なぜか、薬の質問をされないという話 | kyupinの日記 気が向けば更新

なぜか、薬の質問をされないという話

僕の患者さんは、なぜか薬について詳しくは聞かない。本当はもう少し聞かれても答えてあげられるのに、あまりそのような人がいないのである。

これは、最初よく説明しているから、それ以上聞かれないのでは?

と思うかもしれない。ところが、それほどではない。もちろん説明しておいた方が良いと思うものは説明する。例えばラミクタールの重い中毒疹など。(参考

しかし、中毒疹なんてあらゆる薬にありえるわけで、普通は薬を飲んで湿疹が出たら止めておくようにと初診時に言う程度である。それ以降はそこまで几帳面には言わない。

向精神薬なんて、悪性症候群や突然死の可能性に至るまで説明してしまうと、誰も薬を飲まなくなるところがある(参考)。また多少体重増加がありうる薬もそうだ。やり過ぎは、精神科ではヤブヘビになるのである。

うちの病院に初診して、1~2週間以内に極端に良くなることがある。どこの病院に行ってもうまくいかなかったのに、突然良くなるパターンである。それも最悪な期間が10年を超えていたりするので驚く。そんな時、予想もしないような処方だったりすると、

院長先生は、すごく薬に詳しい人ではないですか?

とか、

あんなに詳しい先生は珍しいですね。

と言われることがあるらしい。外来婦長からそう聞いた。ただ、これはある程度、精神科通院があり予備知識がないとわからないのではないかと思う。15年以上ずっと悪かったのに、ほんの数週間で完全に良くなったりすると、

あの15年間はいったいなんだったんだろう。

とか、

今の自分は夢のようです。

などと言われたりする。「あの15年間は無駄に失った」と言った人もいる。また「院長先生に会わなかったら、僕は自殺していました」と言った人もいた。本人の実感だけではなく、家族や友人の感想のこともある。

たまに大学病院(特に他県)の偶然の紹介で治療することがあるが、圧倒的に改善することが多い。大学病院からの紹介はそう多くはないが、一般的な転院の場合、改善するか悪化するかで言えば、以前より97%のくらいの確率で改善している(本当は99%と言いたいが、このくらいだと思う)。たまにオーベンから紹介されることもある。

精神科の場合、大学病院の治療がたいして上手くないのは意外に知られていない。

これは過去ログにも触れているが、精神科ならではと思う。大学病院は相対的に臨床経験の少ない人たちが多いことと、研究機関であることも大きい。

転院してきた人は以前の病院にたまたま遊びに行った時、あまりに変わったので驚かれることがあるらしい。この話を聞いた時、なぜ以前の病院に行ったのか逆に聞いてみた。その患者さんによると、入院中の友人の面会に行ったという。

たいていのパターンは、単剤治療を多剤に変更して良くなっていることが多い。変な話だが、結果的にそうなっているのである。ただこの場合、服薬する錠数が増えているだけで本来の意味の多剤併用とは異なる(抗精神病薬をむやみに併用していないという意味)。元々の薬はコントミン換算で二分の一以下になっている。整理しつつ、効果を分散するといった感じだ。この方が保護的なのである。(←意味不明)

ある患者さんは他県の大学病院からの紹介だったが、エビリファイが24㎎ほど単剤で処方されていた。来た時は、ひとめ統合失調症ではないと思ったが、統合失調症と診断されていた。まあこれはこれで安定はしていたと思う。

しかし空虚なのである。情緒がまるでなかった。

その後、まずリボトリールなどを併用し、いろいろ試行錯誤していたらエビリファイ6㎎まで減量できた。エビリファイは鎮静的ではない薬剤であるが、24㎎くらいを、まして統合失調症でない人に継続して使っているとやはり鎮静的になる。

その後、思い切って抗うつ剤を併用して治療しているが、今では見違えるようである。特に、家族、特に姉妹などが驚いているらしい。表情が断然、生き生きとしているからである。今なら、誰も彼女が統合失調症とは思わないであろう。まともな精神科医なら。

ただ彼女は服薬する錠数が3倍以上に増えてしまったと笑っている。そりゃ、エビリファイ24㎎だけだと2錠で済みますし・・

幻覚妄想があるだけで統合失調症と診断するのは、能がなさ過ぎる。もちろん、陰性症状があるように見える場合も同様である。

ごく最近、半年以上さんざん悪い状態が続き他の病院に長期入院中であったが、うちを希望して転院した女性患者さんがいた。

彼女は、たった2週間で寛解した。厳密にはごく軽度の2型躁転した感じだった。その後、薬を減量し速やかに着陸態勢に入った。このプチ2型躁転は1週間も続かなかったので、まさに神業である。(←自分で言っている)

彼女がうちに来た理由は、10年くらい前にうちに半年間ほどの入院をしており、本人が希望したらしい。これを見ても、どこの病院でも同じ結果にはならないのがわかる。

ある日、彼女がデイルームで他患者さんと話していた時、声をかけてみたら、

この病院には神様がいるみたいです。

と言った。これもやはり2型躁転的な言葉なんだと思う。その時、隣の女性患者さんも「そうそう!」と言ったので、その辺りの人がどっと沸いた。その彼女も長く他の病院に入院していて、うちに転院して生まれ変わったように良くなっていたから。

ひょっとしたら・・この病院は、風水が良いのかもしれない。

と答えた。寛解した後、ちょっと興味が湧いたので、過去のカルテを引っ張り出し、前回どのような治療をしたのか詳細を調べてみた。前回も僕が治療しているからである。

工エエェェ(´д`)ェェエエ工

ちょっと驚いた。前回は全く違うやり方で治療していたのであった。それも、今なら思いつかないような薬物治療である。やはり、そのくらい前だと僕の精神疾患の考え方や薬のラインアップも若干、違いますしねぇ・・

しかし、前回も治り栄えみたいなものはかなり良かった。今考えても、なぜあれで良くなったんだ!と思うほど。

実際、シンプルな処方で退院している。ところが前回と同じような経過なのに、今回は全く違うことを考え、違う処方で寛解しているのである。今回は、特に幻覚妄想やうつ状態の消失があっと言う間であった。彼女の治療がいつもうまくいくのは、ウェールズの人だからだと思う。(参考1参考2

今回の方が遥かに短期間で寛解しているので、これは徐々に治療が上手くなっているかも?と思った。(詳細をアップするとしたら、前回の方がずっと物語性がある。アップしないけど。)

オーベンから紹介された女性は最初の数ヶ月は絶望的だった。あまりに手こずっていたため、ひょっとしたら彼女はあのまま歩けなくなるか、拙くすると亡くなるのではないかと思った。たいして効果的な手が打てないまま、半年も浪費した。あまりにも光が見えない状況である。

急回復し始めたのはここ2ヶ月ほどだ。今や彼女は自力で歩けるようになり、もうすぐ退院である。体感幻覚、幻視、亜昏迷、その他の奇妙な異常体験が消失したのである。今の状況は僕でさえ、2ヶ月前には予想できなかったほどだ。

彼女の治療のポイントはある日、このままプラスの方角にだけ進もうとしたら、かえって良くないのではと思ったこと。ある時、発想を転換して、客観的には悪手に見える手を打とうと努めたのである(彼女の場合、主な悪手は2つある)。このようなアイデアは過去ログでも断片的に出てきている。

だから、彼女の治療は凡人には到底、無理だったであろう。

患者さんが予想もしないような処方、治療法は、最初に少しは説明しないと不審がられる上、いきなり芳しくない経過になった時も困る。(←序盤に出遅れる感じになるのでなおさらそう見えかねない)

だから奇妙な処方であればあるほど、ある程度の説明を要する。到底理解しがたいものは、概略だけ説明し信頼してもらう。本当は一部はブログも参考にしてもらえば手っ取り早いのだが、そういうわけにもいかない。(実は予想もしない処方の人より、普通に治療して良くなっている人がずっと多い。過去ログの通り)

このブログの読者数は、既に1000人を超えている。よくもまあ、これだけの人たちが付いてきてくれていると思う。

実は、アメブロメールで相談される患者さんはけっこう広汎性発達障害系の人または家族の人たちが多い。よく僕が軽微な器質性疾患と呼んでいるような人たちである。最近のエントリは比較的、そのようなニーズに沿っているものになっている。

このブログの登録された読者の方の中には、恐ろしいほど、うちの病院の近所に住んでいる人もいる。(ブログを読んでも、どこに住んでいるのかわからない人が多いが、アメブロメールで○○に住んでいると書いてあったりするので、時に唖然とする)

なぜうちの病院に行きつけないかと言うと、「家が近いのでうちの病院に来てみなさい」なんて決して言わないのと、なんだかんだ言って、精神科病院やクリニックが多いからなんだと思う。みんなどこの病院が良いかなんて、全然わかっていないし。(参考

もちろん、知名度がないのもある。(笑)

今日のエントリは「おめでたい人」風に書いてみました。(こんなことを自分で書く人は普通、おめでたい人のことが多い。今日のエントリは、恥ずかしくて普通は書けないレベル)。