「フォーカス! 」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

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ライン拡大や多角化を否定し、とにかくフォーカスすべきであることを、これでもかというほど豊富な事例を用いて主張している。事例・事実はやっぱり説得力がある。「ポジショニング戦略」 との重複感は否めないが、こちらもお薦め。



フォーカスの事例で一番分かりやすいのは小売業界だろう。いまどき、百貨店やスーパーで家電、家具、おもちゃ、などを買う人は少ない。ヤマダ電機、ニトリ、イケア、トイザらス、のほうが品質も価格も品揃えも優位性がある。まさに、フォーカスしているがゆえの優位性である。
カジュアルウェアにフォーカスしたユニクロは時価総額でイオン・グループを上回っているし、紳士服にフォーカスした青山は日本で一番たくさんスーツを売っている。

ネットの世界も同じだ。Yahoo!○○というサービスはたくさんあるが、競争力があるのは検索とオークションとニュースくらい(まあ、これらを押さえていれば十分という見方もあるが)。ネットレイティングスのデータを見ていると、ショッピングは楽天やAmazon、掲示板は2ちゃんねると比べ明らかに競争力が落ちている。ブログはアメブロ、SNSはmixi、動画はYouTube、グルメはぐるなび、不動産はHOME'S、旅行はじゃらん、自動車はカービュー、がトップでYahoo!○○は大きく離されている。検索も先行きはわからない。楽天○○も「市場」以外は似たような運命をたどるだろう。

Yahoo!のブランドイメージは「Yahoo!=インターネット」だと思うが、インターネットが生活の一部として浸透していくにつれ、Yahoo!ブランドが曖昧になり、 Yahoo!ブランドの地盤沈下が進行している。

ヤフーや楽天はブランドや集客の競争力があるうちに、ポイントやアドネットワークで他社と連携し、いかに強力なエコシステム(経済圏)を作り上げていくかが当面のポイントであろう。

なお、小売業界では、専門店を集めたショッピングモールやアウトレットモールが人気である。これは、インターネットで言えば楽天市場ということになる。しかし、さらに上位概念として、Facebookなどのオープンプラットフォームが位置するのではないか。開放的でかつソーシャルグラフと結びつくことにより、インターネット上でより中心的な存在になる可能性がある。



以下、備忘録


■フォーカスの事例
・スターバックス  コーヒー専門店
・フットロッカー  スポーツシューズだけを売る靴店
・アムウェイ  「ユニークなマルチ直販システム」
・ボルボ  「安全性」
・BMW  「究極のドライビング・マシン」
・エンタープライズ・レンタカー  保険代車
・ハーレー  大型バイク
・ゼロックス  「普通紙」コピー
・フェデックス  「翌日配送」

■ライン拡大・多角化の失敗例
・ペプシコ  「ペプシ」「セブンアップ」「ピザハット」「タコベル」「KFC」など展開、しかし時価総額はコカ・コーラの半分
・IBM  ワークステーションやパソコンは別ブランドで展開すべきだった
・シュワルツェネッガー  タフガイにフォーカスしたシュワルツェネッガーが娼婦を演じた「ジュニア」は全くヒットしなかった

■うまくいったライン拡大
・ホンダ  「アキュラ」
・トヨタ  「レクサス」
・GM(の全盛期)  「シボレー」~「キャデラック」 5ブランドの価格帯明確化
・ヴァンドーム・ラグジャリー・グループ  「カルティエ」「ダンヒル」「モンブラン」など、"贅沢"にフォーカス
・ジレット  「トラックⅡ」「アトラ」「センサー」機能別ブランド
・P&G  「ジョイ」「アリーブ」「パンパース」カテゴリー別ブランド



人口50人の町に住んでいるとしよう。そこにはどんな小売店があるだろうか? もちろん、何でも売っている「雑貨店」だ。(中略)人口800万人のニューヨーク市に引っ越したら、どんな小売店があるだろう? もちろん、専門店だ。(中略)世界がグローバル経済に向かえば、企業はどんどん専門化せざるを得ない。 P.52-53

そもそも、「集合」は自然の法則に反している。(中略)進化の法則では、ひとつの種が分裂して新たな種が誕生する。だが「集合」の考え方に従えば、種はつねに統合し続け、やがて「ネコイヌ」のようなおかしな生物が誕生することになる。P.73

(25の業界を調査した結果) 70年以上経っても、業界トップから転落したブランドは5つしかなかった。25のうち20が、今も業界トップに君臨しているのだ。品質が業界トップの地位を築くのか、それとも業界トップという地位が高品質のイメージを浸透させるのか? 歴史をひもとけば、後者のほうが現実に即していることがわかる。P.137

ブランドには力がある。だが、二つのものにひとつのブランド名をつければ、そのブランド力は半減する。別々につければ、力は二倍になる。P.294

「我が社名は素晴らしい。他の製品に使えるはずだ。まだ十分に生かし切れていないではないか。この社名でライン拡大すれば、もっと儲かるだろう」と考えてしまうのだ。ドナルド・トランプも、IBMも、AT&Tもそう考えた。P322-3

蝶を指して「空飛ぶイモ虫」と呼ぶ人はいない。(中略)アナログ写真とデジタル写真は別物だ。コダック・デジタル・サイエンスは、まるで「空飛ぶイモ虫」のような名前だ。P.339

フォーカスとは、未来はどこにあり、それを実現するために具体的にどんなステップを踏むべきかを予測することである。その意味では、「フォーカスとは未来である」とも言える。フォーカスすれば、未来が切り拓かれるのだ。P.361


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