『埼玉新聞』で、関根郁夫県教育長は県立高校の校長会で「担任がいないことに気付いた新入生や保護者から心配、不安の声が上がった」「生徒が安心して高校生活をスタートできる体制づくりと心配りに努めてほしい」と異例の“注意”をし、江野幸一県議(刷新の会)は「担任の自覚、教師の倫理観が欠如している。欠席理由を聞いた新入生たちの気持ちを考えないのか。校長の管理責任も問われる」と憤慨していると報道されています。
しかし、そもそも「教員は市民が一般に享受する一切の市民的権利を行使する自由をもち、かつ、公職につく権利をもたなければならない。」(ILO「教員の地位に関する勧告」)というのが世界標準です。佐々木亮弁護士の指摘は当然のことですし、これが教員に限っては通らないのだとするなら、日本は世界で当たり前の教員の権利を侵害する異常な国だということを証明するだけです。
そして、埼玉県の教育長は、「生徒が安心して高校生活をスタートできる体制づくり」が必要だと言うのならば、現在の教育現場が本当に生徒が安心して高校生活をおくれる場になっているのかどうかをこそ問題にすべきでしょう。
◆アルバイト代で学費や自分の生活費を稼ぐだけでなく、家計の援助もしなければならない高校生たち
◆100円ショップの50枚入り薬用オブラートで空腹をまぎらわす高校生たち
◆東京近郊の私鉄の駅前にある多目的トイレで寝泊まりする女子高生。彼女は午前6時から9時までコンビニのレジ打ち、午前10時から午後3時までファストフード店で働き、午後5時半から9時まで定時制高校の授業、その後、飲食店で深夜労働という過酷なトリプルワークをこなし学費と生活費を稼ぐ。時間がないので、駅のトイレで「1日に2時間眠れたらいい方」。
◆大阪の公立高校。修学旅行に行く2年生140人中、家庭の経済的事情で積立金滞納などによって20人が修学旅行を欠席。
――以上、過去エントリー「駅前トイレで寝泊まりするトリプルワークの女子高生、車上生活の園児、食事求め保健室に行列する小学生」からの抜粋です。こうした深刻な状況となっている子どもの貧困問題によって教育の機会均等が壊されているわけです(※参照→「日本のひとり親世帯の貧困は世界最悪、生活保護受給は世界最小、子どもの貧困を生み出す日本政府」)。教育の機会均等を破壊している現在の子どもの貧困問題の改善に尽力していないのならば、江野幸一県議(刷新の会)にこそ、「政治家の自覚、政治家の倫理観が欠如している」ということになると思います。
一方、教員の方は以下のような状況に追い込まれています。
上のグラフ(文部科学省「教員のメンタルヘルスの現状」)にあるように、教員の精神疾患による休職者の2.84倍という増え方は、日本全体の増加に対して1.8倍と倍近いものになっているのです。
それでは、なぜ教員はこんなに精神疾患による病休者が激増してしまったのでしょうか?
以上、見てきたように、埼玉県の教育長が言う「生徒が安心して高校生活をスタートできる体制づくり」のためには、子どもの貧困問題を改善することと、ブラック企業のような教育現場をなくしていくことがまずもって前提条件になるということです。
(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)