〝「時給40セントでした。
でもそこから、部屋代と医療費で
毎日2ドルずつ引かれましたから、
残高はあっと言う間にマイナスになり、
気づいた時には
他の未払い金と一緒に返済可能な額まで
膨れ上がっていったのです。
「刑務所の増設」と「刑務所運営費削減」措置?~日本版プラン・メキシコへの策動(15)~
アランは出所して
すぐ仕事を始めましたが、
借金を抱えた前科者という立場では、
どこでも断られてしまう。
「刑務所内では
模範的な囚人だったと思います。
作業は丁寧にしましたし、
他の囚人たちともトラブルを起こさないよう
大人しくしていましたから。
ボクはブロンクス出身なのですが、
家が貧しいので、
出所したら真面目に働いて
家計を支えるつもりでいました。
でも面接に行くと、
こう言って断られてしまうのです。
『前科があるだけで差別するつもりはないが、借金額がちょっとね』と。
仕事がなければ借金も返せないし、
社会復帰なんて絶望的です。
そのうちあきらめて
こう思い始めました。
結局、
もう一度塀の中に
戻るしかないんだって」
(引用者中略)
ブルックリンに住み、
本業の他に
貧困地域の未成年被告の法廷弁護を
ボランティアで務める
弁護士のマイク・ウォーレンは、
刑務所が
もはや「犯罪防止のための場所」や
「更生の場所」ではなくなった現状を
指摘する。
「アメリカ国内の刑務所では、
社会復帰させるための職業訓練や教育は、
コスト削減で真っ先に廃止されるのです。
技術も教育なしに、
巨額の借金だけを背負った若者たちを
大量に出所させたらどうなるか?
あっと言う間に再犯で
Uターンですよ。
<スリーストライク法>が
このループ(悪循環)を
加速させました。
今では刑務所の存在は、
連邦や州が直面する
財政難の解決策に
他なりません」
1994年に州法として成立した
スリーストライク法は、
犯罪者が三度目の有罪判決を受けた場合、
最後に犯した罪の重さに関係なく
自動的に終身刑にする
という法律だ。“
(P.157-158)
さきほどのウォーレン弁護士いわく
“「重罪で投獄される犯罪者の8割は貧困層で、
経済的困難から犯罪に走るのです。
なのに、その彼らに
刑務所の中で
さらに借金を背負わせるんですから」“
(P.159)
“若者の逮捕率の上昇は、
他の多くの州でも報告されている。
そして、スリーストライク法によって
追い打ちをかけられた結果、
つぎつぎに終身刑になる若者が
増えているのだ。“
(P.180)
これまでの一連記事において、
私たちは、
1980年初期に始まった<レーガン政権>の
「新自由主義」政策により、
<中流階級>が底辺に追いやられたり、
すくなくとも、
「雇用不安定化」や「雇用融解」にさらされ、
また<貧困層>や
<生活受給を必要とする人々>が、
「市場経済の辺縁」や「路上に放り出された」事で、
”社会は荒廃”し、”風紀は乱れ”、
「非合法な経済活動」や「軽犯罪を犯す」ことでしか、
生きていけない人々が、続出したのでした。
その事から、
こうした「荒廃」や「悲惨」の根源や根本原因は、
「新自由主義」政策にあるにもかかわらず、
その根本原因の見直しや是正、
つまり「新自由主義」政策からの方向転換を
行なわずに、
その「新自由主義」政策の<煽りを食らった人々>、
「新自由主義」という<政策の犠牲者たち>を、
”徹底的に取り締まり、監獄にブチ込む”という
新自由主義政策をフォローする補完品として
機能することで、
”根本原因が新自由主義である”ことを隠したり、
「問題のすり替え」に寄与しているのであるが、
「ゼロ・トレランス(非寛容)」政策は、
新自由主義政策の”あと片付け”的なものとして
機能するばかりではなくて、
<囚人労働者>という
「海外アウトソーシング」のネックである
”「言語の壁」が無くて”、
”超々低賃金”で
”人権無視の劣悪な労働が可能
(「偽装請負」と同じく、
企業の使用責任が問われない)”という、
<グローバル企業>にとって、
これほど美味しい労働力はなく、
しかも、
「塀の中(刑務所内)へのアウトソーシング」により、
塀の外(社会)の<働き手>には、
「雇用融解」や「雇用不安定化」という、
”現時点での労働力の究極の買い手市場化”を
もたらしてくれ、
そして傾いた企業やその部門を、
二束三文で買収することを
可能にしてくれるかもしれない
「囚人労働者」を、
「ゼロ・トレランス」政策、
およびその政策の下での「刑務所」は、
生み出す。
つまり、
政府による「新自由主義」政策ばかりでなく、
社会に向けて「刑務所」も、
「破壊」を吐きだすようになっているし、
また<受刑者の若者>を
”借金づけの元受刑者”に”再生産”することで、
社会復帰できなくさせ、
”刑務所に逆戻りさせる運命の奴隷”に、
「仕立て上げる=再生産する」ような、
けっして「あと片付け的な位置」ばかりでは
ないからです。
<貧困者>を、
「経済奴隷にする工場」という<刑務所>に、
さらに法律面でも、
”どんな罪状であれ、
三度捕まってしまえば「終身刑」になってしまう”
「スリーストライク(三振)法」を成立させることで、
「永久囚人労働者」の烙印を押して、
「21世紀型の合法的経済奴隷」化構造を、
さらに強固化させるようになっています。
「新自由主義」政策と「グローバル化」
ばかりでなく、
<社会復帰の道を閉ざされた借金づけ出所者>
を再生産する「監獄」と
「スリーストライク法」の犠牲になって、
「終身刑」になってしまう<若者たち>の数が、
そして勿論、全体的に<逮捕収監者>の数が、
増加していくとなれば、
当然に「刑務所」の数が増えていく訳であります。
しかし、「刑務所建設や運営」には、
カネが掛かるはず・・・
「刑務所の増設」と「刑務所運営費削減」措置?~日本版プラン・メキシコへの策動(15)~
(しかも以上に引用させてもらった
引用文のなかに、
「刑務所」という存在が、
アメリカ合州国政府や自治体の州政府の
”財政難の解決策になる”という
奇妙な発言も出てきています。)
以下、堤未果『貧困大国アメリカⅡ』より引用。
“《魔法の投資信託REIT》
・・・刑務所自体に
それほど費用がかかるとすれば、
国も州政府も
刑務所建設予算を削減しようとしないのは
なぜなのか。
「ウォール街で
今もっとも価格が高騰している
投資信託商品の一つ、
刑務所REIT(不動産投資信託)の
せいですよ」
そう言うのは、
マンハッタン在住の投資アナリスト、
ロバート・ウィリアムソンだ。
「つまり、刑務所の建設と土地を所有して
テナントに賃貸する、
不動産投資信託です。
この場合のテナントとは、
主に州の自治体ですね。
通常これらの刑務所を賃貸する場合、
契約期間は10年で中途解約はできません。
管理費や修繕費は
すべてテナントもち、
何とも美味しい商売というわけです」
財政難の州政府が
刑務所建設を推進することは、
矛盾するように思える。
だが、投資信託会社をはじめ、
刑務所建設によって
恩恵を受ける
各業界から
巨額の献金を受け、
選挙公約に
新規の刑務所建設を
盛り込む政治家が
少なくないのだ
とロバートは言う。
「刑務所は
地域住民には職員としての雇用機会を与え、
騒音もないから
周辺の環境も静けさが保たれます。
囚人は
収監されている刑務所の
地域住民として数えられるため、
国からの助成金も増える。
刑務所建設は
政治家にとって、
公約にする正当な理由を
たくさん与えてくれるのです」
「建設費用のスポンサーは
誰がなるのですか?」
「ウォール街の金融大手が
投資します。
たとえば、民営刑務所最大手のCCAは
メリル・リンチやアメリカンエキスプレス、
シェアソン・リーマンなどが
バックアップしています。
さらに<ベッドブローカー>という中間業者もいて、
州と中間業者、CCAと投資家たち全員が
もうかるしくみになっています」“
(同 P.178-179)
「刑務所の中の囚人労働者への
国内アウトソーシング」により、
買収や合併で人員整理に遭ったり、
職を失ったり、倒産の憂き目にあったりして、
<ホームレスになってしまった人>の生の声が、
同書のなかで出てきます。
”厳罰化に犯罪を減らす効果があるという理論には
欠陥があると思います。
今この国で急激に増えているホームレスの多くは、
私のようなごく普通の労働者だからです。
善良な市民が、
厳罰化によって
「市民を廃業」させられている。
名前さえ持たない影のような存在になり、
メディアに不安を煽られた
人々の意識によって、
視界から消えることを望まれ、
どんどん孤立化していくのです。
ホームレスになって、
警察も政府も、
私たちがもう一度社会に戻ることなど
望んでいないことが
よくわかりました。
公共の場から追い出し、
炊き出しを違法にすれば、
選択肢は刑務所以外はない
のですからね。”
(同 P.189-190)
そうして、コンピューター技師だった
チャック・ニーウェルさんが、
2007年に解雇されて、ホームレスとなってしまい、
「ゼロ・トレランス」政策のもと、
刑務所に収監されてしまえば、
チャックさんも、否応なく、
「雇用不安定」と「雇用融解」、
そして「買収」や「合併」、「倒産」や「失業」を
もたらし、
つまりは「社会」と「人々の人生」を破壊する
「刑務所内国内アウトソーシング」に、
従事させられて、
<チャックさんと同じ憂き目にあってしまう人々>
を、
より増やしてしまう事になってしまうのでしょう。
こうしたきわめて悲惨な悪循環は、
”偶然に起こってしまった事態”なのでしょうか?