん処方されている。どうみてもファイザーは日本でぼろ儲けしていると思う。
向精神薬の売り上げ世界ランキング2006年(前年比%)
①ジプレキサ 4364百万㌦(+4%)
②リスパダール 4183百万㌦(+18%)
③エフェクソール(SNRI) 3722百万㌦(+8%)
④セロクエル 3557百万㌦(+23%)
⑤レクサプロ(SSRI) 3059百万㌦(+14%)
⑥アンビエン(=マイスリー)2838百万㌦(+46%)
⑦アリセプト 2483百万㌦(+23%)
⑧ウェルブトリンXL 2213百万㌦(+36%)
⑨ゾロフト 2110百万㌦(‐35%)
⑩トパマックス(=トピナ) 2027百万㌦(+21%)
世界ランキングではゾロフトは9位に入っているが、前年比はガタ落ちである。ジェネリックは多く使われているのであろうが、先発品が売れなくなっているのである。
このような考察から、パキシルについては、日本人に多い量が処方され過ぎているのではないかという疑念が湧く。
臨床的に、パキシルからジェイゾロフトに切り替えていくと、ジェイゾロフトだと抗うつ作用が物足らないと言う人があまりにも少ない。しかもパキシル40mgをジェイゾロフト100mgに変更した場合ですら、抗うつ剤としてのパワーは減っている可能性があるのである。結局、SSRIのうち、パキシルとジェイゾロフトはそこまで用量依存性がないのかもしれない。パキシル40mg服用していた人が、ジェイゾロフト50mgで十分なケースも多く僕は経験している。
パキシルからジェイゾロフトへの変更で、体が楽になったと言う人もよくみるが、単に薬物減量したためにそうなっている可能性もある。
パキシルの現在の用量を認めるならば、ジェイゾロフトはもう少し適宜増量できるようにすべきであろう。もしそうなれば、ジェイゾロフトの薬価はそれに応じて下げるべきだ。
参考
野茂英雄