映画「ぼくたちのムッシュ・ラザール」 平成24年7月14日公開 ★★★★☆



読んで♪観て♪


モントリオールの小学校で、担任の女性教師が教室で亡くなり、生徒たちは動揺を隠せずにいた。

そんな中、アルジェリア出身の中年男性バシール・ラザール(モハメッド・フェラッグ)が

教員として採用される。

ラザールの指導方法は風変わりであったが、常に真剣に向き合う彼に

生徒たちは、少しずつ打ち解けていく。

一方、ラザール自身も心に深い傷を抱えており……。(シネマ・トゥデイ)



朝、牛乳当番のシモンが教室をのぞくと、なんと担任のマルティーヌ先生が首を吊っていて・・・・

あわてて生徒たちを遠ざける教師。

散らばった牛乳を不思議に思って近づいたクラスメートのアリスもまた

このショッキングな光景を目撃してしまいます。


事件の収拾に追われる校長や教師たち。

教室の壁は塗り替えられ、スクールカウンセラーによる「心のケア」が行われますが

クラスを引き継ぐ教師がなかなか決まらず・・・そこへ

「アルジェリアでの教師経験19年、カナダの永住権あり」を自称する

バシール・ラザールの申し出があって

彼は新任の代用教師となります。


このラザール先生とシモンとアリスがストーリーの中心になるのですが、

「教師が教室で首をつる」という衝撃的な出だしのわりには

話は遅々として進みません。


先日NHKプロフェッショナル仕事の流儀で

「学級崩壊のクラスを次々と立て直す小学校教師・菊池省三」というのをみました。

子どもたちのひとりひとりに目が行き届き、

思い通りにいかない子どもも悔しい気持ちを逆にバネにして自分の力で立ち直っていく

そのきっかけを作っていく菊池先生の熱意と技には感心、というより感激しました。


古くは「金八先生」や「熱中時代」、

最近では{GTO」や「ごくせん」みたいな「はみ出し熱血教師ドラマ」というジャンル。

まさかそんなキャラは期待していませんでしたが、

2年前に観た「パリ20区、僕たちの教室 」のフランソワのようなひたむきな教師を期待していました。


ところが、このラザール先生、どうも教えるのはド素人くさい。

文法の間違いを指摘されたり、バルザックをとりあげて古いといわれたり、

悪さをした生徒に手を挙げて「先生もあやまるべきです」と諭されたり・・・



それでも校長には

「順調にやっています」の一点張りで、ちょっと心配にもなってくるのですが、

彼のほかの教師とはちがう、形式にとらわれず真摯に向き合ってくれる姿から

次第に子どもたちも心を開き始めます。


「この大好きできれいな教室で自殺した先生のメッセージは暴力じゃないか?」

作文でそう問いかけるアリス。


「先生にハグされたことを言いふらしたのが自殺の原因じゃないのか?

牛乳当番の自分に発見されるように教室で首をつったのではないか?」

マルティーヌ先生に目をかけられていたシモンの苦しみもまだ癒えてはいません。


ショックから立ち直れずに転校してしまったシャネル。

頭痛でいつも気分悪いボリス。

クラスメートにちょっかいを出してはやられていて、

いじめかふざけか、いつも分かりづらいデプのビクトル。

ぱっとしないラザール先生の授業が物足りず、いつも正論でやりこめる優等生のマリー。


生徒たちの反応もさまざまです。

カウンセラーは「もう子どもたちは落ち着いてきています」というけれど

それでも子どたちの心を読みとろうと奮闘するラザール先生。


そんなある日、ラザールの個人的虚偽申告が問題となり、

子どもたちの最後の授業に向かいます・・・・



学校で起きた大きなトラブルへの学校側の対処の仕方が問題とされている今の日本。

「生徒たちの心のケア」を最優先といいながら

少しでも早く元の落ち着いた状態に戻して事件を闇に葬りたい学校側の方針に

たしかにやりきれないところはあります。

かといって、指導方針を逸脱したラザールの心ある指導をたたえるのもどうかと・・・・


さいごの「木とさなぎの逸話」は感動的ではあったけれど、

ほろっと泣いて終わるハートフルドラマともいえず、

いつまでもやるせない思いが渦巻いてしまいます。

現役の先生がご覧になったら、さらにいろんな感想を持たれる琴と思います。


朝シモンが教室に届けたのは「学校朝食」の牛乳だったんでしょうか?

小学生を毎日親が送り迎えするのも日本とは違いますね。

後任教師の任命方法や校長の裁量権もきっと日本とは違うのでしょう。


カナダの小学校の日常がドキュメンタリー以上に伝わってきました。

モントリオールはカナダのフランス語圏ケベック州最大の都市で、

住民の多くがフランス語を話しますが、英語やアラビア語スペイン語も使われていましたね。

外国語賞にノミネートされるにふさわしい作品でもあったと思います。