7月頭の電力消費を分析する
(どのグラフもクリックすると拡大します)
7月に入り、工業生産国日本の経済活動を大きく制限すると考えられている
電力制限令が発動されました。
サマータイムや輪番休業などの組織化された就業時間シフトによる
需要平坦化手法のオプションがいくつかあったにもかかわらず、
日本政府は具体的な検討をしないで、
大口需要家に15%の節電を課すという最低の策を課しました。
このことによって、また日本企業は競争力をそがれ、
企業の海外移転の話題もちらほら聞こえてくるようになりました。
このような状況下で、多くの国民・企業・地方公共団体などが
節電に積極的に協力・貢献し、
電力消費量を前年比で大きく下回るという結果が得られています。
その一方で、6月後半の気温の上昇により熱中症が各地で発生し、
危機的な状況も生まれています。
そんな中、この記事では、
7月になって実際に節電がどのくらいの効果をあげているのかを
概観してみたいと思います。
まず、東京電力が7月1日から始めたでんき予報ですが、
↑冒頭に示したようなグラフが5分ごとに更新されています。
このグラフは7月1日のものなのですが、
前日の6月30日の値をすべての時間帯で下回っているのがわかります。
ここで、6月30日と7月1日の東京の気温と風速の時間変動を見てみると
下図のようにほぼ同じような値をとっています。
気温と風速が電力需要に与える影響が大きいことは[前記事] で示しました。
これらのことから、同じような環境条件にも関わらず、
7月1日の電力消費量が6月30日の電力消費量を100万~200万kW
下回っていて、7月1日からさらなる節電の効果が出ているといえます。
ちなみに、気温や風速によって電力需要が影響を受けるという
メカニズムについては、6月以前と変わってなく、
[前記事] で紹介した多変量自己回帰モデル(VARモデル)によって
極めてよくフィッティングできています。
↓こちらがこのフィッティングに用いたVARモデルの係数マトリクスです
(VARモデルの係数マトリクスについては[前記事] を参照してください。)
この係数マトリクスを7月3日の電力消費量の1時間前予測を行い、
その実測値と比較したものが次の図です。
この図を見ると、VARモデルによって
非常によく電力需要を予測できていることがわかります。
また、表にしてみると、誤差率の標準偏差は1.3%程度であり、
高い精度を持っていることが定量的にわかります。
このモデルの係数マトリクスを時間の経過とともに
アップデイトしていけば、さらに高精度な予測が可能になると思われます。
さて、電力需要に大きく関係するのが気温の変動ですが、
今年の夏はいったいどのくらい暑いのでしょうか?
NINO3、NINOWEST、IOBWといった南洋の海水温、沖縄の気温、
および気温偏差の時系列データを用いて
多変量自己回帰モデルによって東京の気温を回帰したものが次の図です。
図を見ると、よく回帰で来ているものの、最高気温での誤差が2℃程度あり、
暑い夏であるか涼しい夏であるかは、残念ながらこのモデルを擁してみても
精度上十分な判断がつかないと言えます。
ちなみに、2010年夏の気温変動を示したものが次の図です。
この図には2010年6月下旬の値もプロットしています。
図を見ると、今年の6月下旬の気温は、
かなり顕著に高かったことがわかります。
そして、その間を4500kW以内の電力消費で乗り切ることができた
現在の節電体制を堅持することによって
今年の電力不足を乗り切ることは
けっして無理でないということもわかります。
これからは高齢者や身体の調子を崩されている方は
絶対に無理をしないということも重要だと思います。
今後も分析を続けたいと考えます。
※ 当初のアップデートで一部単位を誤記していたので訂正しました。
tokkoさん、ご指摘いただきありがとうございます。