映★画太郎の映画の揺りかご


デヴィッド・フィンチャー監督、ダニエル・クレイグルーニー・マーラ出演の『ドラゴン・タトゥーの女』。2011年作品。R15+

2009年制作のスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(日本では2010年公開)のハリウッド版。



ストックホルム。ミレニアム誌の発行責任者ミカエル(ダニエル・クレイグ)はある有力な実業家の組織犯罪への関与を告発する記事で告訴され窮地に陥っていたが、大資本家ヴァンゲル家の長ヘンリック(クリストファー・プラマー)に呼び出され、40年前に起こった彼の姪ハリエットの失踪事件の調査を依頼される。一方、ハッカーのリスベット(ルーニー・マーラ)はミカエルの身元調査をきっかけに事件にかかわっていくことになる。

以下、ネタバレあり。



原作小説も未読でスウェーデン版も観ていない、完全にまっさらな状態での鑑賞。

不自然なまでに黒い服装の登場人物たち(乗用車も)と雪の白のコントラスト。全篇計算され尽くした画作りによるスタイリッシュな映像で見事なまでの「デヴィッド・フィンチャー映画」になっているので、この監督のファンは観ていて心地良いだろうし、オープニングのトレント・レズナーカレンOによる「移民の歌」のカヴァーにもゾクゾクする。




でも、観終わってから「う~ん…」とうなってしまった。

これは…どのあたりがそんなに面白いのだろう、と。

単純にスリラーとしてそんなに巧みなストーリーだとは思えなくて。

この映画はおなじフィンチャー監督の『セブン』にくらべると、もうちょっと現実寄り、つまり実際に起こっても不思議ではない事件を描いている(実際にあった事件をもとにした『ゾディアック』に近いか)。

『セブン』はパズルのように純粋に観客を楽しませる「遊戯」としての連続猟奇殺人を描いていたが、この『ドラゴン・タトゥーの女』はあれほどまでに超現実的な話ではない。

『セブン』とおなじく事件に聖書がからんではいるものの謎解きの面白さは感じられず、主人公たちがPCをいじっては写真のなかになにかみつけて、ということのくりかえしで話が進んでいく。

「この先どんな展開になっていくのだろう」という“ミステリ”としてのワクワク感がまったくといっていいほどない。

真犯人の正体にも特に意外性はないし、事件の真相にショックをうけることもなかった。

一見「金田一耕助シリーズ」に出てくるようないわくありげな一族の物語だが、横溝正史が描く世界みたいなおどろおどろしい殺人劇で楽しませてくれるわけでもない。

だいたい、失踪後も毎年送られてくる「押し花」をヘンリックが「ハリエットを殺した犯人からのいやがらせ」などと思い込む根拠はいったいどこにあるのか。

彼女の遺体もみつかってはいないのに。

本人から送られてきたものでは、と思うのが正常な反応だと思うのだが。


はたしてこれはなにを描こうとした作品なのだろうか。

作品の根底には「男性の女性に対する憎悪や暴力」というテーマがある。

ヒロインのリスベットは過去に傷害事件を起こしたために24歳になっても後見人に財産を管理されている。

あげくにこのあたらしい後見人がとんでもない変態野郎で…。

ハンデを背負った女性が、社会的な信用をうしないかけてピンチに陥っているジャーナリストとともに40年前に姿を消した少女や連続猟奇殺人事件の謎に挑む。

興味深い題材なのだが、このトラウマを抱えたヒロインと連続猟奇殺人事件が、どうもストーリーのなかでうまくつながらないのである。

謎解きがやりたいのか、現実にひそむ闇を描きたいのか、それとも「キャラ物」でいきたいのか。

たしかにルーニー・マーラが演じるヒロインのリスベットはユニークなキャラクターだ。

原作やスウェーデン版のファンにも彼女は人気が高いようだし。

ただ、僕にはこの映画での彼女はまるでアニメキャラのように思えてしまった。

映画の前半では無惨にも変態野郎にレイプされてしまうのだが、そんな彼女が後半ではカーチェイスはやるわ海外で「スパイ大作戦」ばりの変装をして大活躍するわと、肝心の少女失踪事件や連続猟奇殺人事件がかすんでしまうぐらいである。

この映画を観たあとでスウェーデン版も観たんだけど、そこでノオミ・ラパスが演じていたリスベットはもうちょっと現実味のある存在だった。




しかしストーリーはフィンチャー版もスウェーデン版もほぼおなじなので、やはり「そんなに大騒ぎするほど面白い話か?」という最初に感じた疑問は払拭されず。

エンヤの曲の使い方が凶悪」というのには笑ったけど。

なんというか、たとえば連続猟奇殺人の真犯人が炎上死する場面は、あきらかにリスベットの過去のある出来事とかさなるはずのところなのだが、彼女についてくわしい描写がないためにカタルシスを得ることができない。

顔がピアスだらけでヘンな髪型のリスベットは弁護士から「社会性がない」とかいわれてるけど、彼女よりも社会性がない人間なんて世の中にはいくらでもいる(オレです)。

あんなに行動力があって、なにより自分の力で金を稼ぐ能力をもっているんだから、ちっとも弱い人間に見えないのだ。

だから彼女がanusの危機に陥ってまで後見人から金をもらわねばならない理由がよくわからない。あんなに仲間がいるのなら彼らから借りればいいではないか(まぁ知り合いは金のない人間ばかりだからなのかもしれないが。それにしても生活保護をうけてるような人が、なんであんな機材に埋もれた部屋に引きこもっていられるのか不思議)。

いや、シックでスタイリッシュで「萌え」要素もあるので、「面白かった」という人はけっこういると思いますよ。

だけどそれで2時間半ってのはどうなんだろう、と。

スウェーデン版も同様に長尺なんだけど、どうしてもそんなに時間をかけなきゃいけない内容には思えなかった。

スウェーデン版の劇場公開ヴァージョンではカットされていて3時間ある<完全版>でようやく確認できる場面がハリウッド版にはちゃんと入っていたりシナリオはよくまとまっていると思うのだけれど、ミステリとして「あっ」といわせてくれるわけでもないし、描かれたテーマにグッとくるわけでもないし。

昨年から予告されててけっこう期待してただけに、個人的にはちょっと物足りなさを感じてしまったかな。

映画館で観たことは後悔してませんが。

最後に、これまたすでに多くの人々の怒りを買っている問題の「モザイク処理」について。

まるで20年ぐらい前のAVみたいにヒロインの股間が雑にもほどがあるモザイクに覆われているのを観て、あのように「作品」を陵辱した奴らの胸に「わたしは映画をレイプした変態のブタ野郎です」とイレズミを刻み込んでやりたい衝動に駆られたのでした。



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