今夏の電力需給を分析する 2 | 西陣に住んでます

今夏の電力需給を分析する 2

西陣に住んでます-六本木ヒルズ



前記事[今夏の電力需給を分析する 1] では、
電力需給に関わる社会の動向について整理した上で
今夏に予想される東京電力管内の電力不足について分析し、

当面の節電施策の効果試算において用いる

電力需給のモデルケース(下図)を作成しました。


西陣に住んでます-電力需給2011夏


この記事では、このモデルケースを用いて試算を行う上で
試算の理論的根拠とするための各種ファクターの分析をしたいと思います。



節電の施策として考えられている方法にはさまざまなものがありますが、
ワーキングタイムをシフトすることで
電力需要を分散あるいはカットする方法がいくつか考えられます。

例えば、国の時計の針を進めるサマータイム
時計の針を進めずに始業時間を早める擬似的なサマータイム
企業・団体ごとに始業時間をずらすワーキングタイム分散
企業・団体ごとに休日をずらす休日分散などがあります。


このような節電施策の効果を試算するにあたっては、
気温と電力需要の関係平日と休日の電力需要の差
明確にする必要があると思います。


一方、時間をシフトする以外に、
電化製品を停止したり、設定を変えるなどして負荷を軽減したりする
いわゆる直接的な省エネルギーを行うことが考えられます。
例えば、冷房や冷蔵庫の設定温度を下げたり、
不必要な照明、コンピュータ、テレビを使わないなどのアクションです。
[経済産業省 節電 ‐電力消費をおさえるには‐]
[財団法人 省エネルギーセンター]

このような電気機器の省エネルギーは非常に効果が高いと考えられますが、
時間別の稼働率が正確にわからないためにその効果を試算するのは、
かなり困難といえます。
ただし、テレビについては、

時間帯別視聴率によって稼働率がはっきりしています。
また、夕方の照明についても、

省エネルギーセンターによる試算が公表されています。


これらを踏まえて、個々のファクターの分析に入りたいと思います。



1気温と電力需要の関係


夏には気温が上昇するに従って、冷房を使用するようになると同時に
冷蔵庫の消費電力が増えていきます。
サマータイムやワーキングタイム分散の効果を試算するにあたっては、
気温が上がるごとに電力消費量がどのくらい上がるかを
明らかにしておく必要があります。


この分析にあたっては、再び、電気事業連合会のデータ[下図] の中で
2001年7月24日2003年8月5日のデータを用いることにします。


西陣に住んでます-電力需要曲線



この2つの時系列データに対して

気温と電力消費量の関係を示したものが下図です。


西陣に住んでます-気温と電力消費量

この図を見ると、電力消費量は朝の6時ころから徐々に上昇し、
9時~17時のワーキングタイム内では
それぞれほぼ同程度の電力消費量の値をとります。
特に気温が34℃を越した場合、または14時~17時の間には、
気温が上がっても下がっても電力消費量が
ほぼ一定の値をとっていることがわかります。
これは、気温が34℃を超えた場合と午後のワーキングタイムには、
冷房をフル稼働しているための現象と思われます。


ここで、各時間帯の影響を除去(フィルタリング)して、
時刻に関わらない純粋な温度と電力使用量との関係を把握するために
2001年7月24日と2003年8月5日の同時刻における
気温の差と電力使用量の差の関係をプロットしたものが次の図です。
(ただし、気温34℃超と14時~17時のデータは除いています。)


西陣に住んでます-気温と電力消費量


この図を見ると、気温と電力消費量との間には
明確な正の1次相関関係(決定係数:0.81、相関係数:0.90)がある
ことがわかります。回帰式から判断すると、
気温が1℃上昇する毎に電力消費量が76万kW上昇する

ということになります。


以上まとめると、


気温が1℃上昇する毎に電力消費量が76万kWし、
気温が34℃を超えると電力消費量は増加しなくなる。
また午後14時~17時の時間帯は電力消費量は減少しない。


と言え、この関係を効果の試算に反映させたいと思います。



2平日と休日の電力需要の差


日本では、多くの企業・団体が週休2日制(土・日)を採用しています。
このため、平日に比べて土曜日と日曜日の電力消費量は低い値となります。


この休日による電力消費量の低減効果がどのくらいであるか

を把握するために、[東京電力の使用状況グラフ] のデータをもとに
日曜日とその翌日の月曜日の電力消費量の差を時間軸に沿って
プロットしたものが次の図です。


西陣に住んでます-月曜と日曜の電力消費量の差


図を見ると、暖房使用の影響があると考えられる
3月最終週と4月第1週のデータと比較して
4月第2週以降のデータは概ね同様の時系列変動を示しています。

一方、土曜日とその翌々日の月曜日の電力消費量の差を時間軸に沿って
プロットしたものが次の図です。


西陣に住んでます-月曜と土曜の電力消費量の差


図を見ると、まとまった雨が観測された日とそうでない日のばらつきが
やや激しくなっています。


以上の議論を踏まえて、雨や暖房の影響をほぼ受けていないと考えられる
4月16日(土)、4月17日(日)、4月18日(月)のデータを用いて
作成した次の時系列グラフ(下図)を効果の試算に反映させたいと思います。


西陣に住んでます-曜日変化に伴う電力消費量




3テレビ視聴による電力消費量


テレビは、視聴しないことで最も簡単に省エネできる電化製品と言えます。
けっして私はテレビの存在そのものに必要性がないと

言っているのではありません。
テレビを大規模停電が懸念されるピークの時間帯に消したとしても
健康や安全にほとんど影響がないということを言いたいのです。


テレビ視聴による電力消費量を予測するにあたっては、

まず、NHKが実施したテレビの個人視聴率の日変動のデータ
[平成18年6月全国個人視聴率調査の結果] を基に
ゴールデンタイムHUT(総世帯視聴率)

2010年62.9%となるように補正し、HUTの日変動を算出します。


この日変動データを基に、テレビ1台当たりの消費電力を300Wと仮定して、
東京電力サービスエリア内の1600万世帯がHUTの比率分だけ
1台のTVを視聴した場合の電力消費量を算出すると、

次の図のようになります。


西陣に住んでます-TV視聴による電力消費量


朝のお出かけ前、お昼休み、そしてゴールデンタイムに
電力を多く消費していることがわかります。
なお、世帯当たりのTV保有数は平均約2台なので、
1台だけで視聴というのは基本的に過小評価であることを断わっておきます。



4夕暮れ時の照明の電力消費量


(財)省エネルギーセンター
[サマータイム制度導入による省エネルギー効果試算] によれば、
1時間時計を進めるサマータイムによって
各種照明の省エネルギー効果が原油換算で求められています。


家庭用照明需要:40.3万kl、
業務用照明需要
・自動車教習所:1.5万kl
・ゴルフ練習場:2.6万kl
・ガソリンスタンド:15.6万kl
・公共用ナイター:3.8万kl
・プロ野球球場:0.1万kl
・広告用ネオン照明:2.0万kl
・広告用看板照明:0.7万kl
・その他:2.8万kl


この合計は69.4万klであり、東京電力の全国シェアを30%として、
1日あたりの電力消費量に換算すると、406万kWhになります。

すなわち、サマータイムを行えば、夕暮れのトワイライト時に

約400万kWの節電ができることになります。


以上、この記事では、
各種の節電施策の効果を試算するために必要な

ファクターの分析を行いました。
この分析結果を根拠に、次の[今夏の電力需給を分析する 3] では
各種の節電施策の効果を具体的に試算してみたいと思います。



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