今夏の関西電力需要の直前分析(2)
電力不足が心配される今年の夏の関西ですが、
いよいよ今週からは夏も本番となることが予想されています。
この記事では、あくまで確率統計学的な視点で
今年の夏の関西電力の需要分析を行ってみたいと思います。
このブログでは、7月1日の[今夏の関西電力需要の直前分析] という記事で
今年の夏の関西電力の需要分析をトライしましたが、
その段階では、気温30℃を越えた日が観測されていなかったため、
関西で今どのくらい節電が進んでいるのかを十分に把握できず、
ある程度気温が上昇してからのデータを用いて
再度分析を行う必要があるという結論が得られました。
そして今、再度分析をするタイミングがやってきました。
今回も前回の分析手法と同じように制御系の
多変量自己回帰モデル(VAR: Vector Autoregressive model)を
駆使して検討を行いたいと思います。
具体的には、
電力消費量(関西電力2012年6月31日~7月21日)を被制御変数、
降水量、気温、湿度、風速、全天日射量の気象観測データ
(気象庁、大阪市2012年6月)を操作変数として解析を行います。
解析には、パブリックドメインソフトウェアのR環境下で
統計数理研究所のパッケージTIMSACを利用しました。
まず、観測データのうちいずれのデータを操作変数を選択するのが
最も統計的に尤もらしいかを検討するために、
下表に示すような情報量規準を算出します。
この結果、FPECとAICが最も小さい気温と全天日射量の組み合わせで
電力消費量を予測するのが最も尤もらしいことが判明しました。
ここで1時間前から26時間前(ラグ算出結果参照)までの
電力消費量のデータを次の式に代入します。
電力消費量(t)=
A1×電力消費量(t-1)+A2×電力消費量(t-2)+・・・+
B1×気温(t-1)+B2×気温(t-2)+・・・+
C1×全天日射量(t-1)+C2×全天日射量(t-2)+・・・+
D(定数)
この式の係数(マトリックス)である
A1, A2, ・・・, B1, B2, ・・・, C1, C2, ・・・, D
は下表の通りです。
このモデルを用いて7月1日~24日までの電力消費量を回帰すると
次の図のとおりです。ほぼ完ぺきに回帰ができていることがわかります。
この式を用いて今年の関西電力の需要が最大でどのくらいであるかを
分析してみたいと思います。
ここで、関西の今夏の気象動向予測ですが、
気象庁によれば気温は平年並みで日照時間はやや多めであることが
予想されています[7/21~8/20の1ヶ月予報] 。
ただし、これはあくまで予報であり、コンサーヴァティヴな視点に立った場合、
考えられる最悪に近いケースを想定する必要があります。
そこで猛暑だった2010年の気温と全天日射量の最高値(下図)を
ウィークデイの5日間に持続するという最悪シナリオを想定して
これを多変量自己回帰モデルにインプットします。
また、電力消費量の初期値としては、
今年のこれまでの観測最高値を与えます。
この条件のもとでシミュレーションを実施すると次の図のようになります。
(クリック拡大)
縦軸のスケールを変えて拡大すると次のようになります。
(クリック拡大)
このシミュレーション結果によれば、
同一の気温や日射量データを毎日与えているにもかかわらず、
日が経過するたびに消費電力が大きくなっていくのがわかります。
これは電力消費量の変動には、
自己相関(その時点以前の電力消費量との相関)が関与しているためです。
このことから言えることは、
反原発活動家の広瀬隆氏が行っているような単純な単相関による分析は
必ずしも適切ではないということです。
反原発という意見をもつのはもちろん自由ですが、
自己の主張に都合のよいナイーヴな分析結果で
人の命まで左右しかねない電力需給にヒステリックに意見するのは
厳に慎むべきと考えます。
津波のレベルの想定で失敗した原発事故と同じことです。
重要なのは、
反原発であるとか原発容認であるとかのイデオロギーに関わらず、
あくまでも最先端の科学的な真理に従うということです。
話は横道にそれましたが、分析結果の評価に戻りますと、
今考えなければならないことは、
関西電力が7/13に発表した[需給見通し] における供給力の見通しのうち
最も小さくなる8月の供給力である2713kWhに対して
シミュレーション結果がどのような値となっているかということです。
図を見ると、多変量自己回帰モデル(赤の太線)の結果は、
いずれも2713kWhよりも下回っていて
このままの方法で関西の人達が節電を行えば、
なんとか電力不足を解消できそうな状況にあります。
ただし、これはあくまでも多変量自己回帰モデルによる予測結果であり、
現実世界の不確実性(Uncertainty)を考慮するには、
実況と予測との誤差がどうなっているか検討する必要があります。
上図には99%信頼下限と99%信頼上限の曲線が
破線でプロットされています。
これは実況と予測との誤差の分散を理論的な根底として
99%の確実性で信頼できる範囲を示したものです。
このうち、99%信頼上限の値は、
8月の供給力を部分的に上回っています。
つまり、現在のレベルの節電を行っていても
場合によっては供給力を上回ってしまう可能性もあるということです。
また、最大供給力の97%を超えると、
計画停電の可能性が出てきますが、
これは猛暑が続いた場合には大いに可能性があります。
私の個人的な考えとしては、
基本的にはこのままの状況で節電を行っていき、
仮に電力がひっ迫するような事態が生じたら
日本経済を支えている企業の生産や身体的な弱者に深刻な影響を与える
計画停電は絶対に起こさないよう、私を含めた健康な人間が
冷房カットなどのさらなる節電を数時間行うということに尽きると思います。
もちろん電力不足を解消する効果的な施策が望まれるところですが、
今年はもうどうしようもありません。
健康な皆さん、いざという時には頑張りましょう!