モ’・ベター・ブルース
CHARLES MINGUS Mingus Mingus Mingus Mingus Mingus Jeff Beck Wired Joni Mitchell Mingus 植草 甚一 ぼくたちにはミンガスが必要なんだ チャールズ ミンガス ミンガス―自伝・敗け犬の下で
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「ドゥ・ザ・ライト・シング」=スパイク・リー監督の音楽映画「モー・ベター・ブルース」。黒人を巡る社会と、ジャズへの愛を見事に描いた作品だったと思う。この映画音楽の中で、もっとも印象的だったチャールズ・ミンガス(Charles Mingus)「グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット(Goodbye Pork Pie Hat)」。主人公(デンゼル・ワシントン演)が大きな挫折を体験したときに流れる。 この曲は、ジャズ奏者レスター・ヤングの死に際してミンガスが書いたもの。「ポーク・パイ・ハット」とは、レスター・ヤングが愛用していた帽子を指している。また、この曲はジェフ・ベックが「ワイヤード」でカヴァー、素晴らしい泣きのギターを聴かせている。ジョニ・ミッチェルもアルバム「ミンガス」でカヴァーしており、ミンガスがレスター・ヤングに対して宛てた手紙のような歌詞をつけて歌っている。 複雑なコード進行を持つこの曲のテーマ部だが、実は12小節ブルース曲で、コード進行を数々の代理コード、裏コードを駆使することによりアレンジしたものに過ぎないと思う。 肝となっているコードアレンジが
というパターン。このパターンを仮に「ミンガス・ヴァンプ」と命名しよう。 この進行は実はトニック→サブドミナント→トニックというⅠ-Ⅳヴァンプ(参照
)の発展形である。Ⅰ→♭Ⅵは、トニック→サブドミナントマイナー。♭Ⅵ→♭Ⅱ→♭Ⅴは、完全4度上昇、ツーファイヴ、♭ⅤはⅠの裏コード。つまり、Ⅰ→♭Ⅵ→Ⅰ、トニック→サブドミナントマイナーのⅠ-Ⅳmヴァンプ。また、♭Ⅵ、♭Ⅱ、♭Ⅴすべてが裏コードであると解釈するならば、
一行目は前述したミンガス・ヴァンプ。♭Ⅴ→♭Ⅶの長3度上昇進行が特異に見えるが、♭Ⅴは、Ⅰの裏コードなので、Ⅰ→♭Ⅶという長2度下降である。4~8小節目はⅠ→♭Ⅶ→♭Ⅵ→♭Ⅶ→Ⅰ、トニック→サブドミナントマイナー→トニック。長2度下降→長2度上昇でトニックに戻っているに過ぎない。サブドミナントマイナーが効果的に使われていることを、できれば実際に和音を鳴らしてみて実感しておこう。
Ⅳm-♭Ⅵ-Ⅱ7-Ⅴ 前小節のE7からドミナントモーションしてⅣm7に。Ⅳm→♭Ⅵは短3度上昇進行、♭Ⅵは、Ⅱ7の代理だから(参照
)、Ⅳm→♭Ⅵ→Ⅱ7の部分は、Ⅳm→Ⅱ7という長6度上昇進行トニック間移動に過ぎない。Ⅱ→Ⅴaugはツーファイヴ。 次のⅥはトニックの代理、Ⅵ→Ⅱは完全4度上昇、Ⅱ→♭Ⅵは減5度上昇(参照 )、♭Ⅵ→♭Ⅱは完全4度上昇。 つまりⅣm-Ⅵにツーファイヴを加えたもので、単純化すると
♭ⅤはⅠの裏。♭Ⅶは、サブドミナントマイナーⅣmの代理。 モダン・ジャズは、このようにブルース曲、ジャズ・スタンダード曲の基本構造を応用しつつ、その上に高度なコード・アレンジ、テンション、を加えることで音楽の色彩感、緊張感ひいては(誤解すると危険なキーワードであるが)芸術性を高めることに成功した文化である。モダン・ジャズの魅力が十分に伝わるブルース曲。そして、ロックなどの領域から才能あふれるアーティストたちが、この曲をリスペクトしていることが嬉しい。そんな財産を作っていながら、自分のことを「負け犬の下で」と語るミンガスを、僕は心から尊敬している。 ■関連記事:ブルース・コード進行
ジェフ・ベック
デコルテメイクブラ
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