カランドリエにて | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

カランドリエにて

このブログの記事を真に受けて、「本当にリースリングってそんなに美味いんだろうか?」とか

「リースリング飲んでみたいなぁ」なんて感じていただけたなら、それはこちらの思うツボである。

むろんリースリングを飲む人が増えたからといってこちとら一文の得にもならないのだが、自分の好きなものを

一緒に共感してくれる相手と杯を酌み交わすことが出来るならそりゃあ美味さもまた格別だろう。そんな訳で

たとえ人から変人扱いされようとも、ひたすらここに駄文を書き連ねている。そしてそんな記事の1つ

名うての飲み手や論客の方々が関心をお持ちいただけたのはもっけの幸いである。いや、わざと引っ掛かった

ふりをしているだけなのか、あるいはこちらの罠が巧妙であった故か、まぁいずれにしてもこれはリースリングの

病原菌をばら撒くまたとないチャンスには違いない。


そんなこんなでラブワインさん の声かけとgriotteさん のお膳立てにより、急遽大阪でのワイン会がセッティング

された。会場は大阪・本町にある「なかなか予約の取れない」人気フレンチ、カランドリエ (CALENDRIER)である。

ただ残念なことに話の発端となった肝心のシュロス・ザールシュタイン醸造所 のリースリングは既に消費済みで

1ヶ月半前に追加発注したものがまだ到着していないため、今回は別のものを取り混ぜてワインを選定した。

果たしてこれらが審査委員長のutaさん を始めとする恐持てのお三方に通じるのだろうか?胃が痛くなる思いで

土曜の夕刻、地下鉄・堺筋本町の駅に降り立ったのである。


新・緑家のリースリング日記


店は駅から徒歩10分ほどのところにあるが、パッと見はここがレストランだとは思えないほど飾り気が無い。

通りの向かいにあるガラス張りの店がそうかと見紛うほど。白地に緑字の控えめな看板だけが、唯一ここが

そうである事を示していた。店の表構えの撮影だけはしておこうと立つ位置を思案しているとラブワインさんが

こちらに手を振りながらやって来た。これだけのために遠路遙々関東からおいでになったのだ。これで不味い

ワインでも出したら申し訳が立たない、と思うとまたもや胃が痛む。デジカメを構えている前をgriotteさんが

スッと店に入って行くのが見えた。慌てて店に入ると既にutaさんも到着されており、さぁ宴会の始まりである。


テーブルは10ほどだったろうか、店内は奥行きはあるものの意外にこじんまりとしている。何より驚いたのは

スタッフが多いことで、程なく満席になったこともあって人口密度が高く感じられる。さすがに予約が取れない

店だけのことはある。若干隣席の客との距離感が近く、下らない冗談を発し難い雰囲気がしないでもなかったが

入れ代わり立ち代わりやって来るソムリエを始めとするスタッフはみなテキパキとしていて客を待たせることが

なかった。


まず乾杯にリースリングではなくショイレーベの辛口を開けた。これは先日 アンドレア・エバートさんから頂いた

もので、彼女の実家であるフランケン地方のハンス・ヴィルシング醸造所 のワインである。


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2007 Iphoefer Kronsberg Scheurebe Kabinett trocken

Weingut Hans Wirsching (Iphofen/Franken),A P Nr 5011-056-08,Alc 12.5%vol


ショイレーベは1916年にジルヴァーナとリースリングを交配させて作られたという品種である。恥ずかしながら

これまで二流の甘口品種だとばかり思っていたのが、5月の試飲会 であまりの美味しさに驚いたものである。

最初香りは地味。そしてまずその酸の凝縮度の高さと甘さすら感じさせる果実味の豊かさに驚く。リースリング

だと言われても違和感のない引き締まった味わいで、唯一フィニッシュにジルヴァーナっぽさを感じさせるのみ。

時間とともに甘い花の香りが開き、酸が後退して果実味が前面に出てボテッとした印象に変化。開けてすぐが

一番美味しいワインだなと感じる。これは最初に出て来るであろう名物「フォアグラスープ入りのミニコロッケ」に

合わせようと選んだのだが、なかなか良い選択であった。時間が経つと飲み飽きするのが欠点。



さて、ここからリースリング3連発。まずは2008年産のグリュンハウス、アルテ・レーベン。予習済み。(^_^)v


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2008 Maximin Gruenhaeuser Abtsberg Riesling Alte Reben trocken

Gutsverwaltung von Schubert (Mertesdorf/Ruwer),A P Nr 3 536 014-17-09,Alc 11.5%vol


これは既に3日前の記事 にしているので詳しくは繰り返さないが、見事な酸と果実の味香のバランスが美しい。

魚介とラタトゥユとの相性が良く、改めてトマトソースとリースリングの相性の良さが実証された気がする。

時間とともに果実が後退するにつれて酸とミネラルがパワーを発揮。塩味がするほどドライな味筋。最後に

約束通りの白桃の香りのおまけ付き。実は下見とばかりに3日前に同じもう1本のボトルを開けて飲んだのだが、

ここ数日胃の調子が悪いのはどうもこれが胃に堪えたようだ。そう言えばutaさんも途中少し調子が悪くなられた

様子だったが、ひょっとするとこのワインの強烈な酸のせいではなかったのか。そうだとしたら本当に申し訳ない

ことである。いずれにしても先日飲んで胃を傷めた2008年産ザールシュタインのシュペートレーゼ辛口 と言い

これと言い2008年の酸はかなり強烈なようで、将来が楽しみだという以前に今後飲む際注意が必要である。



お次はまた頂きモノのアンドレアさんご実家ワイン。リースリングのシュペートレーゼ辛口。


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2007 Iphoefer Kronsberg Riesling Spaetlese trocken

Weingut Hans Wirsching (Iphofen/Franken),A P Nr 5011-030-08,Alc 13.5%vol


最初に開けたショイレーベと同じ畑のリースリングである。イプホーフェン村のこのクロンスベルクという畑は、

この地方特有のコイパーと呼ばれる赤色泥灰土の風化した土壌を主とし、これに石灰を多く含んだ粘土が加わる

とされている。ちょっと勘違いして、隣の貝殻石灰土壌の地方と混同していい加減な事を話していたようなので

この場をお借りして訂正させていただく。やっぱり現地に行った事がない者は信用出来ないですなー。m(u_u)m

さて肝心の味の方は、これが予想以上に素晴らしかった。フランケンワインらしい豊かで肉厚な果実味に

確かな酸と骨格のしっかりしたミネラル。新鮮な果実の美味さと、ワインとしての落ち着きや風格を見事に

兼ね備えた力強く飽きの来ない味わいは、前のルーヴァーのアルテ・レーベンに決してひけをとらない。

真鯛のポワレのこってりとしたバター系ソースともがっぷり四つに組んでバッチリと合う。素晴らしい辛口の

リースリングであった。



メインの肉料理には普通なら赤、の筈である。だがリースリング馬鹿には昔、ザールブルクのレストランで現地の

ソムリエが肉料理に合わせたザールの甘口古酒が忘れられない。或いは友人達とトリアーのレストランで色んな

肉料理に合わせて相性について議論したモーゼルの甘口アウスレーゼが忘れられない。こういう場でこんな事を

やってみたかったのだが、あいにくウチには予備軍はたくさんあってもそういう古い頃合いのアウスレーゼが

なかった。そこでシュペートレーゼに目を向けてみると、良さ気に枯れていそうなものが数本ある。だがここでも

いいかげんな造り手ではダメだ、などという余計な考えが判断を誤らせた。後から考えてみればの話だが。

で、結局選んだのはコレ。ヨハン・ヨゼフ・プリュムの1997年産ヴェーレナー・ゾンネンウーア・シュペートレーゼ。


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1997 Wehlener Sonnenuhr Riesling Spaetlese

Weingut Joh. Jos. Pruem (Wehlen/Mosel),A P Nr 2 576 511 22 98,Alc 7.5%vol


ミントを主体にした熟成香が美しい。アプリコット、湿った木、鉱物などを感じさせ、時間が経ってもいつまでも

心地良く香る。凛とした酸は当たりはマイルドで優しい味わい。サラリとした甘さと軽やかな飲み口。余韻の

熟成感。ミネラルは主張せず。まだまだ若い雰囲気でそのまま単体で飲むには申し分ないが、残念ながら

豚肉のローストとは相性は良くなかった。選択ミス。ワイン自体は綺麗に熟成しつつあり素晴らしい。



ということで最後の詰めを誤ってしまった。が、ここでラブワインさんのブラインドのピノ・ノワールに救われる。

色が薄くて優しい自分好みの味わいに、シャンボール・ミュジニー辺りを思い浮かべたがそれはハズレ。


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2007 Vosne Romanee 1er Cru Les Suchots

Domaine De L’arlot (Nuits Saint Georges/Bourgogne),Alc 13%vol


色はかなり薄めの赤で、やや甘酸っぱい香り。とにかく軽くてスッと入って来る。酸も細く果実味も細いが決して

薄い訳ではなく、エレガントで優しい味わい。タンニンも殆ど感じず飲み易い。酸はシャープだが攻撃的なところは

まったくない。それにしてもこれが2007年産だと言うから恐れ入る。何なんだ、この飲み易さと親しみ易さは!

時間とともに少しコーヒーっぽいフレーヴァーが出て来るが、griotteさんが言われるところのヴォーヌらしい

スパイシーさというのはあまり感じられず。自分のストライクゾーン、かなり真ん中に近いところに位置するピノ。

いやぁ、とにかくエレガントなピノ・ノワール、ごちそうさまでした。こちらのリースリングの流れに見事に配慮して

いただきつつ、そしてコケた際のバックアップも考慮した絶妙の1本。恐れ入りました、ラブワインさん。m(..)m



さて料理に関しては、ソムリエやスタッフの方が一皿一皿丁寧に説明してくれていたにも拘らず内容に関しては

美味しかったとしか記憶にない。一つ一つ質問して納得の上でメモを取られていたutaさんの記事から拝借させて

いただくことにする。utaさんすいません。m(_ _ )m


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まず最初は フォアグラスープ入りのミニコロッケ

ひと口で食べれるようにご丁寧にもスプーンに乗ってある。中身は熱過ぎることもなく、ジューシで美味い。



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グレッサンの雌若鶏冷製

左がモモ肉、右はどこの肉でしたっけ?かぼちゃのソース。上にはコンソメのジュレが乗っていて見た目にも

涼しげで、クセのない淡白な味わい。



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あわび、ムール貝、帆立のサバジードカップ

一番下にラタトゥユ、その上にズッキーニのお皿があって、それにトマトソースのかかった貝たちが乗っている。

何とか崩さずに食べたいのだが...。酸の良いリースリングにピッタリの一皿だった。



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アマダイのポワレ 茸とともに

パリパリの皮が香ばしい。旨味たっぷりのバターソースがフランケンのリースリングに見事にマッチして

この日一番のマリアージュ。



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バスク産豚のロース

柔らかくジューシーな肉は、やはりサッパリとしたピノ・ノワールと相性が良かった。熟成途上のリースリングの

残糖はやはり邪魔。これならむしろフレッシュな南プファルツの辛口でも持って来れば良かった。



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チーズ3種類

どうしても葡萄から離れられずに、レーズン入りを注文(左)。お皿がお洒落。



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くまつづらの葉入りのシャーベット

タピオカ入り。オレンジ色のは何だったっけ?



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デザート

堂島ロールより美味しいとシェフお勧めのロールケーキ。手前は何かのプリン。胡麻の味がした記憶が...。



いつもの如く楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまう。そしてこれまたいつもの如く何を喋っていたのか

どんな話を聞いたのか記憶は断片的で、正確に思い出せない。griotteさんとラブワインさんが愚痴に付き合って

下さったのが嬉しかったのと、utaさんが変な読者と会ってエライ目に遭ったという話がとても面白かったのを

憶えている。そして途中から胃の調子が悪いのも忘れてスイスイ飲んでしまった。酒は百薬の長である。


さて、こちらが用意したショイレーベとリースリング達。一応喜んでいただけたように見受けられたが、

このいずれ劣らぬ飲み手の方々には実際のところどんな風に感じられたのだろうか。もし次にこういう機会を

与えていただけるなら、是非飲んでいただきたい造り手はまだ山ほどある。「また飲みたいねー」から一歩進んで

「今度買う時自分の分も一緒に買ってくれ」・・・そう言わしめた時が本当にリースリングの罠にハマった時であると

考えている。そういう意味ではまだまだ途は遠いのかもしれない。


それにしても何だかんだ言いながら結局一番哀れなのはこの罠を仕掛けた本人である。仕掛けたリースリングの

強烈な酸にやられて今後しばらくは療養することになりそうである。ひょっとしたらutaさんを道連れにしてしまった

のかもしれず、心よりお詫び申し上げる次第です。ただそういう事も意(胃?)に介することなく、その後もバンバン

飲みまくっているあとの2人っていったい何?σ(^_^;)


新・緑家のリースリング日記

最後に忙しい週末の土曜にも拘らず競争率の高い人気店の予約を取り、素晴らしいお店をご紹介下さった

griotteさんと、いつもながら心尽くしのお土産までご用意下さったutaさん、ラブワインさんに心よりお礼申し上げ

ます。m(..)m