去る2017年6月23日に小田原市民会館本館3階小ホールで行われた、温泉地学研究所(おんちけん)の平成29年度研究成果発表会に出かけてきました。あいにく専門の教育を受けていない一般人なので、残念ながら話されるすべてのことを理解することはできませんでしたが、この記事では講演要旨と当日見聞きしたことを整理してまとめてみたいと思います。なお文頭に # が付いている色付きの段落は個人の感想とか疑問点です。てへぺろ

 

開会のあいさつをしたのは里村幹夫温泉地学研究所所長。ごめんなさい、あいさつなので聞いてなかったです。里村さんが壇上をおりたあと、場内は飲食禁止・禁煙であること、携帯電話はマナーモードに、スライドは撮影してもいいけどフラッシュはたかないようになどいくつかの注意喚起がなされて、お待ちかねの口頭発表が始まりました。

 

■ 13:05-13:25 「2016年の地震活動について」(本間直樹火山対策調整官)

まず2016年に日本国内で起こった地震から。死者・行方不明者を伴った唯一の地震が「平成28年熊本地震」(最大震度7)だけであること、そして震度6弱以上の地震回数でみると、2011年の9回以来、久々に大きな地震が頻発した年だったこと、さらに2016年中で最大の地震は11月22日の福島県沖地震(マグニチュード7.4、最大震度5弱)で、このとき神奈川県でも震度3を観測したことが話されました。さらに神奈川県について、2月5日7時41分の神奈川県東部の地震(マグニチュード4.6)が県内最大の地震でした。

 

# ここまでは気象庁の震度データベース検索を使えばだれでも分かる話ですね。

 

つづいて温泉地学研究所が独自の観測網をもつ箱根エリアについて。地震回数積算図で比較すると、2016年の地震活動は噴火前と同程度に戻っていて、群発地震の基準(1時間に10回)を満たす地震活動もなかったこと。

 

最後に、講演要旨にないと前置きがされたものの、2017年4-5月にかけて起きた金時山北東側で起きた小規模な地震活動についても解説がありました。

 

■ 13:25-13:45「空気の振動から噴火の推移を読み解く」(行竹洋平主任研究員(地震))

まず冒頭、火山監視のための3要素が紹介されたあと、2015年の箱根火山における水蒸気噴火で観測された「空震」を紹介すると説明されました。火山噴火時火口で起きた空気の急激な圧力変化が空気中を伝わる空震現象は、人間が聴くことのできなない10Hz以下という低周波寄りのため空振計を使って観測すること。これにより悪天候や夜間、火口が目視できない場合でも噴火の発生が検知可能になりました。

 

# 気象庁では、噴火の規模について固形物が噴出場所から水平もしくは垂直距離で100~300mの範囲を超すものを噴火とすると定義していますが、目視や後日の現地調査での確認、そして地震計や空振計を使った推定が必要としています。つまり固形物が火口からある程度の距離飛んで来たら即「噴火」と判断されるわけではないと(防災メモ「噴火の記録基準について」)。

 

そして2015年5月から1日1000回を超える地震活動や山体膨張を伴う地殻変動、大涌谷の噴気異常といった火山の活発化を踏まえて、5月21日に火口から500m離れた大涌谷観測点に気象庁が臨時の空振計を設置したことで、箱根山の空振観測がスタートしました。

 

# 気象庁報道発表資料「大涌谷(箱根山)に増設した空振計の運用開始及び望遠カメラ映像の気象庁HPでの公開について(平成27年5月22日)」 

6月29日7時30分ごろ大涌谷直下で地殻変動が観測された後、12時30分ごろ大涌谷直下でわずかな降灰が観測されましたが、この日は悪天候で視界不良のため火口の監視カメラで正確な噴火時間を明らかにすることはできませんでした。

# 2015年冬に開催された温泉地学研究所発表会の講演要旨「箱根山2015年噴火とその前後の表面現象」には、

噴火は降灰が認められたことから6月29日12時30頃に開始したものとみられます。しかし、温泉供給会社の配管は11時頃に損傷があったらしいことから、このころまでに火口が生じて、熱泥流が流下した可能性があります。

とあり、今まで大涌谷に火口ができたのが29日のいつごろなのかはっきりされていなかった。また6月30日の気象庁会見で明らかにされた空振は29日16時ごろに起きたもの(第133回火山噴火予知連絡会資料にある図27)。



実は29日7時30分頃大涌谷の地下に割れ目開口ができる地殻変動(低周波イベント)が起きた後、空振波形に微弱シグナルが記録されていることが分かりました。しかしその振幅の大きさは1Pa(パスカル)で、ガラスが割れるほどの衝撃波が発生する爆発的噴火の1000分の1、大気圧の10万分の1ときわめて微弱だったので、空振波形だけで噴火発生のシグナルか判断できませんでした。

# 第114回火山噴火予知連絡会「浅間山火口近傍の空振観測」(東京大学地震研究所)に解析方法が掲載されている。

そのため空振計の近くに設定されている地震計のデータとの「相互相関処理」を実施した結果、特徴的な縞状パターンが、大涌谷で割れ目開口が生じたのと同時(7時32分50秒から15分間)に現れ、10時半頃までの約3時間断続的に続いていました。つまり「割れ目開口とほぼ同時に、大涌谷で火山ガスの噴出現象が始まり、空振が励起されていたことが推測されます」。この結果について、「割れ目上端は地表面より数100m地下にあると見られるので、火山性流体が深部から移動し地表に噴出したと解釈するには、時間が短すぎます。むしろ、割れ目が開口することでその上方に急激な圧力減少が生じ、もともと大涌谷直下にあった熱水が沸騰気化して噴出したのではないかと考えています」
# 大涌谷の割れ目開口についての情報。
「本多ほか (2015) は、秒値デー タを用いて傾斜変動を解析し、6月29日7時32分ごろ観測された火山性微動発生(気象庁地震火山部・火山監視情報センター、2015)の約40秒後に、噴気域の大涌谷方向が隆起する傾斜変動が生じたことを明らかに した」。―
「2015年箱根火山活動における傾斜変動と地震活動の関連性」(板寺一洋・原田昌武・吉田明夫)。そしてこの傾斜変動(低周波イベント)は「大涌谷直下の標高600m付近に上端をもつ北西-南東走向のクラックの開口により説明でき、この際約10万m3の熱水が貫入したと考えられる(本多ほか、2015) 」―日本地球惑星科学連合2016年大会/2015年箱根火山水蒸気噴火に伴い観測された連続微動。

開口クラックの地図は、神奈川県温泉地学研究所観測だより第67号「神奈川県およびその周辺における2016(平成28)年の地震活動」より拝借、
なお参照されている文献は、本多亮ほか(2015)火山学会2015年秋季大会、P48。

講演と話の順番が前後しますが、6月29日16時以降7月1日にかけて断続的にみられた肉眼で識別可能な空振パルスは「火口の形成時期と対応」しており、「火口ができた際に沸騰した地下水から泡が急激に放出されるような現象を反映しているのではないかと考えています」。

■ 13:45-14:05 大涌谷から放出される火山ガスについて(代田寧主任研究員(温泉))

2016年7月から神奈川県環境科学センターと共同で実施している、大涌谷の蒸気井から放出される火山ガスの採取・分析についての発表でした。

まず火山ガスの揮発性成分について説明されたあと、「火山ガスが地下の亀裂などを通過して地表に現れたものが噴気」です。そして箱根山は熱水系が発達しているため、「自然噴気の場合は地表まで上昇する過程で地下水等と反応することにより、水に溶けやすいHClやSO2はほとんど含まれません」。一方地下深く掘削している蒸気井は地下水との反応が少ないためHClやSO2が含まれます。

# ここで言う「自然噴気」は古くから箱根山にある噴気地帯のこと。大涌谷に複数ある蒸気井(温泉造成井)は深さ100~500mのボーリング孔で、もっとも深いものがこの講演で登場する52号蒸気井―「箱根大涌谷で2001(平成13)年に発生 した蒸気井の暴噴事故とその対策」(辻内和七郎、鈴木征志、粟屋 徹)

さらに火山ガスの組成は火山活動で変化しています。二酸化硫黄(SO2)と硫化水素(H2S)には以下の関係があり、火山活動が活発化する(高温になる)とSO2の比率が高くなり、活動が低下するとH2Sの比率が高くなることです。2001年活動時も「時間の経過(活動の低下)とともに SO2/H2S 比が減少する変化が観測されています」。

 

さてここで大涌谷の火山ガス監視システムや火山ガス濃度にもとづく観光客の避難誘導マニュアルが紹介されましたが、本題には関係ないので省略。A(^_^;

火山ガスの採取は52号蒸気井の足場で煙突のてっぺん(ガス放出口)からチタンパイプを差し込み、その場でアルカリ溶液などに火山ガスを吸収させ、実験室に持ち帰って化学分析しているとのこと。温泉造成用水の投入前(150~160℃の火山ガスがそのまま放出されている状態)で3回、投入後で4回採取し、HCl(塩化水素)・SO2(二酸化硫黄)・H2S(硫化水素)の3成分の比率を調べたそうです。

さらに比較のために2015年の活動でできた自然噴気孔1か所においても、同様の方法で採取・分析することを1回行いました。

その結果・・・

①温泉造成用水投入前の測定結果で、2016年7月と2017年2月末を比べると、HClの明らかな低下がみられますが、2015年活動前の平常時の値0.05くらいと比べると「依然として高く、まだ活動前の状態に戻っていないと考えられます」

②温泉造成用水投入後の測定結果では、SO2/H2S比が経時的に低下しています(ただし温泉造成時の条件がほぼ一定であると仮定して)。造成用水投入前の測定結果も同様の傾向がみられることから、「活動が次第に低下していることを反映している可能性があります」。

温泉造成の再開による放出ガス低減効果について、「蒸気井から放出されるHClは造成用水の投入によりほぼ100%除去されています。また(略)SO2は80%程度低減していると考えられます」。しかしながら温泉造成が再開された後もたびたび高濃度のSO2が園地で観測されているのは、新たにできた火口や噴気孔も発生源と考えられます。

④そのため2017年2月28日に、2015年に新たににできた自然噴気孔でガス採取したところ、温泉造成用水投入後の蒸気井から放出される比率とほぼ同じSO2が確認されました。複数の噴気孔があることから、これらが「主要なSO2の発生源となっている可能性が高いと考えられます」。

# 【参考文献】として挙げられている、大場ほか(2008)すなわち「箱根カルデラ中央火口丘大涌谷地熱地帯における火山ガス組成の時間変化」(大場 武・代田 寧・澤 毅・平 徳泰・撹上勇介)にある図8 ボーリング孔ガスのHCl濃度の時間変化ををみると変動が大きいのですが、何をもってして「平常時の値0.05くらい」と導き出されたのでしょう?

 

 

# 2017年4月20日の温泉地学研究所の一般公開で萬年一剛主任研究員に聞いたところによると、大涌谷新火口より標高の高いところにある噴気地帯(上の写真【2017年2月15日撮影】にみえる、いまもなお通行止めになっている登山道の周囲)は噴気の温度が低いため、SO2の発生源にはなっていないようだ。

 

 

 

 

とりあえず今日はここまで。「その2」はまた暇があれば。最近そればっかりてへぺろ

 

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