265.外命婦/梅見の茶会~全部 俺によこせ | かおり流 もうひとつの「宮」

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「チュ・ジフン&イ・ジュンギな毎日」のまほうの手・かおりが
こっそり書き溜めた「宮」の二次小説を今更公開(四十の誕生日2013/08/18にOPENしました)
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卒業式で小麦粉をばら撒いた男に 金を渡した者を掴まえる為に 駅のCCTV(監視カメラ)も確認した
黒ずくめの男が金の入ったコインロッカーのカギと小麦粉を渡した後 何処へ消えたのか
連絡先は本当に聞かなかったのか
いったい何故あんな端金で皇太子妃にあんな真似を?
いくら問い詰めても口を割らなかった演劇映画科2年の男の名はイム・ジュファン
父親は映画制作会社と配給会社を持つ某有名企業の社長で 金に困っている様子は無い
一級上に俺が入学した事を嫌って 受験を取りやめると言い出して周りを驚かせたという話もあるほどアンチ皇室なのは周知の事実らしい

しかし 恵政殿の関与を示す証拠や鍵は一向に浮かび上がってこない


卒業式から幾日も経たぬ週末…
祝事の席に座る気になれるほど気分は晴れやかでは無かったが ユルの為だ…
仕方なく 支度の済んだチェギョンを伴い香遠亭(ヒャンウォンジョン)に向かう
今月初めに晴れて婚約式を済ませてユルの婚約者となったキム・ミルを 外命婦(王族のご婦人達)にお披露目するのが目的の茶会が開かれるのだ
男の出席者は 俺とユルだけだった

だがその席に あのキム・ミニョンが鎮座していた
なぜだ?!
しかし驚くほどのことでも無かった
そうだった キム・ミルの従姉なのだ
婚約式にも出席していたじゃないか 当たり前だ
従姉だという事は忘れていたわけじゃないが…
俺に対する怨恨ばかりが気に罹り 今日の席に列席するなんてことは頭に無かったし
小麦粉事件に感けて出席者の確認すらしていなかった…

キム・ミニョンは養女とはいえ 金家の本家の娘
婚前である現状は 分家で準王族のキム・ミルよりも位は上なのだ
義母と並んで鎮座する姿は チェギョンの言っていた通り 確かに美しい
だがその胸の内には 俺に対する黒い刃を隠している
その矛先は今 チェギョンに向いている
胸騒ぎを抑えられず 俺はチェギョンの手を取る

「なあに?」
キム・ミニョンに気付いていないはずも無いのに チェギョンに動揺している様子は無い
「平気か?」
俺の表情で何を言わんとしているか気が付いたのだろう 細く笑みを見せ小声で答える
「平気だよ 気にしないで 一昨日名簿を見た時 気付いたから
王族なのは知ってたけど ミルさんの従姉なんですってね」
目を丸くして見せるその表情は 本当に いつものチェギョンだったから
「…そうだったのか?」
知っていたくせに… つい 今知ったかのように誤魔化してしまう
だがなぜ 一昨日気が付いてから今まで チャンスは有ったはずなのに俺に言わなかった?
そりゃあ… 名前を口にしたくもないからだろう
それなのに こうも平然と…?
いや そんなわけないな きっと心中は穏やかじゃない
それを顔に出す事無く 俺の隣で慎ましく微笑んでいる
いつの間に チェギョンはこんなに強くなったんだ?
俺の方がひとり狼狽えたりして 馬鹿だな…


香遠亭(ヒャンウォンジョン)の空気が キム・ミルの点てた茶の香りに包まれ ユルとミルの幸せそうな顔を見ていると
俺の心配が杞憂であって欲しいとつくづく願うのだが…

誇らしげに嫁自慢を始めたのは…間もなく嫁を迎える恵政殿皇太后
「ミル嬢はWK財閥 金家の一人娘 太皇太后陛下も私も 皇后もそうであったように
長きにわたり王族の婚姻は財力と権力を最優先してきた
先の皇帝がお決めになった事とはいえ… 何を根拠にお決めになったのやら…
華やかな衣を身に纏っただけでその気に成っている者も居るが…
庶民的な妃がどれ程民衆に支持を得ようとも 一朝一夕にその地位に相応しく振舞えるものでもあるまい…
何事も為せば成るというものではないからな…
宮中はおろか 庶民であろうと 結婚によって家と家が姻戚となるのだ
価値観の相違は破綻へ繋がるものであろうに…」
な!?

「流石親子 母親に良く似たその曇りの無い瞳の奥に どんな欲を隠しているのやら…
古より受け継がれし王の血を次の世へ繋ぐという尊い役割を放棄しておきながら…
まあなんとも したたかに… よう健やかに育てたものよ…」
外命婦の婦人達を前に府夫人を蔑むなんて…

「世が世なら側室止まりの身分に有りながら…
皇子の寵愛を一身に受け 叔父に良い地位を与えることにも成功したそうではないか…
健やかに育った者はなかなかに逞しい」
言わせておけば!
王立大学の准教授であるキム・スヒョン氏が この春から王族会で有形文化財の管理を任される重要な役職に就くことになったのは 俺やチェギョンとは無関係で 彼の実力なのに!

それでもユルの祝いの席と思えば グッと堪えた俺だったが
「かあさ…!」
「皇太后媽媽!」
反論しかけたユルの声を遮って 言葉を発したのは 皇后である俺の母だった
「今日の佳き日に…相応しくないお言葉は お控えください」
冷めた空気が梅の香りをより強く際立たせる

俺は 静けさの中に低く声をひり出す
「しらけて しまいましたね…
今日の私は 相手がどなたであろうと 悪意のあるお言葉を許すような 寛容な心を持ち合わせてはいません
妃宮 失礼しよう」
ユルに向き直り かろうじて笑みを作る
「ヒョンニム(兄上さま)申し訳ない また別の機会にご一緒しましょう」
今の俺には過ぎるほど冷静に…
爆発しそうな心を抑えて発した言葉に ユルが強い眼差しを向けて静かに頷いた
ユル その眼差しに偽りは無いよな?
大丈夫俺達の信頼はもう この女の如何なる駒による如何なる攻撃にも 振り回されたりはしない そうだろう?信じて良いんだよな?

チェギョンの手を握り 外へ連れ出し 黙々と東宮殿へ続く道を歩く

慶会楼(キョンフェル)の池の前で チェギョンが立ち止まった
振り返ると 震えていた
黒い大きな瞳に 涙を一杯に貯めて…

「シンくん… 皇帝になって! 必ず
もう二度と 皇太子を辞めるなんて言わないで?!」
!?
「あたし!色んなことに耐えて来たわ?
そもそも 中身が誰でも形式だけ皇太子の隣を飾る妃として冊妃された
そんな皇太子妃に庶民として暮らしてきた者は不似合いだとか…
あたしの事は これからも何だって耐える
ミルさんの本家のお嬢様が なんだってシンくんに近付くのか解らない…
ううん 本当は解ってる 解りたくないけど…」

は?待てよチェギョン…何を解ってるというんだ?

「でも耐えるわ?
自分の方がずっとシンくん(皇太子殿下)に想いを寄せてきた…
そして自分の方がずっと皇太子妃に相応しい
今日あの場所に座っていた綺麗な女の子達の誰もが きっとそう思っているんだよね」

なるほど…そう解釈したってわけか…
そこまで言って
きっと 溢れた涙を隠す為 チェギョンは俺から顔を背け池の方へ向きを変えた

「王族の孫だとはいっても ずっと庶民暮らししてきて…
貧乏ったらしさが抜けないのも認める
いくら学んでも関心の無い事はすぐに頭から抜けちゃうし 馬鹿で単純で品が無いのもちゃんと解ってるから 平気
あたしなんて… おっしゃる通り何の後ろ盾も 何の取り柄も無いのに たまたま傍に置いて貰って シンくんに情を掛けて貰えただけで…
その情が無かったら ホントにホントに ただの庶民なんだもの…」
ふぅ… なにもそこまで自分を卑下しなくても…
お前は見た目も可愛いし 心は綺麗じゃないか… それに…情って…まだそんなことを?
そう思われても仕方のない経緯(イキサツ)ではあったが… たまたまで傍に置いたわけでも無い

「オンマがあたしを利用して 捨てた身分に返り咲こうとしてるなんて言われたのは一度や二度じゃない…
だけど これ以上 オンマを アッパを そしてスヒョンさんまで!侮辱されたくない!!
もうこれ以上あの人に ううん… 誰にも あたしの家族を見下されたくない!!」

怒りに震えるチェギョンを背後から抱き寄せ コチラを向かせる

俺が皇帝に成る事が コイツにとってそういう意味を持つ事は はじめから解っていた
だが…
俺はチェギョンの両肩を掴み 瞳を見詰めて首を振った
「お前は それを言っちゃいけない その発言は 国母に成る者として 好ましくない」
「!?」
「いや…違うな…そんなのは建て前だ…
これからは 本音で向き合うとあの日約束した… 誤魔化さずにちゃんと言おう…
お前にそれを言わせるなんて 俺のプライドが許さない
俺がお前のどんなところを愛しているか 知っているか?」
呆然と俺を見上げるチェギョンは眉を寄せ 涙で睫毛を濡らしている
「解らないのか?」
困ったように唇を噛む チェギョン

「お前は
純粋で綺麗な 透明な水の様だった
俺がこれまで出会った事の無い女だ
なのに
俺が此処に呼び寄せたせいで 随分濁らせてしまった
俺の周りを取り巻く物に これ以上穢されないでくれないか?」
「そんなの…違う…」
チェギョンが小さく首を振る
だから俺は大きく首を振った

「いや違わない お前は身も心も清い女だった 眩しくて直視できない程にな…」
まだ小さく首を振り続けるチェギョンの肩から 背中に手を滑らせて抱き寄せる
「これ以上穢れるな…純粋で真っ直ぐで清い女で居ろ 汚い事を言うのは俺に任せておけ
お前は愛らしく笑っていろ
내가 널 지켜 줄게/ネガノルチッキョジュルッケ/俺が お前を守るから」

「シンくん… 買い被りだよ…
皇子様はあたしなんかに騙されてるの?
ちっ なんにも解ってないんだから…」
チェギョンが小さくむくれる
「何を解っていないと言うんだ?」
「あたしだって 胸の中にいっぱい汚い言葉を溜めこんでるんだもん」
小さな手を握り締めて その胸をトンと叩く
「そうなのか?ではこうしよう」
「え…」
俺はチェギョンの唇を塞いだ 息もできない程長く唇を吸い上げた
一旦唇を離して瞳を覗く
「全部 俺によこせ」
そう言って再び口付ける
チェギョンの胸に渦巻く重い悲しみや怒りを 全て俺が吸い取ってしまいたかった
「まだか?まだ悔しいか?」
再び解放して問えば コクリと頷くチェギョンの細い項(ウナジ)を左手で強く握り締め 唇を割り可能な限り舌を伸ばす
チェギョンが嘔吐き(エズキ) もがき苦しむまで続けてから 再び唇を解放する
額をぶつけて 涙目の彼女を見詰める
「もっとか?」
それでもやっぱり頷くチェギョンに もう一度深く口付ける
何度も 何度も 彼女が嘔吐く
やがて彼女の全身から力が抜け くったりと俺に凭れる

「お前の怒りも 悲しみも 全て 俺が引き受ける 俺の許可なく悲しむな いいな」

収まりの付かぬ苛立ちをなんとか胸に仕舞い 幼子を抱き上げるようにして
チェギョンを肩に担がんばかりに高くこの腕に抱き 東宮殿へ続く庭園の一本道を最大限のストロークで歩む
「うっ…くっ…」
「泣くな 俺が愛しているから お前だけを」


今日もありがとうございますカムサハムニダ

注釈:気に罹りですが本来は”気に掛かる”こちらを使うべきところですが
病まんばかりのシンくんの心境に基づき
病に罹るときの方の漢字を使っています ご了承ください


怒りも悲しみも不安も 全て俺に託して お前は只俺の愛しい笑顔で居てくれ
そんなこと言われても… ムリだよシンくん ちゃんと話してあげてよ
シンくんの抱えてる物も チェギョンと二人で分かち合おうよぉ

4/1(水)→266.抱き上げられて東宮殿へ~抱いててやるから もう眠れ

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