今夏の関西電力需要の直前分析
今日から7月、本格的な夏も近くなってきました。
昨年の夏は東京電力管内の電力消費量の需要予測を
時系列分析を駆使して行いましたが、
今年も同様の方法で、需給が逼迫しているとされる
関西電力の電力消費量の需要予測を試みたいと思います。
時系列分析モデルは、昨年の東京電力の需要予測で用いた制御系の
多変量自己回帰モデル(VAR: Vector Autoregressive model)です。
このモデルは予測したい変数(被制御変数)の時系列挙動を
その変数自体の過去の挙動および
他の観測値(操作変数)の過去の挙動を基に予測するものです。
昨年はこのモデルを用いることによって
東京電力の最大消費電力を6月末の時点で概ね予測することができました。
今回も電力消費量(関西電力2012年6月)を被制御変数、
次に示す降水量、気温、湿度、風速、全天日射量の気象観測データ
(大阪市2012年6月)を操作変数として解析を行いました。
ちなみに解析には、パブリックドメインソフトウェアのR環境下で
統計数理研究所のパッケージTIMSACを利用しました。
これらの観測データのうちいずれのデータを操作変数を選択するのが
最も統計的に尤もらしいかを検討するために、
下表に示すように情報量規準を算出しました。
この情報量規準の値が小さいモデルほど尤もらしいモデルと言えるので
気温&全天日射量、あるいは気温&風速&全天日射量を
操作変数とするモデルが最も尤もらしいと考えられます。
このうちどちらを選択しても構わないのですが、
昨年の東京電力のモデルが気温&風速&全天日射量であったことから、
同じ現象メカニズムであると考えられる後者の組み合わせを選択しました。
具体的なモデル式は次のようになります(数学でいう「線形結合」の式です)。
電力消費量(t)=
A1×電力消費量(t-1)+A2×電力消費量(t-2)+・・・+
B1×気温(t-1)+B2×気温(t-2)+・・・+
C1×風速(t-1)+C2×風速(t-2)+・・・+
D1×全天日射量(t-1)+D2×全天日射量(t-2)+・・・+
E(定数)
この式の係数(マトリックス)である
A1, A2, ・・・, B1, B2, ・・・, C1, C2, ・・・, D1, D2, ・・・
を数学的に求めて、過去のデータ(t-1, t-2, ・・・)から
任意の時刻(t)のデータを予測します。
モデルの係数を求めると下表のようになります。
*定数項は54.3
つまり26時間過去までのすべてのデータに上表の係数を掛けて
あとは定数項を含めて全部足してやれば予測値を求められます。
このモデルを適用して実測値(青線)と予測値(赤線)を
プロットしたものが次の図です。
(クリック拡大)
この図を見ると、実測値が高精度に予測されていることがわかります。
(最初の26時間は予測値が求められないので実測値のみ示してあります)
最近1週間だけを拡大して見てみても↓その精度の高さがわかります。
このモデルを用いて、最高に暑かった2010年のように気象が推移する
と仮定したときの電力需要は下図のようになります。
このモデルによれば、今年の最大電力は2200万kWhくらいで
関西電力の需要を大きく下回っていることになりますが、
私はこの予測結果には大きな問題があると思っています。
というのも、これまでに大阪では
30度を超える気温が一度も観測されていないため
35~38度程度で推移する挙動を予測するには
かなり無理があると言うことです。
ちなみに昨年の東京電力の予測の場合には、
6月後半の段階で30度を裕に超える気温が観測されたため、
ある程度信頼性が高いモデルが構築されたと考えられます。
そんなこともあり、また大阪で或る程度高い気温が観測された後に
もう一度VARモデルを作成して検討してみたいと思います。
いずれにしても、この記事で私が言いたいことは、
電力の需要分析というものは高度の分析ツールを用いたとしても
簡単に予測できるものではなく、
ましてや大阪市特別顧問が過去の行政キャリアだけを根拠にして
4月や5月の段階で
節電込みで「足りてる」とか「足りてない」とか勘で言い続けていたとしても
何の科学的根拠もないということです(笑)
7/22 追記
事実、全然違う予測結果が出ています。
↓こちらの記事をお読みください。