【54】プールサイド | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


「お待たせ~!」


ロッカー外で、待たせていた男性陣に声を掛ける。
あまり親しくない異性にも、壁を感じさせずに
明るく振る舞う沢田ちゃんは、私の目から見ても可愛い。

彼女に引き合わせた、岩田さんの友達・・・
タカさんは、沢田ちゃんの水着姿に釘づけだった。

岩田さんも例外ではなく、視線が奪われているのが判る。

まあ、男性なら誰でもが見つめてしまうような、
魅力的な子だから、当然だけど。

タカさんは、小柄で細身体型。
目線も、沢田ちゃんと同じくらいか、少し高いくらい。
仕事が多忙な人で、一年の半分近くは海外転勤のよう。
久しぶりの帰国だと聞いていた。

緊張しながらも、積極的に話しかけているといった様子の
タカさんを見ながら、ある意味での心配もあるけれど、
「上手く行けばいいな」 と思っていた。

沢田ちゃんとタカさんの背中を見ながら、二人に恋が始まるような、
そんな予感を覚える。



「美雪」


いきなり声を掛けられて、私はそれどころではない自分の状況に、
我に返った。

いつの間にか、岩田さんが私に視線を移している。

咄嗟に、身体を隠すような仕草をしてしまう。
隠せるはずはないが、彼の視線から逃れるような、そんな感じ。

彼に悪気はなくとも、何気なく発した言葉に傷ついている
自分に気付いていた。
だから、無意識に警戒していたのかもしれない。


「ん? ・・・あ、待たせちゃってゴメンね」


「遅い」 と言われることを読み、いつものように口にしたが、
彼が言いたいことは、そうではなかった。


「お前は、ビキニじゃないんだ」


言われ方にドキッとした。


( また、否定された・・・? これじゃあ、ダメなの? )


と、いうか、自分に拘りがなかったのだから、
初めから、彼に好みを聞いておけば良かったのかな。

そうすれば、少しは満足してくれたのかも・・・。


「う・・・うん。さすがに勇気がなくて。
 ヒロくんは、そっちの方が良かった?聞いておけば良かったね」


彼の目を見れない。

苦笑いで誤魔化すが、岩田さんは、まだ私を見ている。


「・・・あ! 二人が見えなくなっちゃったよ」

「いいんだよ、別に。
 二人を会わせるために、来たようなモノだから」

「・・・うん」

「じゃ、俺らも行くか」

「うん」


珍しく・・・ 彼が私の手を取った。

手とか、あまり繋がないのに。

人混みの中、はぐれないように自分へと引き寄せるようにして、
人の波を抜けていく。


「・・――― 可愛いよ。 よく似合ってるじゃん」


振り向きながら、私を見て呟いた。

優しい瞳をしているような気がして、つい覗き込んでみる。


「ほ・・・ホントに?大丈夫?」

「大丈夫って、なんだよ」


頬を緩めて笑っている。


「その髪型も、可愛いな。水着も、似合ってるよ」


言われることが予想外過ぎて、上手に返せない。
反応が追い付かない。


そうこうしているうちに、手が離れ・・・
彼は空いているプールサイドから、ヒョイと水の中に入る。

反射的に、置いて行かれると思った。

私も急いで入らないと・・・
内心焦り気味で、適当な場所を探す。


「ホラ、おいで」


岩田さんは、水の中から私を見上げていた。
差し出された腕は、私に伸びている。

近くのプールサイドで、似たようなカップルを目にする。
当たり前のような光景でも、気恥ずかしさは個人の問題で・・・。


「・・・あっ、 ありがと・・・」


伸ばした手を、身体を、しっかりと受け止めてくれた彼に、
別人を相手にしているような、新鮮な鼓動を感じた。


合わないばかりじゃない。
こうして、優しいところもあるし、そういうところは私も好きだから。

大丈夫。

私は、岩田さんが 大好き ―――。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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