【62】取り戻した笑顔 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


「こんにちは」


同じように返してくれた須藤さんの声に、笑顔が見えた。
硬さを感じていた、以前とは少し違う。

私を避けるように、全ての用件を岩田さんに繋いでいた
少し前とは様子が変わった。
というか、少しずつ元に戻してきているように感じた。


「社員旅行、海外に行くんだって?」


突然、そんなことを聞いてきた。

岩田さんから聞いたのだろうが、確かに、
この秋には、アメリカ西海岸への旅行が決まっている。


「うん。そうなんですよ」

「いいよなぁ。タダで行けるんだろ?
 ウチの会社なんて、近場の温泉地だぜ?」

「私は、温泉の方が良いですよ。
 海外は、あんまり行きたくないというか」

「なんで!?」

「だって・・・日本語が通じないって、不安だから・・・」

「海外なんだから、当然だろ」

「どうせなら、ハワイが良かったっていうか・・・」

「ああ。ハワイなら、日本語通じるからな。
 ・・・それか、海とか好きなの?」

「うん。海は見るのが好きだよ。
 泳ぐのは、チョット・・・。得意じゃないから」


須藤さんが、ははっと笑った。


「海で、本格的に泳ぐヤツいるかよ。
 遊びに行くんだから、焼くとかそんなだろ?」

「あっ、そうだよね!」


話していて、とても “楽” 。
深く考えずに話が出来るって、こんなにも楽なんだ。

無意識にでも、 「どんな反応をされるのか」 と考えてしまうと、
素直に会話を楽しめないものだから。


「夏は、何処か行ったの?」


多分、海の話の流れで、そうなったのだろう。

世間話としては、ありがちな話題ではあるが、どう答えたものか。
何処にも行っていないと返すのも、違う気がするし、
以前の、変な空気には戻したくないし・・・。


「あ、うん。プールに行ってきたよ。須藤さんは、何処に行ったの?」


サラリと言って、話題を振り返した。


「これといった所には、行かなかったよ。近場で遊んだだけ。
 ・・・椎名さんは、プールか。楽しかった?」

「えっ? ん、と・・・ 人が多すぎて、芋洗い状態でさ、
 何をしに行ったんだか、解らなかったよ~」


苦笑まじりに言うと、彼も同じように笑っていた。

・・・良かった。笑ってくれて。

彼とのことを、突っ込んで聞かれるかも―― とか、
恥しいくらい、自意識過剰になっていた。

そんな経験一度だって無いのに、自惚れもいいところ。
急に恥ずかしさが込み上げる。


私に恋人がいると知ってから、様子が変わったのだって、
“そう感じた” だけかもしれない。

直接、何かを言われたわけじゃないんだから。

たまたま、須藤さんの機嫌が、悪かっただけかもしれないし。



気楽に話せる須藤さんは、井沢さんや佐藤さんのような、
それと似た存在のような気がしていた。

写真は見たけれど、会ったこともない、声だけを知る人。


ただ、それだけの関わりなのに、
心を少しだけ癒してくれる存在になっていた。







・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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