今回、取り上げますのはトマス・ペイン氏の『コモン・センス』を佐藤健志氏が訳しました『コモン・センス完全版』(PHP研究所)でございます。
『コモン・センス』が出版されたのは1776年。そう、アメリカ独立宣言の年に出版された本なのです。この本は空前の大ベストセラーで、大多数のアメリカ人(当時はイギリス人)が読んだとのこと。
内容はと言いますと、完全にアジ本です(;^_^A
民衆を煽ります煽ります。これがきっかけで独立運動に火がついたと考えると、この本そのものが現在のアメリカ合衆国のルーツと考えても差し支えありませんね。
私と同じく『進撃の庶民』の参加ブロガーの一人であります、みぬさよりかず氏が素晴らしい書評を書かれていますので、是非ご一読ください。
コモン・センス書評(「国家戦略特区」blog)
http://ameblo.jp/minusa-yorikazu/entry-11908255387.html
それでは、簡単に内容をまとめてみます。
第一章
政府の役割は社会の秩序維持だ!
王が全部取り仕切るなんておかしい!
第二章
聖書は王政を認めていない!
世襲制もけしからん!
自由こそが大事だ!
第三章
イギリスは敵だ!!
今こそ独立せよ!!
第四章
イギリスの戦力など怖くない!!
いつやるの?今でしょ!!
第五章
今こそ独立だ!!
平和にだと?ナマ言ってんじゃねえよ!!
とまぁ、こんな感じですかね(;^_^A
聖書のくだりなんかは日本人にはなかなか理解しにくいものもありますが、この本がアメリカの理念の基礎となったわけですねぇ。ちなみに今回「完全版」となっているのは、今までの邦訳に「クエーカーのパンフレットに対する反論」という箇所が削除されていたためでございます。つまり、「平和にだと?ナマ言ってんじゃねぇよ!!」の部分が日本人には知らされていなかったわけですね。
みぬさ氏がバシッと書評を書いているので、あまり書くことがないのですが、私はこの『コモン・センス完全版』を佐藤氏がこの度出版された意味を考えてみようと思います。
佐藤氏は『コモン・センス』を通して、「今こそアメリカから独立せよ!!」「安倍の王政は許さん!!」「九条?ナマ言ってんじゃねぇよ!!」ということが言いたかったのでしょうか?
もちろんそれもありますが、実は佐藤氏の真の狙いは少し違うところにあるのではないかと私は感じたのです。
まずは、帯を見てみましょう。
『「戦争放棄」「非武装」「占領下の押しつけ」……だが、憲法九条のルーツは、建国前のアメリカにあった!?』
『親米派も反米派も、あの国が分かっていない。「星条旗の理想と矛盾」を体現した名著、日本初の全訳!』
続いて、裏表紙側です。
『1776年の新大陸で、独立戦争の起爆剤となった大ベストセラー『コモン・センス』。アメリカについても、戦後日本についても、本書を知らずに語ることはできない。憲法九条のルーツはおろか、九条否定のルーツまでがここに!―保守も左翼も、星条旗に踊らされてきただけではないのか?不完全版でしか読めなかった歴史的著作が、華麗な訳文の元全面復活。読むがいい、これがアメリカだ!』
つまり、佐藤氏がもっとも言いたかったのは
「アメリカを知れ!!」
もっと言えば
「アメリカの「理想と矛盾」を知れ!!」
ということなのではないでしょうか。(まぁ、本編の前のプロローグにその旨いろいろと書いてありましたし。)
さて、この「理想と矛盾」ですが、『コモン・センス』内で表現されている通り、アメリカは「全人類に普遍的な自由をもたらす世界国家」を目指している一方、後半の章では「アメリカの国益重視だ!」的なことが書いてあります。
どっちを目指してるねんヽ(`Д´)ノ!!!!
他にも「恒久平和を目指す」と言いつつ「平和にだと?ナマ言ってんじゃねぇよ!!」と言ったりする始末。(まぁ、ここの論理の筋は通っていますが)
それに聖書のくだりもロジック破綻で無理矢理、王制や世襲制を批判したりしていますし。(以前、民主主義はあまりよくないよ、という話を紹介した手前、ペインの話には納得いきませんでした(笑))
(参考)『政の哲学』・その1
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11880803102.html
話はずれましたが、アメリカの建国の元となった本は矛盾だらけだったってことです。そして、実際の建国後のアメリカも、「世界のために普遍的な自由をー」とか言いながらグローバリゼーション(というかアメリカナイゼーションですが)を推し進めたりしつつ、利己主義的になって「アメリカはアメリカです」なんてことをやったりしているわけです。
つまり、アメリカのアイデンティティ、それは虚構だったわけです。
本来であれば矛盾が生じた場合は伝統なるものを頼りにバランスをとっていくところなのですが、アメリカは建国時点で矛盾を抱え込んでしまっているうえ、頼りにする伝統もない。人工国家の悲しいところですね。永遠なる虚構、それがアメリカだったわけです。
翻って日本では、戦後、アメリカとどう付き合ってきたか。
親米保守「アメリカ様について行けば大丈夫!」
左翼「アメリカ様にいただいた憲法を大事にするぞ!」
反米保守「アメリカ様に逆らったらやられる!ここは面従腹背だ!」
どんだけ、アメリカを神格化してるんでしょうか(;^_^A
いわゆる空想上の非実在アメリカを崇拝しているんでしょうか。
そう言えば、チャンネル桜の討論で水島氏が言っていた内容をカツトシ氏がブログにまとめていましたね。
陰謀論にすがりつく馬鹿(超個人的美学)
http://achichiachi.seesaa.net/article/403620437.html
(引用)『水島は、渡邊哲也さんが、IEEPAの話を持ち出せば、「それじゃあ、どうやったって日本はアメリカに逆らえないですね?」と言い、田村秀男さんが橋本元総理の話をしたら、「橋本はアメリカに失脚させられましたからね」と述べ(そもそも、日本をあれだけの不況に追い込んでおいて、アメリカに失脚させられたもクソもないと思うのだが)、税収弾性値の変更の話をすれば「それをやったらアメリカにやられないですかね?」と聞き返す(この時、田村さんが「いや、アメリカがなんと言ってこようが、これは日本国内の問題ですから」と一蹴してくれた時はスカッとしましたw)。』
しかも、佐藤氏の分析によれば敗戦のショックを和らげるために、日本はアメリカと心情的に同化したというではありませんか。
(参考)『僕たちは戦後史を知らない』
http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11792714548.html
アメリカはそもそも矛盾を抱えた虚構の存在だったというのに、それを取り込んでしまった日本。しかも、日本はアメリカの本質を知らずに非実在アメリカのことをアメリカだと思い込んでいる始末。
これでは、まともにアメリカという国と付き合っていくことはできません。その前に日本のアイデンティティも相当怪しいものになってしまっています。
というわけで、佐藤氏が言いたかったであろうことをまとめてみます。
アメリカ建国の書である『コモン・センス』は矛盾を多く抱えた代物であり、これによってできたアメリカという国の本質は矛盾だらけの国であるということを知れ。そして、そのアメリカと同化してしまった日本もその内に矛盾を抱え込んでいるということを知れ。
ということだろうと思います。
現状認識を間違えていたら解決法もてんでデタラメになりますからね。(by中野剛志)
まずはアメリカという国を正しく知り、日本が矛盾を抱え込んでしまっているというところを認識しないと、現代日本を覆っている諸問題を解決していくことは困難なのではないでしょうか。
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本書はコチラ
コモン・センス 完全版 単行本(ソフトカバー)
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