アメリカ大学院にApplyするとき気になるのがその待遇。これは大学院自体が気にしていることでもあります。大学院同士もどれほど良い待遇を与えられるかで学生を争奪しているわけです。

物理・天文系大学院の情報を知りたければ、American Institute of Physics(AIP:アメリカ物理学協会)という12万人以上の会員を擁する学会があり、そこが様々なPhysics, Astronomy に特化した統計調査を行い、その結果を公表しています↓
AIP: Statistical Research

様々なデータがあって、どれも興味深いのですが、例えば、Graduate education の Support の項目をクリックして、さらにその中のTypical Stipend を選ぶと、物理のPhDの学生がTA、RA、Fellowshipなどでどれぐらいの給料をもらっているのかがわかります。データが2006年で少し古いですが。

このAIPが理系大学院を目指す人のためのウェブサイトを別に作っていて、それがGrad School Shopperです↓
GradSchoolShopper

全米とカナダ、中国などの一部の理工系大学院の情報が検索できます。各大学院のInformation に飛ぶと、そこでFinancial Aid の情報なども得ることができます。

そして、2009年時点のデータをもとに、このウェブサイトに掲載されている165校の大学院のTA、RAの給料情報を集めて、表にしてくれた人がいます↓
Weighted Stipend Data by University

HappyQuark さんは全データを表にまとめるだけでなく、大学院ごとの給与を相対的に比較出来るように、各大学院がある場所のCost of Living Index(CLI:生活費指数、)をもとに、”その給与の実際の価値はいくらか”を算出しています。

つまり、同じ20000ドルもらうにしても、田舎だと広い家に住めて貯金も出来るだろうけど、NYのような大都会では狭い家で高い家賃はらってギリギリの生活をしなければならないかも知れません。そうすると20000ドルの価値は、田舎の方がNYより数倍も高いと言えます。

そういったことを考慮に入れるために、各大学院のCLIが仮に全米平均と同じだとしたら、その大学院の給料はいくらの価値に換算されるかを計算しています。地道な作業だったと思います・・・。HappyQuarkさんすごいです。

Excelファイルもあるので見て頂けると分かると思いますが、「Weighted Stipend by National Average TA/RA」が上で説明した値です。PDFファイルだと多い方から順に並べられています。

これを見て自分でも驚いたのですが、うちの大学院が165校中、TAランキングで12位、RAランキングではなんと1位です。マジか。

なんでうちの大学院だけRAの給料がこんなに高いのか全く謎ですが、他の大学院もおそらくFellowshipの形でプラスアルファで与えているはずなので、Totalはそれほど変わらないはず・・・と思います。

見てみるとわかりますが、ハーバードやMITなど、一流大学は給料そのものは1,2を争うぐらい高いですが、CLIも高く、その分生活にお金がかかるので、このランキングだと上位には入りません。上位に入っている大学院を見ると、US News Rankという大学院そのもののランキングでは比較的下位の大学院があることに気づきます。うちの大学なんてUS News Rank102位です。NA(ランク外)の大学も目立ちます。

US News Rankは大学院そのものの良さを表すのですが、ランクが下位の大学はやはり人気も低く、競争率も低くなるので、このように他大学より良い待遇を用意して、学生の確保を狙っている、というような話を聞いたことがあります。このデータを見る限り確かにそうであると言えそうです。

・・・・うちの大学、頑張れ(泣)
PhDコースも段階が進むと、研究室に所属して研究に従事することになります。このとき研究室の予算に余裕があればRA(Research Assistantの略)として雇ってもらえます。TAしながらRAをするというのも可能ですが、その場合、合計で週20時間(50% Appointment)に収まるようにしなければなりません。

再びうちの大学のホームページを見てみましょう→ UWM: Assistantship Information

下の方にスクロールしていくと Research Assistant Stipends という表があります。C-basisなので9ヶ月契約の表になっています。ちなみに給料のことStipendとも言うんです。アメリカ来て知りました。

去年まではRAの給料もTAと同じように学部に関係なく一律だったんですが、今年度から学科によって3段階に分かれました。これもどこかの大学による色々な大学院の給与に関するリサーチの結果だそうで、他の大学の水準に合わせようという意図があらわれています。

そして変更後ですが、Full-Time Rate(週40時間)で30000, 34000, 38000ドルとなりました。院生は最高で50% Appointment(週20時間)までしかもらえないので、それぞれ15000, 17000, 19000ドルになります。学科ごとにざっと見てみるとやはり文系学科は一番低い水準、物理を含む理系学科は一番高い水準となっています。

この辺り、あからさまに文系理系で差があるのがアメリカらしいな・・・と感じたりもします。。文系の院生の友人に聞いたらそもそも文系の院でRAをする人なんかいないみたいですが(予算に余裕がないので)。その点も、理系がかなり優遇されているのを感じて、文系出身の自分としては少し違和感を覚えたりもして複雑な心境です。。

閑話休題。

さて、このRAの給料ですが、TAの給料が大学から支払われるのに対して、RAは研究室の研究費から支払われます。ですので、その年に研究室のボス(教授とか何とか)がどれほど研究費を持っているかによって、研究室で何人RAとして雇うか、何%のAppointment で雇うかが変わります。

うちの研究室は比較的余裕があったので、去年まで自分はこの50%RAで雇ってもらっていたので、TAをする必要がなかったのですが、今学期からRAの給料があがったせいで、うちの研究室じゃそんなに払えないよってことで33%RAに格下げされました。。そして残りの17%はTAをしてまかなうこととなりました。

このようにその年によって、TAだけしたり、RAだけしたり、両方同時にやったりということになります。どの場合も合計で50%Appointment の契約になります。そして給料はそれぞれTA、RAのFull-Time Rate(100%)にその%分が掛けられた形で算出されます。

賞金・奨学金編 で書いたように基本的に院生の給料はみんな同じになるように奨学金の部分で調節されるのですが、RAはTAに比べてはるかに給料が良いので、50%RAやってる人は若干、TAやってるひとよりやや合計額で勝ります。9ヶ月で1000~2000ドル程度の違いですが。
TAの授業の準備やらで時間を割かれる必要もなく研究に没頭できるし、やはり理系学部では50%RAが一番魅力的です。
 
前の記事でTAの給料 を見てみました。TAの給料は、学部に関係なくどの院生もTAさえしていれば同じ額の給料がもらえます。

今回は理系、特に物理学科に限っての話です。

院生の給与水準というのは基本的に、その土地の物価、生活費用を考慮に入れつつ、全米の他大学の水準から大きく離れない程度に決められます。

物理学科を始めとして、一般的に理系学部はアメリカでは資金が潤沢にあります。なので理系の給与水準も他学部に比べて高めです。TAの給料は大学が独自で決めるものですから、その大学のTAの給料と全米の給与水準に差があれば何とかしてその差を埋めなければなりません。というのも、そうしないと学生が集まらないから、という切実な思いもあると思います。

うちの学科では給料とは別にScholarship(奨学金)とAward(賞金)がもらえます。別に何か特別に応募したり申請したりする必要はないので、奨学金・賞金というのはあくまで言葉のあやです。

うちの大学(UW-Milwaukee)の物理学科の場合、TAの給料と奨学金など含めて、9ヶ月間(春秋学期)の給料が合計で21000ドル~23000ドル(210万~230万円)程度の範囲に収まるように調節されます。

ですので、1年目のときは、前回の記事に書いたようにTAの給料が12000ドル程度しかありませんから、奨学金が8000ドル程度もらえました。ですがTAの給料が上がると、その分奨学金の額が減ります。ですので、実際は学年が進んでTAの給料が上がったからといって、毎年の給与にそれほど差は出来ません。ウハウハではないんですね、実は。

20000ドル以上というのは税金が引かれる前の額です。アメリカでは毎月Federal Tax(連邦税)とState Tax(州税)を払わなければなりません。その分と健康保険料合わせて年間2000ドル近く取られます。なので実際の手取りは200万円いくかいかないかぐらいです。それでも院生の身で自由に使えるお金が年間200万円もあれば生活には何も困らないどころか、年に1回日本に帰る飛行機代も全然まかなえます。贅沢しなければ、着実に貯金も増えていきます。

上記の奨学金のほかに、個々の実験や理論分野で優れた成果を出した人にはその都度1500ドルの奨学金がもらえます。うちの研究室の先輩が去年これをもらっていました。

アメリカでは大学院生は学生というよりむしろ社会人として見なされます。会社を辞めて大学院に戻ってきたりすることが比較的容易に出来るのがアメリカのシステムの良さだと思います。
アメリカの大学院の一番の利点は、何といっても待遇の良さ。アメリカの大学院では院生が授業を教えるシステム、TA(Teaching Assistantの略)、と呼ばれるものがあります。理系の大学院生の場合はほとんどみんなTAをしています。このTAをしているとなんと、大学院の授業料が免除になる上、お給料がもらえます。

そこで今回はこの気になるお金の話。「アメリカの大学院お金かからへんかからへんよう聞くけど、実際どんなけもらっとんねん。そこ教えてーな!」と思ってるあなた、お答えします。

様々なAssistantshipのお給料がうちの大学だとホームページで公表されています↓
UWM: Assistantship Information

TAの給料は一番上のTeaching Assistant Salariesの表です。上の注意書きにも書いているんですが、去年から1%アップしました。項目別に説明すると、まず横に見て、一番左列から

「C-basis(9month)」:
契約が一年通してだとA-basis(12 month)、夏休みを除いた春秋学期だけ(Academic year)だとC-basis(9 month)となります。B-basisは?と思うんですが、自分も聞いたことないのであるのかどうか不明です。。アメリカは夏休みが3ヶ月あるので、その部分を含むか含まないかでこのように契約が2種類に分かれます。TAは授業を教えるのが仕事なので、当然、授業のある9ヶ月の契約になります。(夏休み中のTAはまた別であります)

「Full-Time Rate」:
文字通りフルタイム(週40時間)で働いたときの給料です。これがベースとなってTAの学生の給料が計算されます。

「50% / 33% Appointment」:
院生は基本的に週20時間までしか働けません。ですのでフルタイムの半分、ということで50% Appointmentと呼ばれる契約になり、給料もフルタイムの半額になります。33%は、50% Appointmentがもらえなかったり、他のAssistantshipと併用するときの給料です。基本的にすべて比例計算なので、難しいことはありません。理系の場合は50%TAがもらえるのが普通ですから、この欄が実際TAをしたときにもらえる額です。


次に縦の項目を見ていくと、上から順に

「Non-Doctoral / Non-Doctoral Year 2」:
アメリカの大学院ではPhDコースに入学したからといっていきなりPhD候補生としては扱われません。前記事の「Qualifying Exam (資格試験)」なるものにパスして初めてPhDの学生として認められます。普通はそのExamが2年目にあるので、入学して1年目、2年目はまだまだ甘ちゃんのヒヨッ子扱いということで、Non-Doctoral(非ドクター学生)と呼ばれ、給料もちょっと低いです。

「Doctoral」:
見事Qualifying Exam にパスすると晴れてPhD学生扱いとなり、研究も開始できたりして、TAの給料も9ヶ月で1700ドルもアップします。ウハウハです。

「Dissertator」:
PhDコースにはいくつもの難関があります。PhD学生となった次は研究を進めて、その研究の正当性を教授陣の前で発表します。これをDefenseと呼びます。教授陣からの容赦ない攻撃(口撃?)に耐えるからDefense(防御)と呼ばれるとかなんとか・・・。これに見事パスするとPhD取得までもう一歩、あとはDissertation(学位論文)を書くのみとなります。この状態をDisseratorと呼び、お給料もさらに3000ドル、ドンとアップします。さらにウハウハです。


と、PhDコースの段階とともにTAのお給料が変わってきますが、9ヶ月で12000ドル~17000ドル近く、日本円に換算(1ドル=100円)して、120万~170万円程度です。

授業料が本来は春秋学期あわせて200万円以上するのが、それも免除になっていることを考えると、9ヶ月で320万円~370万円分の恩恵があることになります。

これだけ考えてもアメリカの大学院でPhDコースに入学するメリットがあることがわかって頂けると思います。

TAだけしているならこの額で終わりなのですが(実際に文系の友人はこの額しかもらっていません)、理系だとさらにプラスアルファのAssistantship があります。それについては次の記事で紹介します。
Wisconsin に来てもう4年。PhDコースも順調に行けば残り1年と半分ぐらいです。

今のところ研究はしているものの、なかなか思ったような結果が出なくて、論文が書けるほどには至っていません。しかし、うちの研究室では PhD Candidate (PhD候補生) となるための試験(Prelim)は論文を最低1本は出していないと受けれないのです。

なるべく早くに論文出して、来年にはPrelim を受けたいところ。そして順調に研究こなして Thesis(学位論文) 書いて Defense (最終弁論) 受けて、見事卒業といきたいところ。

卒業後の進路もそろそろ真剣に考える&探さないといけないです。

アメリカに残るか、日本に帰るか、それが問題だ。