映画「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」 平成28年8月6日公開★★★☆☆


歴史教師アンヌは、新学期から貧困層が多く通うパリ郊外のレオン・ブルム高校にやってくる。
多様な人種から成る生徒たちを集めた落ちこぼれ学級を担当することになった彼女は、
全国歴史コンクールへの参加を生徒たちに提案。
当初彼らは「アウシュヴィッツ」という難題を拒否するが、強制収容所の生存者が授業に招かれ・・・   
                                           (シネマ・トゥデイ)

フランスの教育現場でのドキュメンタリータッチのちょっと地味な映画。
パリ20区、ぼくたちの教室」にも似ていているし、(カナダのフランス語圏の映画ですが)
ぼくたちのムッシュ・ラザール」もこのジャンル。
けっこうこういうのはなぜか私は映画館で見ています。

アンネ・ゲゲン先生が赴任したのはレオン・ブルム高校の落ちこぼれクラス。
彼女はここで地歴と美術史を担当するのですが、
移民だらけで宗教もバラバラのこのクラスは、
学力も全教科で後れをとっています。
「私は教えることが大好き。退屈な授業なしないわ」と熱い先生です。
正直、そんなに面白い授業とも思えないんですが、悪ふざけする生徒たちを頭ごなしに叱らず
「あなたたちを信じてるのは私だけ?」と、真摯に向かい合ってくれるゲゲン先生には
生徒たちも、ほかの教師たちとはちょっと違う態度をとるようになります。

キリスト教の絵画のなかで、地獄におちた人物のなかにムハンマドが描かれるのも隠さず、
イスラムを信じる生徒たちが怒っても「それはプロパガンダだから」と説明します。

クラスにはジュリーやテオのような優等生も交じっているから、一応授業は成立するんですが
「帽子をとりなさい」
「イヤホンをしまいなさい」
「ガムはかまないで」なんていう注意を毎回される生徒ばかり。
奇声を上げて授業妨害したり、とにかく授業態度は最悪です。

「パリ、20区・・・」のクラスの子たちよりは生活環境は恵まれている感じですが
「落ちこぼれ」のレッテルを張られて、教師たちには心を閉じてしまっています。


ある日ゲゲン先生は「アウシュビッツの若者と子どもたち」の課題で歴史コンクールに応募することを提案します。
子どもたちは当然「恥をかくだけ」拒否します。
ところが、アウシュビッツについて知識のまったくない彼らは、

事実を知るにつけ、これは自分たちのこととして真摯に受け止めるようになります。

このクラスにいる子どもたちは、みんながフランス人とは限りません。
アフリカ系やアジア系や・・・特にイスラム系の両親をもつ子どもが多く、日常的な人種による差別を
仕方なく受け入れながらも、ささやかな彼らなりの反抗でうさを晴らしてる毎日。
もしアーリア人至上主義のあの時代に生まれていたとしたら、当然子どもでも迫害を受けているはずで
とても他人ごとではないのです。

博物館で展示を見たり、ホロコーストの生き残りのズィゲル老人の話を聞いたりするうちに
それまでコンテスト参加を渋っていた生徒までもが、自分から進んで発表の準備をするようになります。

そして予選を勝ち進みパリでの全国大会。
フランス国中から優秀な高校生グループが集まりますが、そのなかでレオンブルム高校が
なんと全国優勝するのです。

フィクションだったら、あまりに予定調和な結末ですが、これノンフィクションなんですよ。
そのなかでもマックス役の男性は実は本当にゲゲン先生の指導を受けてコンクールに参加した人物。
なので彼だけは22歳くらいなんですけど・・・
作中でも「映画の仕事につきたい」といっていましたが、彼は制作にもかかわっており、ホントに実現させたのですね。

自分の経験を人に伝えたい思いでこの映画を作った彼のように、語り継ぐことの大切さ。
彼らももしあのアウシュビッツサバイバーの老人の話を聞かなかったら、ここまで本気になれなかったのでは。

ただ少し気になったのは、彼はたしか今でもナチスを許せないと明言していたこと。
ナチス残党といったかドイツ人といったか記憶が定かではないんですが、
これがもし日本だったら、原爆の経験者はけっして「アメリカを許せない」とはいいませんよね。
個人的には「言うべきではない」と思いますが、感情を殺して
「(私たち日本は)二度と戦争を起こしてはならない」を全員が繰り返す結果になって
強烈な体験として残らないような気がします。


映画の冒頭で、ビジャブを被ったムスリムの女生徒に教師が
「そのスカーフをとりなさい」と、生活指導の一環として当然のように指示する場面があったのですが
この少女がこの後どうなったのは、結局語られなかったように思うのですが、
最後までみると、すごい伏線になっていたような気がします。

それにしても、この高校生たち、あまりに無知で、ちょっと唖然としたんですが
むしろ何も前知識がなかったからこそ、ホロコーストの悲劇を大きな驚きで受け止めたんだと思いますが・・
そういう私もフランス国内でのユダヤ人の迫害が「フランスの警察主導で行われた」ことは
映画から知ったことなんですね。
黄色い星の子供たち  → こちら
サラの鍵  → こちら

どちらも必見です。