コロンブスの「地球」 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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神様


とっぴ:最近、よく呼ばれるなあ。
ひろじ:ごめんごめん。きみたちと話すのが楽しくなってきてね。
あかね:こんばんは。今日はろだんくんを呼んできたわ。
ろだん:オレ、なんか口先だけで話すのダメなんだよね。
ひろじ:ろだんくんは、実験至上主義だからね。ある意味、科学の権化みたいな存在だよ。
ろだん:そんなりっぱなもんじゃないよ。ただ、実験しないと気が済まないだけだからさ。
ひろじ:それこそが自然科学の基礎だよ。ガリレオが切り開いた地平だな。
ろだん:だからさ、そういうわけのわかんない言い回し、やめてくんない。わかんないからさ。
ひろじ:いや、失礼。とっぴくん、あかねちゃん、今日はガリレオの直系を連れてきたね。
とっぴ:最近、ここへ呼ばれて、いろいろ楽しいことやっているっていったら、ろだんがオレも連れて行けってうるさいからさ。
あかね:たくさんで来た方が楽しいし。
ひろじ:きみたちは一人一人、じつに興味深いよ。今日は来てくれてありがとう。
ろだん:ふっ、そうかな。
とっぴ:で、今日は何の話なの。また、アリストテレス?
ひろじ:ううん、ちょっと気になっていることがあってね。
あかね:何の話?
とっぴ:うん、ガリレオの地動説の話のとき、地球が丸いってことも問題になっていた話をしただろ?
あかね:そうね。ガリレオが地球が丸いのを利用して地球トンネルの話をしたって話だったかしら。
ひろじ:そうなんだ。地動説と天動説の対立の話はどこにでも載っているけど、地球が丸いって話は、微妙だから、気になってね。
あかね:ということは、コロンブスの話?
ひろじ:するどいね。まさにその辺り。
とっぴ:で、で?
ひろじ:調べてみるとね、前に話したように、地球が丸いって話そのものは、もうギリシャの時代に出てる。
とっぴ:そんなに昔に? じゃ、なんで長い間認められなかったの?
ひろじ:まあ急がないで。いろいろあるんだよ、長い歴史の間には。
ろだん:なんだか、もってまわった話だな。もっと、ずばりといって欲しいもんだ。
ひろじ:ごめんごめん。大地が丸いというのは、船が生まれると同時に疑問が生まれている。遠くからやってくる船が、まずマストから見え始める、とかね。
とっぴ:そうか、上から見えるんだから、大地が丸いって事だね。
ろだん:うん? なんだか、すっきりしないな。地球って大きいだろ。
とっぴ:そりゃ、大きいさ。
ろだん:遠い海に船がやってくるときには、水平な方向に船が見え始めれば、たしかにマストが船体より先に見えるはずさ。でも、人間の目で、そこまで見分けられるのかな。オレなんか、みんなより目がいい方だけどさ、そんなところまで見分ける自信、ないなあ。
ひろじ:まさにその通り。さすがろだんくんは、実証主義だね。いろんな本にそんな話が紹介されているけど、実際に、船のマストから見えるというのはどうかなあ。よほど目がいいならべつだけど、望遠鏡を使わないとそこまでは見られないんじゃないかな。逆に、船から見て島の山の頂上から見え始めるというのならわかるけどね。
とっぴ:あのさ、コロンブスの話はどうなったの?
ひろじ:うん、じつはいろいろ調べてみるとね、よくいわれてる話はどうも違うなあとわかってきたんだ。
あかね:どういうこと? コロンブスが大航海をして、地球が丸いって分かったって話のこと?
ひろじ:うん。一般には、教会が大地は平らだっていってるのを、コロンブスが大航海をしてインドに(実際にはアメリカ大陸)到着したことで、地球が丸いということが証明できたってことになってるけどね。
あかね:え、そうじゃないの。
ひろじ:事情はもっと複雑みたいだよ。そもそも、地球が丸いって話は、プラトンやアリストテレスがもういっている。
あかね:え? 教会の人たちが信奉していたアリストテレスが?
ひろじ:意外だろ? アリストテレスは地球が丸いと主張していたんだ。教会の人たちも、最初はそういった説を排除しようとしていた。
とっぴ:うーん、なんだかわかんなくなってきた。アリストテレスって、教会の人たちの切り札じゃないの?
ひろじ:そうでもないよ。アリストテレスが教会に権威として認められるようになったのは、ガリレオの時代のちょっと前くらいだと思うよ。中世のいわゆる暗黒時代に、ギリシャのいろんな理論は、中近東の文化圏に引き継がれた。それが逆輸入でヨーロッパに入ってきた。アリストテレスが絶対的な権威になったのも、その頃の話じゃないかな。
あかね:ガリレオが困ったことになったのは・・・
ひろじ:うん、タイミングの問題もあったかもね。でも、中近東の研究を通じて、ガリレオもたぶん、中近東の研究家たちの成果を引き継いでいるから、そのへんのプラスマイナスはとんとんじゃないかな。
あかね:と、いうと?
ひろじ:たとえば、「慣性」は中近東の研究者たちはインペトスという言葉で似たような概念を持っていたんだ。ガリレオもそれを読んでいるはずだよ。
とっぴ:あのさ、地球が丸いって話はどうなったの?
ひろじ:3、4世紀頃にはさすがのキリスト教の神学者たちも、地球が丸いって話には理論的に対抗できなくなってきたみたいだよ。19世紀に出版された「科学と宗教の闘争」(ホワイト著:森島恒雄訳:岩波新書)には、そのへんの事情が書かれている。4世紀の聖人バシリウスは「大地が球形であろうと円筒であろうと円盤であろうと、そんなことはわれわれとはなんの関係もないことだ」といっている。地球が丸いっていう証拠がどんどん集まって、教会側も困っていたんだろうね。
とっぴ:そうなんだ。
ひろじ:教会側にも地球が丸いというのを認める人たちがちらほら現れてくる。3,4世紀からガリレオの時代まで、千年以上にわたって、どっちつかずの状態が続いてきたみたいだよ。
ろだん:そんなの、ちょっと実験してみればわかることじゃん。影の長さとか調べれば、地球の表面が平らか丸いかなんて、すぐにわかるさ。
ひろじ:その通り。ギリシャ時代にエラトステネスがその方法を利用して地球の大きさを測定している。今見ても、十分納得できる測定だよ。
あかね:コロンブスは?
ひろじ:事情はもっと複雑でね。じつはコロンブスが航海を決意した背景は、教会の枢機卿ピエール・ダイが書いた「宇宙像」という本にあった。
とっぴ:へえ、どういう本なの?
ひろじ:ダイは地球が丸いということは信じていた。聖書の記述に神が世界の7分の1に海を作ったという記述があるんだけど、それをそのまま信じて、太西洋はそれほど大きくないと考え、地球の大きさをかなり小さく見積もった。マルコ・ポーロが述べたジパング(日本のこと)も、意外に近いはずだと。
ろだん:なんだか、へんてこだな。地球が丸いのはいろんな事実からわかるにしても、本に書いてあることをそのまま信じるなんて。
ひろじ:信者にとっては、聖書は絶対なんだよ。で、その「宇宙像」を読んで「これだ!」と思ったのが・・・
あかね:コロンブス!
ひろじ:そうなんだ。コロンブスは、地球がそんなに小さいなら、マルコ・ポーロが東へ向かって陸路で進んだジパングへの道は、西回りならもっと早くつけると考えた。
ろだん:それはわかるな。
ひろじ:コロンブスにとっては、地球が丸いかどうかを証明するかどうかは、問題じゃなかった。黄金郷に行けるかどうかが問題だったんじゃないかな。
とっぴ:なんだか、コロンブスのイメージが変わってきちゃうな・・・
ひろじ:コロンブスの一般的なイメージは、理想のためにすべてを投げ打つ英雄って感じだけど、実際にはそうじゃなかったみたいだね。むしろ、「白鯨」のエイハブ船長みたいな感じで、船乗りから恐れられていたみたいだよ。髪の毛を振り乱し、航海を尻込みする船員は船に作った首吊り台から吊してしまうという・・・
あかね:コワイ!
とっぴ:すごいな・・・
ひろじ:みんなが尻込みしたのは、ダンテの「神曲」のせいでもある。海のまっただなかに、地獄に通じる奈落があるなんて書いたからね。
あかね:うわあ・・・
ひろじ:夕陽が赤いのは、西の地平に沈む太陽が、地獄の業火を浴びて赤く染まっているなんて話が信じられた時代だからね。
あかね:コワイ!
ひろじ:そこから先はみんなが知っている話だよ。コロンブスは地球を半周してインドにたどり着いたと思い、原住民をインディオつまりインド人と呼んだんだけど、実際には、新大陸アメリカを発見した・・・
ろだん:ふうん・・・間違いも、発見の素になることがあるんだな。
ひろじ:まさに、その典型だね。そもそもの発端も間違いの理論なら、発見したと思った場所も間違いだった。でも、その間違いが世界を動かしたんだ。
あかね:間違いの連続で真実に迫る事って、あるのね。ウソみたいだけど・・・
ひろじ:むしろ、そっちの方が多いんじゃないかな。科学の進歩は、そんなに理論的に進むものじゃないよ。
ろだん:そりゃあ、そうだろ。考えただけでなにもかもわかるんだったら、実験をする必要なんてないじゃないか。
ひろじ:まさにそう思うね、ろだんくん。古代のいろんな話をまとめていくと、結局そこに至る。やっぱり、実験こそ、自然科学の基礎なんだなあ・・・

 
 
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