血液型性格判断は当たるのか

とっぴ「やほぉ、また来たよ」
ひろじ「いつでも、どうぞ。今日は何？」
あかね「とっぴがまた、ヘンなことをやりたいっていうから・・・」
とっぴ「ヘンかなあ」
ろだん「ヘンだと思うぜ、おれも。ま、でも面白そうだし・・・」
むんく「・・・」
ひろじ「何の実験？」
あかね「実験・・・っていうか・・・」
とっぴ「あのね、血液型で性格を調べるのあるじゃん。『何とか型は芸術家向き』とか『何とか型は頑固』だとかさ。あれ、ほんとかどうか試したいなと思って」

あかね「そんなの、調べる意味ないわ。もっと、ちゃんとしたことやろうよ」
とっぴ「あかね、この間も、なんでもやってみないとわからないね、っていってたじゃないか」
あかね「でも、これはいくらなんでも、科探隊のやることじゃないと思うわ」
ひろじ「ん～、そういわれると、ぼくもつらいな・・・」
あかね「え？　ひろじさんも、まさか・・・」
ひろじ「うん、調べてみたことがあるんだ、それ」
とっぴ「うわあ、それで、どうだったの？」
ひろじ「ええと、どこかにあったはずだけど・・・あ、これだ」
あかね「Ａ型・・・生き方の基本は・・・生活態度は・・・思考行動は・・・感情表現は・・・いろいろ細かく書いてあるわね。何、これ。雑誌の切り抜き？」
 

ひろじ「そう。女性向けの雑誌に載っていた血液型性格判断のページ（＊１）を切り抜いたものだ。Ａ型、ＡＢ型、Ｂ型、Ｏ型、それぞれについて、四項目の内容が詳しく書かれている。これをたくさんの人に見せて、すべての血液型について、自分に当てはまるかどうかを数値化して記入してもらったんだ。用紙には、もちろん自分の血液型も記入してもらう」

とっぴ「え、自分の血液型のところだけ見るんじゃないの？」

ろだん「そりゃそうだろ。対照実験がなきゃ、信頼できる結果にはならないぜ。例えば、Ｏ型の人がＯ型の記事を見て、自分に当てはまると思っても、他の血液型が自分にあてはまらないことが確認できなきゃ、性格判断が当たっているとはいえないだろ」
ひろじ「ろだんくん、その通り」
あかね「数値化はどうやったの」
ひろじ「8割以上当たっていると思ったら１，６割～8割当たっていると思ったら２，半々（5割前後）くらいだと思ったら３，２割～4割当たっていると思ったら４，2割以下だと思ったら５とする。全ての血液型の各項目ごとに数値化して、提出してもらったものを、集計したんだ」
とっぴ「それで、結果はどうだったの」
ひろじ「１２０人くらいの人のデータを集計した（＊２）んだけど、例えば、そのうちＯ型の人３０名弱の結果がこれだよ。プリントに書かれている血液型の項目が自分に当てはまるかどうかを数値化した表だ。先ほどのルールで数値化したものの項目ごとの平均値とトータルの平均値。数値が小さいほど、当たっている、という意味になる」
 

とっぴ「Ｏ型のところ、数値が低い！・・・ということは、当たっていると思った人が多いってこと・・・つまり、血液型性格判断はよく当たる・・・」
あかね「そんな・・・」
ろだん「うーん・・・」

むんく「他の血液型の人は？」
ひろじ「どの血液型の人も、自分の血液型のところが数値が一番低かったね」
とっぴ「・・・だって、さ。ほら！」
あかね「・・・おかしい。何か、ヘンよ」
とっぴ「何かって・・・何だよ」
あかね「そんなにぴったり合うなんて、何かヘン」
ろだん「そうだな。実験の結果なんて、思ったようにはデータがそろわないのが普通だぜ。できすぎてるよ」
ひろじ「科探隊のみんなはさすがに鋭いね。じつは、このデータにはちょっとした秘密がある」
ろだん「ほら、きた！」
ひろじ「さっきの雑誌の切り抜き記事なんだけど、ちょっと加工してあるんだ」

とっぴ「え・・・まさか・・・」
ひろじ「うん。カンジンの血液型のところなんだけど、原本の記事とは違う血液型が入れてある。つまり、ウソの記事になるね。例えばさっきの Ｏ型の記事は、本当はＢ型の人用の記事だった。それを入れた表がこちら」
 

とっぴ「あらら・・・Ｏ型の欄は数値が一番高いね・・・」
ろだん「これじゃあ、まるっきり逆だな。性格判断はまるで当たらないってことになる」
ひろじ「他の血液型の人のデータも、全部見ておこうか」
 

あかね「すごい。どの血液型の人も、数値が一番低いのは、ウソの記事の血液型だわ。本当の記事の血液型じゃない」

むんく「・・・思い込み」
ひろじ「そう。このデータを分析すると、明かな傾向がわかる。つまり、どの血液型の人も、自分の血液型のページに書かれたウソの記事を見て、自分に一番当てはまっていると感じているんだ。それはどういうことかというと・・・」
むんく「当たっていると・・・思いたい」
あかね「そうね。記事を読む前から、血液型性格占いは当たっていると思い込んでいるってことだわ」
とっぴ「えーっ、そうなのか」
ろだん「本当の血液型との相関は・・・このデータを見る限り、ないな」
ひろじ「人間の判断力がいかに当てにならないかを示しているともいえるね。人間はものを見るとき、自分では気がつかない【フィルター】を通して見ている。公正に見ているつもりでも、先入観の影響を少なからず受けているんだ」
あかね「少なからずどころか、大いに、よ。このデータはショックだわ。わたしも今までいろんなことを理性で判断してきたつもりだったけど・・・先入観があったかも・・・」
ひろじ「自然科学の実験データを分析するときも、同じことが起こる。人間がやることだからね」
ろだん「おれも、気をつけよう」
とっぴ「ぼくも」
あかね「とっぴはいつも、何も考えてないから、だいじょうぶよ」
とっぴ「それこそ、思い込みだよ・・・」


＊１：「ＬＥＥ」１９８４年１０月号の記事を加工したもの
＊２：１９９１年１２月に名古屋市立高校の高校生１１７名を対象に行った調査

 

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