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2009-11-23 19:53:53

『ダヤンのおかしな国のお菓子の本』

テーマ:絵本・児童文学

ダヤンの物語の中でも、これはとても楽しい一編だ。
なんといっても、この物語の中で、ダヤンは、ほとんど世界一周旅行をしてしまう。
もちろん、その中にアルスは含まれないが、おなじみタシルの町からカシガリ山、魔王の城に浮島バルバーニャ島、ほほえましい恐竜たちのいるドラゴン・ベイなどを経て、ジャングルを通り、サウスの町から南の島まで。
そして、その全ての行程に、おいしそうなものがついてまわるというわけ。

絵本の好きな人、猫の好きな人、おいしいものがすきな人、みんな楽しめる。
このうちどれか2つ以上がすきならば、2度(または3度)おいしいという仕掛け。
いいねえ!

魔女が景気を占うためにケーキ占いをするという、冒頭のシーンにも思わず笑ってしまうし、全員で歯磨きしている恐竜の絵はなんともおかしく、面妖な白黒戦争。
しかし、私がなんといっても好きなのは、3頭のトロピカルなライオンたちだ。
なんとものんきでいい加減。
のんびりとしたライオンたちがダヤンにごちそうしてくれるトロピカルジュースも実にうまそう。

そして巻末には、登場するおいしそうなもののレシピもしっかり載っていて、どれもそれほど難しくなさそうだ。
フライパンでできちゃう、おいしそうなケーキもあれば、寒い冬には絶品になりそうな焼き林檎の作り方もある。
最低限、ジュースなら誰でも作れるはず。
たぶん……。
2~3種類の飲物をまぜて、何か飾るくらいなんだから。

え? 甘いのはちょっと?
ビールのつまみにもなりそうな、サモサの作り方なんてのも載っていますぜ。


ダヤンのおかしな国のお菓子の本 (中公文庫―てのひら絵本)/池田 あきこ
2000年11月10日初版
2009-11-22 20:35:07

『インド・ネパール・スリランカの民話』

テーマ:神話・伝説・民話

インドと簡単に一口でいうけれど、世界地理を勉強したなら、インドの公用語が、めっちゃたくさんある事を知っているはずだ。
公用語がたくさんあるということは、その数だけ違う文化があるということだ。
まあぶっちゃけて言うと、インドという国は、アメリカ合衆国なんて目じゃないほど、凄い多民族国家なのだ。
しかも、それらが渾然一体となっているのではなく、おおざっぱに言うと、地方によって全く違う。
いやいや、インドを旅行した人に聞いた話では、極端な事を言うと、隣町までいうと、もう違う言語と違う文化なんてこともけっこうあるそうだ。

とはいえ、インドは古くから文明のあった土地柄であり、さらに口承文芸が盛んな土地柄でもあり、文字も古くから発達していて、世界でも類を見ないほど、多数の説話集が残されている。

そんなインド一帯で採取された民話を、ジャンルごとに、幾つかの地方のものを並べて編纂してあるのがこの本。

そもそもインドは北と南でも全然違う、というのは、ほら、北側は高地で、山がちで、南側は海沿いで島嶼もある、そういう国だからだね。
暑いところは亜熱帯なみ、寒いところは、うん、まあ、ヒマラヤがあるからね!
口にするまでもないだろう(しっぽしゅっ)。

多様な土地柄に多様な民族が多様な言語(そして文字)を持って住んでいる、
確かに、本書に紹介されている民話は、実に豊かだ。

全く馴染みのないようなものもあれば、別の国の民話で読んだ事があるようなものもある。

しかし、いずれの民話にもおおむね共通しているのは、「憎悪や復讐は何も生み出さない、慈悲を忘れてはならない」という思想が背景にある事だろう。
うん、さすがは仏教を生み出した国。
神々を大切にし、誓いを守り、親に孝養を尽くし、そしてなにより、仁慈ということを大切にするのが、亜大陸と言われるほど広大なインドに住む人々に共通であるようだ。


インド・ネパール・スリランカの民話
1998年7月31日初版
2009-11-21 19:04:58

『桃太郎伝説殺人ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉

テーマ:ミステリ

ST第3シーズン、伝説シリーズの2巻目は、桃太郎。
絵本や童謡でおなじみのあの桃太郎さん、1巻の為朝伝説とはうってかわってメジャーどころが来たわけだが、実はこの桃太郎、卑弥呼と邪馬台国ばりに、日本全国、「うちが桃太郎の本場!」と主張するところがある、らしい。

考えてみると、これはちょっと不思議だ。
だって卑弥呼朝のような、史書に登場する、歴史上実在した人物ではないよな。
桃太郎は、あくまでも、御伽噺の登場人物のはず。
だから、桃太郎ゆかりの地なんて、あるはずがない……。

では、なんの根拠で桃太郎はうちが、となるのか?
桃太郎だから、桃が名物の。うーん、桃の名産地っていつ頃から?
黍団子を使うから、吉備の国。
むむ。しかし、黍って吉備の国以外でも作っていたのでは?

しかし、もう一つ大きな根拠がある、と「吉備の国」は主張する。
それは、鬼に由来する史蹟が残っている事だ。
桃太郎とか鬼に興味のある人なら、比較的知ってる確率が高いんじゃないかと思うが、ここには、温羅という名前の鬼に関する伝説があって、この鬼が、桃太郎と対決したあのの医だと言われているのだ。

さて、エキセントリックなSTのメンバーがアプローチするのだから、切り口はいろいろな「科学的」見地から、という事になるのだが、謎解きそのものは、伝説の正体に大きく絡んでいく形となっている。
舞台が今回は吉備の国、すなわち岡山県なので、あくまでも岡山県での桃太郎という事になるが、
桃太郎とはいったい何者なのか?
温羅とは何者だったのか?

うん、温羅が「桃太郎の鬼」であるなら、当然、温羅を征伐した人が桃太郎。
ちょっと逆算っぽいけど、そうなる寸法だ。
温羅が渡来人であるという話、朝廷と地方との対立、その大きな原因である採鉱権。
「伝説」についてそう解き明かしながら、それがどのように、現代に発生した犯罪とつなげるのかは、作者の腕の見せ所だろうが、STというシリーズが、どういう性質を持っているかを考えると、こういった「伝説」に絡んだ時、彼らの特技はあくまでも小道具になってしまい、いまひとつクローズアップされにくいような気がする。
もちろん、物語としては面白いし、一気に読めてしまうのだが、その点は、シリーズを通して読んだ時、ちょっと残念だ。


ST桃太郎伝説殺人ファイル (講談社ノベルス)/今野 敏
2007年12月6日初版
2009-11-20 19:04:14

『鹿鼎記 (4) 二人の皇太后』

テーマ:冒険・アクション

小宝というのは、ちゃらんぽらんな奴、と設定されているのだけれども、そのせいかなにか、やたらと本作には美女も美少女も登場する。
清楚な美少女もいれば、ツンデレな娘もいるし、かと思えばちょっとヘンタイっぽいのとか、あるいはあだっぽいお姉さん、妖婦に毒婦、枚挙に暇がないと言ってもいいほどだ。

面白いのは、その女性の全てが、小宝よりも武術に長けているという事と、そのためにしばしば小宝がひどい目にあわされるという事と、それにもかかわらず小宝が、「この子こそおいらの嫁さんに!」とその都度言ったり思ったりする事だろう。
私は今のところ、けなげな小間使いの双児がお気に入りだが、今回は、さすがの小宝も、「これが本命?」と実感する美少女が登場する。

また、舞台は少林寺と五台山が中心となるのだが、例の十八羅漢をはじめ、真面目すぎるほど真面目な少林寺の僧だの、前巻から引き続き、あまりにも無骨な前皇帝の師弟やら、悟りすましてつかみどころのない師父やらが登場し、同性のキャラも実に彩り豊かで楽しい。

もちろん、敵役も、新たにチベットのラマ僧が登場するし、誰の味方ともわからない白衣の尼僧は康煕帝を襲うし、ほんとにもう、男も女も「万雄割拠」な感じだが、そういう、ひとくせどころか百癖くらいありそうなキャラを、綱渡りとはいえ、手玉にとり続けるのが、ちゃらんぽらんな小宝なのだ。
そして、もちろん、この物語の痛快さは、そこに根ざしているわけだ。

また、何はなくとも友達づきあいを大切にする小宝、どんな小狡い事をやろうとも、そこが大きな人徳と見えて、正邪いずれのグループに入る事になろうと、必ず(邪の場合は危地を脱して)大いに引き立てられるのだから、幸運児の名も、ここにきわまれりと言うべきだろう。


鹿鼎記〈4〉二人の皇太后 (徳間文庫)/金 庸
2009年3月15日初版
2009-11-19 14:50:12

『為朝伝説殺人ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉

テーマ:ミステリ

源為朝といえば?
……うん、馬琴が書いた『椿説弓張月』だ。
しかし、それ以外の為朝っていまいちイメージが浮かばない。
やっぱり、源義経とか源頼朝とか源義仲とか源義経とか義経とか義経とか……(略)。

え?
うん、読みましたよ『椿説弓張月』
だいぶ昔だけど(汗)。
再読してないけど……。

と、いうくらい、印象がうす~いのだ。
(ていうか、義経とかの印象が濃すぎなのか?)
しかし、つらつら考えてみると、珍しくもこの為朝という人は、海で活躍した人と言える。

ゆえに、本作でも、日本のあそことかこことかの、為朝伝説が残る島が舞台になっているのだ。
一応ね。

たとえば伊豆大島。
そして、奄美。
日本の海でも暖かいところで、ダイビングの好適地でもあるので、今回の為朝伝説には、ダイビングもからんでいる。

そう言うと、すわ、お宝が海に!(ざぶ~ん!)
という気になってしまうのだが、全然そういう事はないのだった。

ここで思い起こさなくてはならないのは、今野敏という作家が、テレビと(広い意味での)アイドルを好んでとりあげる作家だという事だ。
今回も、テレビ局と下請け制作会社、盛りを過ぎた女子アナや女性タレントが辿る運命などが、物語には大いに絡んできていて、存続を危ぶまれるバラエティ番組と、殺人事件が絡むという事になるのだ。

つまり、ある意味、今野敏の本領が発揮されている作品と言えるはずなのだが、
う~ん、為朝伝説……。

これは、ST第3シーズンの封切り作品なのだ。
なのに、為朝というセレクトはどうなのか。
しかも、「伝説」がついてしまうと、どうも、物語に浪漫というか、伝奇的な部分を求める気持ちが最初に働いてしまい、それが、読了後、一抹のもの足りなさとなってしまうのだ。


ST 為朝伝説殺人ファイル<警視庁科学特捜班> (講談社文庫)/今野 敏
2009年7月15日初版
2009-11-18 20:45:37

『鹿鼎記 (3) 五台山の邂逅』

テーマ:冒険・アクション

五台山。
この地名で、日本の、中国モノがすきな人は、大抵これを思い浮かべるよな。
魯智深。
そう、花和尚魯智深、『水滸伝』の中でもインパクトの強いキャラクターの一人だ。

今回はその五台山が中心となって話が展開する。
康煕帝と天地会の間で綱渡りをする小宝、彼はもともと、ノンポリだし、まだ子供でもあるので、「満州人憎し!」と息巻くほどでもなく、宮廷で知り合った、康煕帝や、それなりに人の良い皇族や武官などを色眼鏡で見る事はしない。
また、武術ができるわけでもないので、たとえなりゆきで天地会の幹部になったとしても、江湖の好漢なり、と肩肘張る事もない。

ちゃらんぽらんでいいかげんだけれど、その悪童ぶりは、そうだなあ、たとえていくと、少年版ルパン三世みたいな感じかと思う。
妖しげな経本と莫大な財宝の言い伝えが物語に絡んでくるところなども、そういう雰囲気にぴったりだ。
ある意味、ジュヴナイルの基本でもあるかも。

ところで、五台山にはなんと、少林寺の十八羅漢などという人々も姿を見せる。
うぅぅ~ん、五台山と少林寺。
この顔合わせって、かーなーり、こたえられないと思うが、どうかな。
また、どう考えてもメインキャラではないと思われるこの十八羅漢が、すっげえかっこいい。

私は、この長編をとりあげるにあたり、第1巻の紹介で、これは武侠小説ではない、と書いた。
ゆえに、小宝「以外」の人々が、いかに凄い武術を使ってみせようとも、小宝自身がほとんどなんの修行もしないのだから、それらは、どうしたって、添え物にしかならないのだ。

添え物なら、添え物でもいい。
十八羅漢はまさしく「添え物に徹した」かっこよさを見せてくれるのだ!


鹿鼎記〈3〉五台山の邂逅 (徳間文庫)/金 庸
2009年2月15日初版
2009-11-17 22:01:01

『民話で知る韓国』

テーマ:神話・伝説・民話

正直に言うと、以下の点が理由で、読むのがしんどい本だった。
それは、著者が意図してのものなのか、著者幼少の頃の教育などからくる無意識のものなのかは知らないが、なんでもない文脈のはしばしに、「韓国には××がある(良いこと)」、「日本にはこれこれがない、またはこれこれをよく見かける(いずれも、悪いこと)」が登場し、ことあるごとに韓国を日本の上に置こうとする韓国人の「お国意識」が滲み出ているところがあるからだ。

かえって、これが、政治的な主張をしている本ならどうということもないが、そういうものとはなんら関係のない民話の本として読む時、いくらさりげなく(いや、考えようによっては露骨に)はしばしに登場するだけとしても、非常に鼻につく。
そればかりか、その時テーマにしている事とはほとんど関係のない、「言わんでもいいような事」を日本についてあてこするシーンすらあるのだ。

まったくもう……。

もっと素直に語ってくれないものだろうか。

というのは、本書におさめられた民話の数々、著者が幼少のみぎり、自ら聞いた民話を収録している、しかもなるべく著者自身による潤色をおさえたという事なので、それがとても貴重だと思うからだ。
著者自身が主張しているように、原語である韓国語で聞いたら、リズムがもっと面白いだろうと思うけれども、日本語で書かれていてもなかなかリズミカルで面白い。

日本では鬼や天狗、カッパ、狐など何種類かの「異界の存在」がするような事、ヨーロッパなら、人間の住まいに近いところにいる何種類もの妖精がするような事を、朝鮮半島では、どうやら、トッケビひとりがになっているらしい。
打ち出の小槌にも似たパンマンイという棒を持ってたり。

また、この本では、民話に加えて、著者自身が韓国で経験した事をエッセイのようにつづっているため、このパンマンイについては更に面白い事も書かれている。
それは、韓国の日常の暮らしの中で、いろいろな「棒(これらもパンマンイと呼ばれる)」が使われてきたこと、居酒屋などで飲み騒ぐ時、多くの韓国人が、箸で器物を叩いてもりあがること、台所用品などを打楽器がわりに使うパフォーマーの集団がある事などだ。
つまり、単に、打ち出の小槌に煮たパンマンイという呪宝があるというのだけでなく、棒で何かを叩く(そしてそこから歓びを得る)という事が、日常に浸透していると語っているわけだ。

なかなか、面白いだろう?
そういえば、箸で碗などを叩く事は、日本では行儀が悪いと言われるね。
また、飯茶碗を手に持って食べる事が日本では行儀がいいと言われるが、逆に韓国では行儀が悪いと言われるのだそうだ。
隣国であり、かつ、似たところがたくさんある国だと思っていても、実は、どうして、真逆の事も、た~くさん、ある。

しかし、韓国の人が熊に親しみを感じる事は、日本列島の文化の一部に通じるし、実はこの熊への親しみは、日本と韓国(ていうか朝鮮半島)だけでなく、広く北アジアに共通する文化的モチーフでもある。

もうひとつ興味深い要素として、朝鮮半島では、そりゃあ虎(ホランイ)が民話のアイドルになっているのだが、これは、虎が崇められr尊重される北アジア文化圏でもちょっと珍しいと思う。
韓国民話での虎は、日本ならば、山姥にあたる役割なども担っている。(これがロシアに入れば、ババ・ヤガーがかわりに登場する事になり、こちらも鬼婆だね)。

それは、半島であり、かつ山がちな部分も多く、虎が棲息する北アジアの他の地域に比べて、虎が人間の領域に入って来やすい(また、人間が虎の領域を侵害しやすい)という事情が影響したのかもしれない。

しかし、虎が好まれる一方、韓国では猫が好かれないそうだ。
逆に、日本では(樺太のアイヌには虎が登場する民話があるようだけれど)虎がいないためか、猫が人気。
民話にも登場する。
そして、中国北部には、虎と猫にまつわる民話もあるな。
そこでは、猫が虎に木登りを教える先生だが、肉体的には虎の方が強いので、智慧でその一歩上をいく事になっている。

いずれにせよ、韓国の民話に登場する虎は、他民族の民話や伝承に登場する虎と比べ、より人間的で愛嬌もあり、ちょっと滑稽ですらある。
それだけ、虎に親しみを感じているという事なのかもねえ。

ともあれ、冒頭に述べたような部分さえ気にせずに読み進むなら、なかなか面白い民話集であるし、新書などで基本的にすぐ読了できるはずだ。
うん。できるはず……!(笑)


民話で知る韓国 (生活人新書)/ちょん ひょんしる
20064月10日初版
2009-11-16 20:03:36

『鹿鼎記 (2) 天地会の風雲児』

テーマ:冒険・アクション

サブタイトルはいかにも金庸の武侠ものっぽく「天地会の風雲児」などとちうているが、どうしてどうして。
小宝は、ぜ~んぜん、風雲児なんかではない。
なぜって、まず第一に、彼はなんら天下に対して野望も理想も抱いてはいないのだ。
武術はからっきしだし、文盲だし、いかさまサイコロは使えるが、それだって天才的にというわけではないらしい。

しかし、運は凄くいい。
危機一髪のところを持ち前の機略(または、小ずるさ)で切り抜けるのだが、そこにはだいぶん、運も寄与しているのだ。

ところで、運というのは、ちょっとやそっといいくらいでは、ぜんぜん物の役に立たないと言ってもいい。
あえて言うなら、運というやつは、あくまでも、味付け、添え物、アクセサリーのようなものであって、決して、運だけで世渡りできたりはしない。
もし、それができるとするなら、そいつは、ほんとに、ものすご~~~~~く、突出して、運がいいのだ。
そして、小宝は、おそらく、この希なる運をもっているのだろうと思う。
だから、本巻のサブタイトルは、むしろこうつけた方がいいだろう。
「天地会の幸運児」。
とはいえ、皇帝の愛顧をたまわりながら、皇太后は小宝の仇敵のようなものだし、そもそも、小宝はニセモノの宦官なわけで、宮中での生活は一瞬一瞬が綱渡りだ。

おまけに、天地会の幹部にまつりあげられてしまった小宝、武術もできなければ、好漢となる素質もいまいちないらしく、こちらもかなりあぶなっかしい。
運命の指し示すところによって、小宝を戴く事になった青木堂の面々も、以来、ひやひやしっぱなしに思える。

この小宝、ほんとに小狡いのだけれど、そこは金庸の描く主人公なので、どこか憎めなく、
ある程度ずるさから出たものであるとしても、彼の気前の良さには、スカッとするところもある。

清朝の支配下において、漢民族がどのように苦しんだかというのは、かの国の純文学などでもとりあげられたテーマなわけだが、苦しんだ~大変だった~辛かった~、という描写よりは、この小宝のように、満州人と表面的には友誼を結び、おいしい思いをし、裏では彼らのカネを思うさまふんだくり、パーッと使って気前のいいところをみせるという方が、やっぱり楽しい。
それでいて、「この頃、漢民族は異民族の支配に苦しみ、主権奪回の希望に燃えていました」という雰囲気も、濃厚に伝わってくるのだ。

一方、本巻からは可憐な少女も顔を出し、物語はペースを落とさず、佳境に入っていく……!


鹿鼎記〈2〉天地会の風雲児 (徳間文庫)/金 庸
2009年1月15日初版
2009-11-15 19:49:41

『黒の調査ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉

テーマ:ミステリ

ST5番目のメンバー、黒崎。
この男は無口だという設定になっていて、実際、ほとんどしゃべらない。
しゃべるのは、主に青山と緑の担当となっているかのようだ。

第一科学担当、人間ガスクロ、そして武術の達人。
彼の弱点は、先端恐怖症だという。
しかし、その症状が作中に登場した事はなく、過去の事として語られたりもしなかった。

どうもなあ……。
印象が、薄いのだ。

これは、黒崎が、「しゃべらない」から、なのだろうか。

しゃべらないと、何を考えているのか、まわりにはわからないからな。
勿論、読者にも。

しかし、かろうじて本巻では、黒崎が中心となるだけに、彼の、武道家らしい存在感というのが伝わってくる。
事件の解決に、どう活躍するのかといえば、しゃべらないだけに……実は、黒崎と関わる人々が具体的に動くのであり、ここでも、黒崎が率先して動くという事がない。

なので、正直に言うと、やはり、この巻は、STシリーズ中、もっとも印象が薄い。
事件の発端が、ワンクリック詐欺だったり、黒社会の勢力争いが出てきたり、仕掛けは面白いんだがなあ。


ST警視庁科学特捜班 黒の調査ファイル (講談社文庫)/今野 敏
2007年5月15日初版
2009-11-14 21:43:44

『緑の調査ファイル』〈ST警視庁科学特捜班〉

テーマ:ミステリ

電子楽器と違い、アコースティック楽器というのは、楽器の製作者によっても、演奏者によっても、大きく音が違ってしまう。
アコースティック楽器のうちでは、高度に機械的なピアノですら、メーカーによって音色が異なる。
これがまた、ピアニストによって微妙に異なる音を出すわけだ。

あたりまえな話だが、これって、楽器の構造がシンプルになればなるほど、差が大きくなるのだ。
ヴァイオリンなんて凄いぞ?
極端に聞こえるかもしれないが、はじめたばかりの人がストラディバリを弾いても、猫が絞め殺されるような音しかしないだろう。
逆に、一流のヴァイオリニストであるなら、1棹3万円程度の安ヴァイオリンでも、「えええ~?」というような、素敵な音が出せる。

ならば、一流のヴァイオリニストが最高のヴァイオリンを弾いたら?

聞きたい。
そりゃ、クラシックのファンなら是非とも聞きたい!

この事件は、物理担当であるという以上に、まず、「聴覚が異常なほど鋭い」という特徴を持つ翠がメイン。
彼女の耳と、このシチュエーションが組み合わさるのだ。
しかも、青山はまあともかくとして、「あの」野暮ったい菊川が実はクラシックの大ファンというのは、面白い!

犯罪としては、まず、ストラディバリの奇妙な盗難がきっかけとなる。
勿論、その後、殺人事件なども発生していくのだが、翠と、音と、そしてヴァイオリン、オーケストラ、この組み合わせがいい感じなのだ。
しかも、あまりにも名高く、ともするとマスコミにはその「値段」と「知名度」だけが注目されてしまうようなストラディバリを使用する事の意味が、犯罪の動機について大きく影響している事は注目に値するだろう。

うん、いい音だよ、ストラディバリは。
しかし、その金額だの知名度に言及されると、どうも苦々しい気分になるのも否めない。
素晴らしいヴァイオリンは、他にもある。
時々、思うのだ。
ストラディバリを所有している事、それを演奏する事で有名なヴァイオリニストが、他のヴァイオリンを演奏した時、どういう音楽を聞かせてくれるのかと。

また、そういうクラシックファンの「気持ち」だけでなく(その気持ちそのものは、凡人菊川がしっかりと語ってくれる)、
翠が、その「耳」から、この問題にもあるアプローチをしてくれる事が、ちょっと気分がいい。


ST警視庁科学特捜班 緑の調査ファイル (講談社文庫)/今野 敏
2007年2月25日初版
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