彼が、車を変えた。
前々から、その意思があることは聞いていたけれど、
まさに青天の霹靂。
車種や色も聞いていなくて、プールデートの日に
彼との待ち合わせ場所に行ったら・・・ ドーン、と。
以前の赤いスポーツカーと、同じメーカー。
青い四駆に変わっていた。
車高の低い、あの車からコレ・・・?
こんなに極端に、趣味が変わるもの?
私はこっちの方が好きだし、とても良かったけれど、
何かひとこと言ってくれたら嬉しかったのに、なんて思ってしまう。
突然変えて、驚かせようと思ったのかも・・・しれないけど。
.
.
新しい自慢の愛車で、二人の友達を迎えに行った。
沢田ちゃんも、岩田さんの友達も、
人見知りをするタイプではないようで、会ってすぐに意気投合している。
無理をしている様子でもないし、ひとまずは私も安心した。
・・・が、ひとつだけ、平静でいられないことがある。
岩田さんが提案したプールとは、数年前に “デート” で来た場所。
あのテーマパークに、併設されているのだ。
プールへ行くにも、遊園地へ行くにも、同じゲートをくぐる。
きっと、これも試練なんだよね。
いつまでも想い出を切り離せない私への、罰なのか。
いい加減忘れろと、戒められているのか・・・。
ゲートを抜けると現れた、正面の大きな花壇。
あの日は、夏の終わりかけだった。
でも今日は、夏の真っ盛り。
ずっと先を見つめ、想い出を瞼に映す。
しかし、そうもしていられない。
案内板に従い、すぐ右側に曲がり進んでいった。
.
.
だだ広い、ロッカールーム。
子供の頃、従姉などと遊びに出掛けたとき、
こういう場所に来た覚えがある。
やっぱり何か、落ち着かない。
自分と同じ年頃の女の子は、露出度の高い水着を着ていて、
しかもそれがとても似合っている。
そして、沢田ちゃんも・・・
「わ~!似合うね!!」
薄い青が基調のビキニ姿に、目が点。
以前、試着姿を見たけれど、こういう場所だからか、
何倍も可愛く見える。
私も、沢田ちゃんと選んだ水着に着替えたけれど、
逃げ出したくなってきた。
「やっぱ、その色いいよ。うん、似合ってる!」
「・・・大丈夫かなぁ?
って、このパレオは、こんな感じでいいのかな」
「うん。そうそう。ここをこうして・・・ OK!」
形はワンピースで、色は赤に近いオレンジ。
エキゾチックな柄の・・・ というと、
抽象的すぎて解り難いが、そんな感じの水着。
それに、同色のパレオがついている。
ワンピースって、ウエストに自信がない人が着たら
ダメなんだなぁ・・・。
沢田ちゃんは、少し考えるようにして呟いた。
「椎名ちゃん、前よりも痩せたよね?」
「ん・・・うん。少しね」
「やっぱ、恋をすると変わるのかな~」
茶化すように言われたが、そういうことではない。
再就職をしてから、少しずつ体重が落ちていった。
丁度良いダイエットになっているが、
思い返せば、あまり良い痩せ方ではなかったと思う。
「待たせても悪いし、そろそろ行こう」
沢田ちゃんは、大きな鏡の前で最終確認をするように、
背中や横を、クルクルと見ている。
「何度も見なくても、バッチリだよ。
あの彼も、沢田ちゃんに惚れちゃうんじゃない?」
「ええっ!?どうしよう~」
二人でおどけて見せるが、本当は、
彼に笑われないか、何か言われないか・・・
笑顔で頷いたが、内心は緊張して吐き気がするほどだった。
・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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