進化論にもの「申」す? | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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猿の軍団
 

とっぴ「やほ!」
ひろじ「やあ」
とっぴ「このイラストは・・・猿? 申年だから?」
ひろじ「まあね」
あかね「へんねえ。服を着てるわよ」
ひろじ「むか~し、TVで放映されていたドラマ『猿の軍団』の猿だよ。人間みたいに喋って、人間の文明を引き継いでいるという設定だね」
あかね「へえ、おもしろそう」
むんく「映画の『猿の惑星』みたい・・・」
ひろじ「その通り。よく知ってるね。あの映画が大ヒットした後に作られた番組だよ。でも、科学考証はこっちの方がしっかりしていたと思う」
とっぴ「考証って?」
ひろじ「例えば・・・そうだな。猿たちが石なんかを投げるシーンが出てくるんだけど、上手では投げないんだ。本物の猿はたいてい下手で物を投げるからね。よく、研究されていたと思うよ」
とっぴ「そうなの?」
ひろじ「今度、動物園やモンキーパークでよく見てごらん」

とっぴ「あれ? そのくたびれた本は? ・・・『キリンの首』って、ヘンなタイトルだな」
ひろじ「もう30年位前に日本で翻訳された本だけど、イギリスのヒッチングという科学ジャーナリストがダーウィンの進化論の問題点を一般の人にわかるように書いた本だよ。おもしろい本だよ」
あかね「それ、今でも手に入るの?」
ひろじ「うん。ずいぶん古い本なんだけど、気になってちょっと調べてみたら、アマゾンなんかのネット販売で、まだ安値で手に入るみたいだよ。ただ、アマゾンのコメント欄を見ると、読んだ人には、案外内容が誤解されているみたいだけど」
ろだん「誤解って?」
ひろじ「この本ではおもに『ダーウィンの進化論』の問題点をとりあげているんだけど、それが、『進化論自体を否定する側から書いた本』みたいに思われるみたいだね。つまり、創造説の支持者、あるいは後に形を変えて現れたインテリジェントデザインの支持者の本だから読む価値はない、とか。科学の専門家ではないから、いろいろと迷走もしているけど、ジャーナリストっぽく、一つ一つの長所欠点を好奇心強く分析している。こういう取り上げ方って、なかなかできないと思うよ。たしかに、著者自身はインテリジェントデザインに影響を受けて、それを紹介していこうとする意図が見えるけど、その点については失敗していると思う。この本の価値は別のところにあるよ(*1)」
とっぴ「ダーウィンの進化論の問題点って、なに? そもそも、問題点があるの? 教科書でも習うじゃん」
ろだん「それ、たぶん、化石との食い違いのことじゃないかな。ダーウィンの進化論って、自然淘汰でちょっとずつ進化して、その積み重ねで動物が変わってきたっていうやつだろ?」
あかね「へえ、詳しいのね」
ろだん「おれ、化石が好きなんだ・・・でも、化石って、ダーウィンのいう通りじゃないぜ」
とっぴ「え? え? どういうこと?」
ろだん「おれが小さな頃読んだ本には、馬の祖先として、小さな馬の化石が紹介されてたけど・・・ヘンなんだよな」
あかね「何がヘンなの? わたしもそういう本読んだことあるけど、骨の作りとか、似てたわよ。小さくても、馬は馬でしょ」
ろだん「そうなんだけど・・・途中がないんだ」
とっぴ「は?」
ろだん「途中だよ。小さい馬と大きい馬。少しずつ進化して大きくなってきたのなら、途中の大きさの馬の化石が順番に見つかっているはずじゃん。でも、どの本を見ても、並べてある馬の化石はみんな同じ。とびとびで、途中がないんだ」
あかね「化石って、そうなんでもかんでも見つかるわけじゃないでしょ。たまたま、見つかってないだけじゃない? だからとびとびになるんでしょ」
ひろじ「ろだんくんは、相変わらず観察力がシビアだな。この『キリンの首』も、まさにそれをテーマにした本だよ。ダーウィンの進化論がなにもかも正しいなら、進化は少しずつ進むはずだから、中間の段階の生き物の化石がいっぱい見つかっていないとおかしいって」
とっぴ「うーん・・・もうちょっとわかりやすく、状況を説明してくれないかな」
ひろじ「じゃあ、本のタイトルにもあるキリンの例だと、こうなるかな」
 

 

 

進化論04
 

とっぴ「あ」
あかね「途中の長さの首のキリンの化石、見つかっていないの?」
ひろじ「きりんに限らないけどね。化石を調べていくと、どの動物もたいてい、いきなり現れる。化石を調べる地質学者の間では当たり前のことなんだろうけど、ダーウィンの進化論では、説明できないことだ」
とっぴ「じゃ、神様が作った・・・」
あかね「とっぴ!」
ひろじ「たぶん、この本を創造説を支持する著者が書いた本だと判断する人は、そういうところでひっかかったんだろうね」
ろだん「化石が不連続なことは、事実としてあるんだから、受け入れるべきだろ? オレもだからって、神様が作ったなんて、信じないけどな」
とっぴ「じゃ、なんだろう・・・」
むんく「大絶滅・・・」
とっぴ「あ!」
ひろじ「5回の大絶滅では、とくに顕著だっただろうけど、環境の激変はそれ以外にも何回もあっただろう。むんくくんみたいに、そのつど、大きな進化が起きて、動物の系統に不連続が生じたと考える人たちもいる。地球の磁場は地質年代と比較しても比較的短い間隔で逆転を繰り返しているし、大陸移動による地殻変動もなんども起こっているはずだ。また、地球全体が氷結したなんて話まである」
あかね「でも、それも想像でしょ」
とっぴ「創造説よりは、ありえそうじゃない?」
ひろじ「今西進化論(*2)みたいに、進化の方向性は種としての生命体の内部に備わっているというのもあるよ。突然変異を起こして自然淘汰によって進化するというネオ・ダーウィニズムでも、生物の種がうまい進化を遂げてきたことは説明しづらいから、今西進化論では、生物自身に進化の方向性が内包されていると考えるんだ」
あかね「哲学みたい。・・・いろんな進化論があるのね」
ひろじ「じつは、連続的な進化というダーウィンの信念に関しては、進化論が登場したばかりの頃に、ダーウィンの熱烈な支持者だったハクスリーがダーウィンに忠告している。頑固なダーウィンは聞き入れず、連続的な自然淘汰による進化という説を押し通したんだって」
あかね「そっか。ダーウィンの支持者も、連続的な進化があるかどうかは疑わしいと思っていたのね」
ろだん「おれは、事実を積み上げるだけにしておいたほうがいいと思うな。いままで見つかった化石を地質年代とあわせて表をつくっていけば、少なくとも生物進化の事実だけが見える表ができる。それがどういう理由でそうなってきたのかというのは、科学的な事実の解釈にすぎないんじゃないかな。解釈は人によって何通りも可能だから、それで議論しても、決着はつかないぜ」
あかね「わたし、ろだんに賛成! その進化の理由が突然変異と自然淘汰だというのは、まだ信じてるけど・・・それはあくまでも解釈の一つだから、まず事実を優先すべきね」
ひろじ「事実とあわない細かい点はあるけど、生物が進化してきたという基本概念は認められるだろうね。そういう意味でも、ダーウィンの理論は革命的だった。ハクスリーは、こんな簡単なことに気がつかないなんて、オレはなんてバカだったんだ、みたいなことまでいっている」
とっぴ「ダーウィン、すごいね」
ひろじ「そのダーウィンも、ウォレスから論文と手紙が届いたときは、落ち込んだんだって。その論文には、ダーウィンが考えてたのとそっくりな進化論の内容が、高いレベルで書かれていた。先取権が奪われると嘆いたんだ。ダーウィンはそれをなきものにしようとはせず、ハックスリーにどうしようかと相談しているから、公正な人だったんだろうね」
とっぴ「ウォレス・・・って、どこかで聞いたことがあるな・・・」
あかね「電子と幽霊(※)で、登場した人でしょ。ウォレスも進化論の提唱者の一人として有名よ。とっぴ、知らないの?」
とっぴ「あ・・・そんな気も・・・」
あかね「そういえば、あの話のとき、ハクスリーもちょっとだけ、登場したわよね」
ひろじ「うん、当時の科学者たちはじつにさまざまなことに関わっていたからね。教科書なんかで習う一通りの知識じゃ捕らえきれないと思うよ」

ろだん「そういえば、並行進化ってあったよね。オーストラリア大陸には哺乳類がいなくって、有袋類がさまざまな形態の生き物にわかれて暮らしているってやつ」
とっぴ「あ、それならぼくも知ってる! カンガルーの仲間だけで、オオカミやウサギなんかの、いろんな生き物の種類を作っているって話でしょ」
あかね「そうか、それも進化の一つね」
むんく「・・・あ・・・恐竜・・・」
とっぴ「え?」
ろだん「あ、そうだ! この間の古生物カレンダー、恐竜の時代は、鳥みたいなのも、イルカみたいなのもいたな。恐竜だけでいろんな生き物を実現している。オーストラリアの有袋類と同じだ」
 

 

進化論07
 

ひろじ「こんな感じかな」
ろだん「それ、それ!」
とっぴ「すごいよね。恐竜だけで、陸、海、空、すべて支配してるんだから!」
ろだん「環境に合わせてなんらかの理由で進化が起こり、環境にあった形態になる。これは証拠がきちんと残されているから、科学的な事実となるだろ」
あかね「なんらかの理由って何?」
むんく「適者生存・・・自然淘汰」
あかね「それが、ダーウィンの進化論ってことね」
とっぴ「ところで、このイラスト、恐竜がみんなナントカザウルスって、『ザウルス』になってるね。『サウルス』じゃないの?」
ひろじ「イタッ、、、昔は『ザウルス』といっていた。少なくとも、ぼくの子供時代にはね」
あかね「英語の辞書でも、SAURSはサウルスって発音になってるわ。なぜ濁ったのかしら」
ひろじ「ドイツ語読みだとSAURUSはザウルスと発音する。だから、もともとはドイツ語起源の言葉なのかもね。エネルギーみたいに」
とっぴ「え、エネルギーもそうなの?」
あかね「とっぴ、英語でENERGYはエナジーよぉ・・・」
とっぴ「(無視して)ひろじさんは、ザウルス派なんだ」
ひろじ「(咳払いして)まあ・・・ね。ぼくらにとっては、ザウルスが普通だった。子供向けの絵本や恐竜百科はみんなナントカザウルスだったから」
あかね「昔は、ドイツ語で理科の授業受けてたの? すごいわね」
ひろじ「イヤイヤ・・・じつは子供の頃、怪獣ドラマが日本中でものすごく流行ってね。『ウルトラQ』とか『ウルトラマン』とかに出てくる怪獣の名前に、ナントカザウルスってのが多かったんだ。恐竜図鑑も、その怪獣ブームにあやかって出版された。それで、当時でも学術的には英語読みでナントカサウルスだったのが、怪獣物っぽく、ナントカザウルスになってたんじゃないかな、今考えると・・・」
とっぴ「ひろじさん、じゃ、ずっとそんなのばっか見てたんだね。怪獣物とか、猿の軍団とか。なんだか、ぼくの好きなものに似てる!」
ひろじ「うん、自由にあれやこれや考えるきっかけになるものが好きだったんだ。とっぴくんとは、似たところがあるかもしれないなあ・・・」


(*1)ジャーナリストは科学的なものの見方という点で訓練を受けているわけではないので、科学的な話題もトンデモ話も同列に扱われています。そもそも、学術的な本ではありません。その点で本の評価を下すなら、価値は低いでしょうね。著者自身は、当時勢力を増してきた「インテリジェント・デザイン」の考え方に傾倒していて、特に本の後半ではそれを強調しようとしているようですが、大量に集めたさまざまな話題の海の中で(著者の意図とは裏腹に)埋没してしまっています。本文にも書いたように、この本の価値は、ダーウィンの進化論やネオ・ダーウィニズムの弱点をきちんと指摘していることと、進化と古生物に関わる研究の裏話を詳しく紹介しているところにあります。
(*2)今西錦司の最初の本「生物の世界」が、もっともわかりやすく、刺激的です。文庫版が手に入りやすいでしょう。また自分の進化論とダーウィニズム、ネオダーウィニズム(綜合理論)との比較を論じた「進化とは何か」も文庫になっています。有名な「棲み分け」理論(適者生存とは異なる科学的事実)の内容についても、この二冊に詳しく述べられています。

追記:著者の迷走について、もう少し詳しいコメント(*1)と今西錦司の著作の紹介(*2)を追記しました。
 

 

 
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