【61】檻の中の後悔 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


このままでは、本当に 「男性不信」 になってしまう。

この会社に長く勤める分だけ、
色々なことに対して、麻痺してしまうというか・・・

何が常識で、非常識なのかが、一瞬判らなくなったり、
戸惑ってしまったりする。

それだけ、この会社の内部は “腐っている” のだろう。

会社なのだから、キチンと仕事をして、
見合った給料が貰えればそれで良いのだが、
毎日顔を合わせる相手とは、揉めたくないし、
出来る事ならば、人間関係の面でも上手くやっていきたい。

ただ、仕事が上手く行けば良いというだけではない。


仕事でも行き詰まり、人間関係も面倒になり、
私は久しぶりに屋上へ来てきた。

こういう時・・・
私の心の支えは、あの日の想い出しかない。

岩田さんに、相談や愚痴を言ったところで、どうにもならず・・・
あまり親身になって聞いてくれる訳でもないし。

彼と心が近づいたと思えば、突き放すような言動をし、
立ち止まると、手を取ってくるような・・・
そんな、綱渡りの恋人なのだ。

パズルのピースが、ピタリと合うような・・・
“この人となら、自然体でいられる” という人が、
何処かにいると聞くけれど、そう簡単には見つからないもの。

というか、私に合う人なんて、いるのかな。


「みんな、元気にしてるのかなぁ」


ひとりごとを呟き、パスケースの奥に隠した写真を抜き出した。
出し入れをしすぎたようで、四つの角がヨレヨレ。
写真も、少し折り目がついてしまった。

屋上の柵越しに、懐かしい街の方角を眺める。
しかし、柵が邪魔で、視界が広がらない。


檻の中に、いるみたいだ。


この中にいたら、私もオカシクなってしまうのだろうか。


秋頃に、営業と事務員を数人ずつ入れるらしい。

なんでも、営業職は、社長の縁故だとか。
同じく社長をしている、友人の息子を採用すると聞いた。
社長を継がせる前に、武者修行をさせようという事のようだが、
イチ社員からしたら、少々やり辛さを感じる。

これ以上、ややこしくなるのは御免だ。


きっと、ここにいる限り、面倒な悩みは尽きないだろう。

そんな時は、自分を失くさないように、見失わないように、
その都度修正をすれば良い。

自分が追い求めるもの、探しているものを間違わないように。

この写真は、私の心のコンパス(方位磁針) ――――。


「よしっ!今日もあと少し、頑張ろう」


気合を入れ直して、席へと戻った。

.
.

あれから、私は “空気が戻る” のを待っていた。

オリオン産業の須藤さんの態度が、元に戻るのを。

あれを期に、馴れ馴れしかった須藤さんが、素っ気なくなり・・・
徐々にだけど、事務的な中にも少し悪戯な雰囲気というか、
詰め過ぎた距離を少し広げ、間隔を保とうとしているように思えた。

仕事だけに避けることも出来ないし、彼なりの考えなのだろう。


同じ歳の、男の子。

8歳も離れている岩田さんよりも、話は合うのだろうか?


私がもっと上手に、須藤さんと話せていたら、
コミュニケーションを取れていたら、友達になれていたのかな?


「こんにちは」


受話器越しに笑顔で返しながら、少し淋しく思った。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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