児童・思春期の患者さん | kyupinの日記 気が向けば更新

児童・思春期の患者さん

思春期の患者さんは専門の病院やクリニックに集まるため、単科の精神科病院にはあまり来ない。単科でも思春期外来もやっている病院は結構賑わっている。また、アメニティや立地などから若い患者さんが多い病院もある。そのような病院は思春期を長く診ていた経歴を持つ医師が勤めていることが多い。経験のある医師がいないのに、そんな風にぶち上げていることは稀である。

医療観察法の鑑定のために他病院に行く事があるが、思春期の患者さんたちが多い病棟は、かなり雰囲気が違うと感じる。若い人たちは統合失調症の人などあまりいないからである。

うちの病院に関しては、外来レベルでは稀に思春期ないし幼児も診ている。患者さんの子供が不登校になったとか、落ち着きがないので相談されるパターン。カルテすらなく、正式には診ているとは言えない子供もいる。

そのようなこともあり、今までは因果関係のない思春期の患者さんは全然来なかった。ここで、思春期は、とりあえず18歳以下とする。

最近、脈絡なく子供が訪れるようになった。これは不思議なことで、他病院の職員から勧められることもあるらしい。また医療に無関係の人から勧められたという話も聴いた。僕はむしろ発達小児科にでも行くべき患者さんが来院したら、

僕は児童・思春期の専門家でもなんでもないですから・・

くらいに言うが、面倒なので言わないこともある。別に逃げ道を作っているわけではなく、自己紹介の一部である。

奇妙な経緯で新患が訪れるのは、なんだかこのブログも暗黙のうちに関係が把握されているような気がして、ちょっと怖い。ある時、友人に会ったとき、あのブログは僕しか考えられないと言われた。その人は非常に親しかったので、

何も書き込まないでね・・

とだけ伝えた。

児童思春期は症例は少ないが、治療は素人のわりに健闘していると思う。

不登校ならぬ不登園の4歳くらいの子供を紹介された時はレスキュー・レメディーで一発で改善した。しかし、これは今のところは良いが将来的にはどうなるかわからない。現在、薬物治療はしていないが、普通に登園している。

レスキュー・レメディーを幼児に使う場合、脈を測るポイントに1滴垂らし塗りこむ。また夜泣きに使う場合、額に1滴垂らしてやはり塗り込んだりすると速やかに夜泣きが止まる。この効き方が劇的なので母親がびっくりするらしい。

その子は最初、母親に塗ってもらったが、興味を持ったのかその後は自分でするようになった。効果が出るまで2~3日かかったらしい。最初は半日くらい通い始め、1週間で完全に回復し登園が続くようになった。現在、もはやレメディは使っていない。その子の診断は不明だが、たぶんADHD系と思っている。(1回しか会っていないのでよくわからない。)

レスキューレメディーは最初の1本(20ml)が最大の山場であり、そこで改善しない場合、普通に西洋薬や漢方薬などを考えた方が良いように思う。不登校系の子は2本目に行く前に完全に良くなるか、全然よくならないかのどちらかである。1本目でほぼ無反応の子供は、もう少し柔軟に対応した方が良いと思う。

いつか、エントリでもアップした「魔法の薬」の子は既に治療をしていないが、現在、成績は学年1位らしい。しかも文科系のクラブで主将をしているという。また、発表会が校外で行なわれ立派にオーガナイザーをこなしたらしい。その子は中学校では1年間以上不登校だったので、大変な発展である。やはり高校は中学校よりは登校しやすいのであろう。彼女は不登校ではあったが、ひきこもりタイプではなかったのも大きい。なお、彼女はレスキュー・レメディーは1本くらいしか使っていない。(レメディーで体重が増えたと言う)

ここ最近だと、15歳未満の子供は同じようなタイプの2名を経験している。男の子はいわゆるADHD+ODD(反抗挑戦性障害)のパターンで、母親は僕の患者さんである。彼女はかなり長く治療しているので、その子供も発病前からよく知っていた(この言い方もちょっと変だけど)。母親は双極2型であろうが、行動面は境界型人格障害っぽい。

その少年はしっかりと相手を正視でき、概ね僕の話すことを理解する。だから、いろいろ障害はあるにしてもアスペルガーとは少し異なると思ったので、一度、専門家に診断を仰ぐことにした。

児童思春期の専門家の場合、患者が殺到することもあり、治療に十分な時間がとれなかったりする。彼の治療は僕がしましょうと母親には伝えた。

最初、紹介状を書いた時、診察は3ヶ月以上待たないといけないことを知り、唖然。

そんなに待っていたら、精神症状が変わってしまう・・みたいな。

最初、僕はこの子の精神症状は簡単に落ち着くと高をくくっており、あまり梃子摺るとは思っていなかった。

しかし当初の予想よりずっと治療が難しかったのである。ADHDは往々にしてODDを伴い、家族の手に負えなくなる。少年院はそのような子供達が集まっていると指摘する書籍もある(書籍「悲しみの子どもたち―罪と病を背負って」など )。その子も今通っている特別支援学級の担任を殺す殺すと毎回のように訴えていた。

しかし客観的に診て、実際にそういう風なことをする確率はずっと低そうなのよね・・しかし一般児童に比べれば、事故が起こる確率はやはり高いとは言える。彼は凶器のようなもの、例えばナイフなどに強い興味を持ち、それをなんとか手に入れようとしていた。

ここで重要なのは母親なんだと思う。

A4の紙に4ページくらいに書かれた彼の担任の手紙を読んだ時、その担任の男性教師はよくADHDや広汎性発達障害について勉強していると思った。特別支援学級でも広汎性発達障害への対応の歴史はまだ浅いので、まだあまりよく知らないで携わっている人も多いような気がするが、その担任はまんざら素人でもないと思えるような記述であった。(その子の学習中の動きの詳細がよく描写されていた)

子供は担任が嫌いなので、殺す殺すと言っているが、母親も子供と一緒になって担任に敵意を向けるの非常にまずい。

だいたい、子供のその担任に対する嫌悪感もリテラシーの問題が大きい。(普通なら嫌悪や殺意に至らないような些細な事件、言葉が原因になっているからである>>参考1参考2)担任の教師は実際によく勉強しているように思うし、

母親が担任の悪口を子供の前で言うのは良くない。

と伝えたのである。

担任にもたまには失言や失敗もありますよ。担任は彼のことをよく理解している。

といった感じである。母親が子供と同じような調子で担任に敵意を向けることは、つまり彼女はほぼモンスター・ペアレントであることを示している。まず円満な治療環境を作ることが重要と思う。

だいたい母親が担任や学校に怒りまくっているようでは子供の担任への怒りが収まるわけがない。母親の怒りは子供にも乗り移るからである。

そういえば、浦和レッズのかつての監督、ギド・ブッフバルトは試合中、いつも審判の判定苛立ち、いつも怒っていた。監督の怒りが大きいと、選手も審判に敵意がむき出しになり、イエローカード+異議のためレッドカードを貰う。その結果、戦術の変更を余儀なくされていたのである。おそらく監督の怒りは選手にも乗り移るのであろう。ただギドの場合、ある種のカリスマ性というか、求心力があったので、あんな風にしていてもトータルではそうマイナスではなかったような気もする。

そういう風に伝えると、彼女は概ね理解し、担任の文句を子供の目の前では言わなくなったし、僕の前でも言わなくなった。なんだかんだいって彼女も治療歴が長く信頼関係があるからである。

僕は当初はかなり緩やかな治療、例えばレスキュー・レメディーやカタプレスなどを処方してみたが、全く効果がなかった。

交感神経作動薬やブプロピオンなど賦活系の薬剤で治療してみようとしたが、そういう方法も話にならないことがわかった。エビリファイも散々である。

どうにもこうにもならず、デパケンRやセレネース液、オーラップ、セロクエルなどの薬物で治療する方針に変更した。ODDで怒りが爆発するような状況では、やはり鎮静系の薬のほうが安全だし速度も速い。デパケンRは最高800㎎まで使っている。

このように子供が深刻な状況だと、母親の精神症状はかえって安定する。何かに真剣に取り組まないといけない環境では、それなりに精神症状が落ち着くのである。彼女はかなりしっかりした「おかあちゃん」に変貌した。まさに戦時中にある種の神経症が減少すること、そのままである。

仔細に見ると、あれはごく軽度の躁転にも見える。トータルの体の動きはずっと機敏になり、こなせる仕事が相当に増加した。これは反応性のものなので、やがてうつ転するような気がしていた。

当初、その子にはデパケンR、セレネース液などの薬物はさほど効果的ではなかったが、副作用も嘘みたいに出なかった。これは興奮、敵意、衝動などが活発にある状況では、子供でもそれなりに薬物を受止められることを示している。つまりあの精神状態は統合失調症の緊張病性興奮状態とたいした変わりがない。また、やはり薬物は病期により相対的なものであることがわかる。

この子は不思議な結末を示した。ある日突然、ODDの部分が頓挫したように消失したのである。

そうして全く服薬など必要がなくなった。現在、彼は全く服薬していない。つまりADHDはあるものの、不適応がかなり改善している。特別支援学級には毎日登校し、主要5教科以外は普通学級で受けているようである。ADHD系の子はまだ「学校に行くこと」の敷居が低いと思う。

そうして、やっと専門医の受診の日がやってきた。その専門医の診断は、「高機能自閉症と学習障害(LD)」であった。

なんだか時期を逸し盛り上がらない経過である。日本では高機能自閉症とアスペルガー症候群はあまり区別されていない。しかし、あのような子はADHD的だとは思う。まあリテラシーの問題があるので、きっとコミュニケーションが自然でない部分はある。

いつだったか、その子と話していた時、「時計職人になりたい」という話が出てきた。たぶん、手巻きや自動巻きなど高級時計の職人であろう。個人的に、特別な興味を持つタイプの子供は、このように特殊な仕事はまだ適応できそうな気がする。彼は自分のできそうな、あるいはできるかもしれない仕事を希望しているのが好感が持てる。(何らかの目標がある方がないよりは良い)

ただ、そこまで行く道のりが険しいのである。

広汎性発達障害の人たちは、ひきこもりタイプより、このようなまだ登校もし対人関係を避けないタイプの人はより期待できると思う。入院治療の効果も上がりやすい。ただ、彼は入院治療はせずに外来だけで治療している。(これはもう入院させよう、と何度思ったことか。)

彼のADHDの症状が脳の成熟とともに自然の経過で改善傾向になれば、将来は期待できる。(予断は許されないと思うが。)

ただ彼のこの臨床経過は偶然性が高いと思っていた。

しかしそうでもなかったのである。

子供の不適応状態が急速に改善すると、テンションが下がったのか急に母親の病状が悪化した。これは緊張の糸が切れたような感じだろう。その後、緩やかに彼女の精神症状は改善し、今は彼女の以前の安定した状態まで回復している。

彼女とその子供の精神症状は、

まるでシーソーのようだ。

と思った。

なお、この子はその後、進学を決めた(入学試験に合格したと言う意味)

参考
魔法の薬
魔法の薬、その後
魔法の薬、受験
統合失調症っぽくない妄想
器質性うつ状態と広汎性発達障害