アベノミクスを考えるためのマクロ経済の統計分析-1 | 西陣に住んでます

アベノミクスを考えるためのマクロ経済の統計分析-1

西陣に住んでます-安倍首相




最近、デフレ脱却を目指す安倍晋三首相のアベノミクス

国民の大きな関心事になっています。


このアベノミクスに対して、

いろいろな経済評論家がリフレ派反リフレ派に分かれて

その是非を議論していますが、

その議論の多くは経済理論に基づいて、

その理論を裏付けるデータの一部を切り取って示すことで

「こうなればこうなる」というものが大勢を占めています。


このような議論において問題となるのが、

経済理論によって現実のマクロ経済変動メカニズム

完全に説明することはできないため、将来を予測する場合に

実測との間に必ず何らかの乖離が生じるということです。

あのブラック・ショールズ方程式で有名なノーベル経済学賞受賞者の

マイロン・ショールズ氏とロバート・マートン氏が顧問になっていた

ヘッジファンドのLTCMが破綻したこともこのことを裏付ける証拠です。


また、経済指標の一部を切り取って示し、

定性的な議論に終始していることが多い点についても問題があります。

例えば、ただ単に経済指標の変動グラフを定性的に比較するだけで

「相関性がない」などという結論を導く乱暴なケースがよくあります。

実際、マクロ経済指標は別の指標に対して影響を及ぼすことが多く、

指標間には一定の相関性が存在していますが、

その影響は一般に時間遅れを伴うとともに、

いくつかのファクターが絡み合った多変量時系列変動

示しているのが普通です。

そのような変動に対して経済モデルを定性的に当てはめる議論は、

多くの場合に何とでも結論を出すことができて

けっして合理的なメソドロジーとは言えません。


さて、


このような多変量時系列変動を経済理論に基づく経済モデルを用いずに

客観的に分析する方法として挙げられるのが

統計理論に基づく時系列統計モデルを用いる分析手法です。


統計モデルは、経済理論に基づく経済モデルとは異なり、

現象メカニズムの因果の法則性に基づくものであり、

相互相関をもった現象が複雑に絡み合う場合にその真価を発揮します。

複雑系とも言えるマクロ経済の分析に適った手法であると同時に

未来予測のシミュレータとしても有効であると考えられます。


特に、これまでこのブログでも何度か紹介した

多変量自己回帰モデル(Multivariate Autoregression Model)は、

時間遅れを伴う多変量時系列変動の分析には

はっきり言ってめちゃくちゃパワフルと言えます(笑)

その高いをパフォーマンスは、

このブログにおける電力需要予測においても証明したと思います。


[東京電力 2011夏-1]

[東京電力 2011夏-2]

[関西電力 2012夏-1]

[関西電力 2012夏-2]


そこで今回、3回の記事にわたって

実際に多変量自己回帰モデルをベースとする時系列統計分析を行い、

過去10年にわたる日本のマクロ経済の推移の中に隠された

多変量時系列変動のメカニズムを客観的に見ていきたいと思います。


まず、この記事では、時系列分析を行うマクロ経済の指標を選択します。



¥株価


経済の鏡とも呼ばれる株価の指標として、日経平均株価を採用します。


西陣に住んでます-コアコアCPIの推移


良かれ悪かれ、民主党政権末期に安倍自民党総裁の口先介入によって

景気に対する期待感が国民に芽生え、株価が上昇したことは事実です。

今後のアベノミクスを評価する上での大きな指標となるかと思います。



¥長期金利


長期金利としては、10年国債利回りを採用します。


西陣に住んでます-10年国債利回りの推移


アベノミクスによって懸念されるのが長期金利の上昇です。

格付け会社による評価の格下げがあったにもかかわらず

ここまでのところ、堅調に利回りが低く抑えられてきています。



¥物価


過去10年の経済の最大の課題としてしばしばあげられているのが

物価が持続的に下落していくデフレーション、いわゆるデフレです。


デフレ現象を表す代表的な指標として知られているものが、

コアコアCPIGDPデフレーターというものです。

コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)のうち、

食料(酒類を除く)およびエネルギーを除いたものであり、

GDPデフレーターは、名目GDPを実質GDPで割った値(%)です。


この二つの指標値には強い相関性があり、

実際に四半期データで散布図を作ってみると次の図のようになります。


西陣に住んでます-コアコアCPIとGDPデフレーターの関係


ここでは、四半期データが公表されているGDPデフレータよりも

観測間隔が狭い月データで公表されているコアCPIを採用します。


過去10年のコアCPIの推移を示したものが次のグラフです。

横軸は年(2003年~2013年)を表します。


西陣に住んでます-コアコアCPIの推移


明確な季節変動(年周期)を除けば、

単調減少、すなわちデフレが継続的に進行しているのがわかります。


このグラフに内閣をプロットしたものが次の図です。


西陣に住んでます-デフレ


こうやって見てみると、

新自由主義を掲げた小泉内閣で緩やかにデフレが進行し、

安倍内閣、福田内閣で一時下げ止まりしたものの

麻生内閣のリーマンショック時に再びデフレの徴候が見えます。

そして民主党政権になると、デフレはぐんぐんスピードを上げて進行し、

現在に至っています。


まず、なぜ小泉内閣でデフレが進んだかと言えば、

効率化こそ美徳とされ、効率的でないものがどんどんカットされて

物の生産がスリム化されたことによるものと思われます。

効率化は人にも及び、効率的でないと評価された人達が

生産活動から徐々に排除されていきました。

このことが顕在化したのが生活保護者数の急増であり、

低失業率を持続し、国民が働いて賃金を得てきた日本社会の構造が

世知辛い合理化最優先社会に大きく変貌することになりました。

このことはけっして合理的でないと私は思います。


その後、安倍内閣・福田内閣になると、

デフレが下げ止まり、失業率が減少し、

生活保護者数の増加も抑えられましたが、

麻生内閣誕生直前にリーマンショックが発生すると、

再びデフレが進行し、失業率と生活保護者数が増加しました。


そして、民主党政権になると、ポピュリズムに走った事業仕訳と

公共事業の削減、そして人に対する予算のバラマキが始まり、

すごい勢いでデフレが進行するとともに

失業率・生活保護者数の増大が本格化しました。

民主党が行ったことは、「コンクリートから人へ」というのではなく、

「生産活動から貯金へ」というのが正しいと私は思っています。

この結果、政府の借金が増えると同時に

使われないタンス預金が増える構造が生まれ、

脱却が近かったデフレ不況を確固たるものにしたと考えられます。



お金国際収支

国際収支としては、グロスで評価することができる外貨準備高を採用します。


西陣に住んでます-外貨準備高


外貨準備高は2004年から安定的に増加しますが、

2011年末から減少し始めます。


この原因としては、明らかに

原発停止によってエネルギーコストが3兆~4兆円増大して

貿易収支が赤字になっていることが効いています。


原発を再稼働させたくない反原発派は、

貿易収支の悪化の原因は中国の日本製品不買運動による

輸出の減少にあるとしていますが、

これは現実を直視していないウソと言えます。


電力を使っている以上、このコストは発生するものであり、

日本人が汗水流して産み出した冨が

すごい勢いで中東の大富豪に流れ、

外貨準備高が減少しているのは紛れもない事実です。

そして何よりもこのコストが高いか否かを判断するのは国民です。


化石燃料の購入増加によるエネルギーコストの増大は、

アベノミクスの円安誘導によってさらに増加する可能性があります。

外貨準備高が過剰に大きくなるのは問題ですが、

その減少の原因が持続的な出費にあることを考慮すると、

何らかの対策が必要であると考えられます。



¥為替


日本円とUSドルの為替レート、すなわち円ドルレートは、

前回の安倍政権の終焉とともに円高傾向が続きました。

そして今、安倍首相の口先介入によって円安にふれました。


西陣に住んでます-円ドルレートの推移


過去10年を見ても円安によって株価が高くなり、

円高によって株価が低くなるという正の相関関係があることは確かです。


西陣に住んでます-円ドル為替レートと日経平均株価の関係


ドルが合衆国のQE1~QE3による量的緩和策によって

通貨価値を下げることに成功した中で

日本は対抗策を講じることなく、5年で50%増という円高を容認し、

結果として株安が生じていたものと推察されます。



¥政策金利


政策金利を表す変数としては、

基準割引率および基準貸付利率(旧公定歩合)を採用します。


西陣に住んでます-基準割引率および基準貸付利率の推移


小泉内閣~安倍内閣時に金利を上げ、麻生内閣時に金利を下げました。

この値は経済指標ではなく行政が設定できる制御変数、

つまりマクロ経済に対するコントローリングファクターです。



¥通貨量


通貨量を表す変数としては、日本銀行が供給する通貨である

マネタリーベース(ハイパワードマネー)の平均残高を採用します。


西陣に住んでます-マネタリーベースの推移


小泉内閣の量的金融緩和政策によって増加したマネタリーベースは、

2006年の公定歩合の引き上げ時に減らされ、

その後に微増、東日本大震災時以降に大きく増やされています。


アベノミクスは、金融面では、

このマネタリーベースを増やす量的金融緩和政策によって

円安、株高を誘導し、デフレを脱却しようとするものです。


以下は次の記事、

アベノミクスを考えるためのマクロ経済の統計分析-2

に続きます。本質部分はこれからです(笑)