解雇後…。さらなる、衝撃の展開。
【33年間の人生の中で、最も衝撃的な展開 】の続きです。
「衝撃の解雇 」から、5日後…。
愛するトコアの町、そして、愛するレアル・ソシエダのチームメイトとの別れの日が、やってきました。
僕はトコア(レアル・ソシエダのホームタウン)が、大好きでした。小さな田舎町で、何もない所だけど、人々の「人情」「愛情」で満ち溢れた素晴らしい場所でした。町の人たちはみんなレアル・ソシエダの事を熱烈に応援していて、いつも町を歩いていると、応援・激励の言葉をかけられました。「世界有数の危険な国」ホンジュラスの中では比較的治安も良く、外を割りと普通に歩ける点も気に入っていました。
しかし…。ここに帰ってくる事は、もう、ないのです。
僕はレアル・ソシエダのチームメイトたちの事が、大好きでした。彼らは僕にとって、「家族」のような存在でした。家族のような固い「絆」を築けたからこそ、無名選手ばかりの雑草軍団ながら、ここまで「首位」「リーグ最少失点」 という最高の結果を出す事ができました。
しかし…。彼らと共にサッカーする事は、もう、ないのです。
チームは翌日、アウェーでプラテンセ と対戦します。解雇になった僕はもうチームの一員ではないので、もちろん、試合には帯同しませんが、監督ハイロ・リオスの配慮で、前泊の地であるサン・ペドロ・スーラまではチームのバスで一緒に連れて行ってもらえる事になりました。
家を引き払って全ての荷物をバスに詰め込み、目的地のサン・ペドロ・スーラへと出発…。トコアからサン・ペドロ・スーラまでは約6時間。この「6時間」が文字通り、レアル・ソシエダのみんなとの「最後の交流の時間」となりました。中には最後に僕に食料をおごってくれる者も居ました。ありがたかったですし最後の交流を自分なりに満喫しましたが、僕の心境は複雑でした。なぜ、彼らと別れなければならないのか?解雇になった身である自分が、なぜ、まだチームのみんなと同じバスに乗っているのか?肩身が狭いし、寂しいし、悲しいし…。6時間のバス移動では、一睡もする事ができませんでした。
こうして、目的地であるサン・ペドロ・スーラに到着。チームは前泊先のホテルに移動。僕はチームの一員ではないので、他のホテルに移動。これが「最後の別れ」です。たくさんの選手たちから聞かれます。「本当に、どうにもならないのか?どうにもならないのか?」 僕が答えます。「どうにもならない。会長の決定は変わらない。俺には、チームを去る以外の選択肢はない。しかし、常に俺の『魂』はみんなと共にある。みんなの事を心から応援している。さようなら…」 最後の握手を全員と交わし、僕はレアル・ソシエダに別れを告げました。
レアル・ソシエダと完全に別れてからは、知人が迎えに来てくれ、僕が8年前に住んでいた「ホテル・サンペドロ」 まで車で連れて行ってくれました。このように、僕が解雇になった後、本当にたくさんの人が僕を助けてくれました。苦しい時に助けてくれる友達こそ、真の友達。彼らの優しさが、僕に勇気と力を与えてくれました。
先ほどまで一緒だったレアル・ソシエダの「元」チームメイトたちと別れて1人になり、改めて自分がチームを失なった事を痛感…。「一体、これからどうなるのか?」 不安も当然ありましたが、僕の心はすでに「次へ」と切り換わっていました。一方的な不当な解雇ではありましたが、「要らない」と言うなら、僕は「去る」のみ。発言に関しては無実を主張しましたが、僕は頼み込んで「チームに残らせてくれ」などとは、一切、言いませんでした。無実を主張しても聞く耳を全くもたない会長の態度を見て、「これは無理だ」と判断。無理なものは、無理してまでどうにかしようとは思わない。僕は自然な流れに従って生きたい。今回ホンジュラスに来たのも、ハイロ・リオスからオファーを受けた から。自分からは、一切、「やらせてくれ」などとは頼んでいません。僕は会長に「これまでの1ヵ月半、ありがとう。会長には感謝している」とお礼の言葉を述べて、その場を去りました。これも「運命」。難しい状況ではありましたが、何とか自分の中で「前向き」に解釈しました。
ホテル・サンペドロに着いてからは、8年前に慣れ親しんだ、まるで自分の「家族」とも言うべきホテルの従業員たちとの久々の再会を、心から楽しみました。「笑う門には福来る」 ホテル・サンペドロの温かい「家族」たちのおかげで、僕は辛い状況にも関わらず「笑顔」を取り戻す事ができました。
そうやってホテル・サンペドロの従業員たちと、満面の笑みを浮かべながら楽しく交流していた、正にその時でした。
レアル・ソシエダと完全に別れてから、「2時間後」…。
突然、僕の携帯電話に着信が入ります。
電話の主は…。
レアル・ソシエダのスポンサーの1つであるトコアの「Hotel Yadaly(ホテル・ヤダーリー)」のオーナー…ドン・レネでした。
彼は言いました。
「Yoji、どこに居るんだ?チームに帰ってこい。そして、明日のプラテンセ戦に帯同しろ」
ドン・レネは、僕が解雇になった状況をよく理解できていないのか…?事情を説明します。
「ドン・レネ、俺はすでに会長から解雇されたんだ。チームにはもう、戻れない」
これに対し、ドン・レネが続けます。
「会長とはすでに話した。俺が直接Yojiへの住居の提供と給料の支給を行うという条件で、Yojiをチームに戻す事で会長と合意した。今季一杯、引き続きYojiはレアル・ソシエダで働ける事になったんだ!!」
!!!!!!!!!!???????????
何と…。僕の不当解雇に怒ったレアル・ソシエダのスポンサー、ドン・レネが、会長に「Yojiをチームに戻せ」と抗議。それでも会長の僕に対する態度は変わらず「チームからは一切、Yojiに住居の提供も給料の支給も行わない」と言い張る中、ドン・レネは「お前がYojiに住居の提供と給料の支給を行わないなら、俺が全て行うのでYojiをチームに戻せ」と会長に迫り…ただでさえ財政難のチーム、スポンサーを怒らせて離れられては困るからなのか、これにはさすがの会長もOKを出さざるを得なかったようで…。
こうして「チームのスポンサーであるドン・レネが、Yojiの個人的なスポンサーとなって住居の提供と給料の支給を行う」という条件で、僕の「レアル・ソシエダへの復帰」が電撃的に決定してしまったのです!!し、し、信じられない!!
突然「解雇」になったのも「33年間の人生の中で最も衝撃的な展開 」でしたが、チームを離れた直後に突然「復帰」する事になったのも、それを上回るくらい、自分の中では本当に「衝撃の展開」…。まさか解雇後に、スポンサーの力によって再びチームに呼び戻される事になろうとは…。全く、想像つかない展開の連続で、何が何だか自分でも分かりません。
ドン・レネは単なる温情ではなく「Yojiが居る事でチームが勝つ確率が上がる」と信じているからこそ、自分でお金を払ってまで僕をチームに呼び戻しました。そもそも単なる温情では、この「中南米最貧国の1つ」ホンジュラスで、お金は動きません。
僕とドン・レネは確かに面識はありましたが、頻繁に交流していた訳ではなく、それほど親密な仲だった訳でもありません。だから今回、こうしてドン・レネによってレアル・ソシエダに呼び戻されたのは意外でしたし、本当に、驚きました。ドン・レネは僕の仕事ぶりと、ここまで出してきた「結果 」を、ちゃんと見てくれていたのです。評価してくれていたのです。本当、一体、いつ、どこで、誰が見ているか分からない…。ドン・レネは、ちゃんと見てくれていた…。神様は、ちゃんと見てくれていた…。これまでの1ヵ月半、魂込めて、命懸けでやってきた事が報われた瞬間でした。出してきた「結果」、そして、それをコツコツコツコツ大事に大事に積み重ねる事よって得てきた「信頼」と「尊敬」…。一時は「衝撃の解雇」で全てを失ったかに思われましたが…それら(「結果」「信頼」「尊敬」)は、しっかりと生きていたのです。
※今回、僕をチームに呼び戻したレアル・ソシエダのスポンサーの1つ「ホテル・ヤダーリー」のオーナー、ドン・レネとの2ショットです。トコアを離れる20分前に撮ったものなのですが、まさかこの翌日、彼によってチームに呼び戻される事になろうとは…。全く、想像だにしていませんでした。彼は正に、僕を窮地から救ってくれた「恩人」となりました。これから全身全霊で恩返ししていきます。皆さんもトコアにお越しの際は、ぜひ「Hotel Yadaly」(ホテル・ヤダーリー)にご宿泊下さい!!プール付き、全室無線インターネット完備、お手ごろ価格、陽気で温かいスタッフ…最高に快適なホテルです!!
「電撃復帰」が決定した、翌日…。プラテンセとのアウェー戦当日を迎えました。
ドン・レネからは「Yoji。絶対にプラテンセ戦に帯同してくれ」との指令を前日の電話で受けています。彼は僕が試合に帯同する事で「勝つ確率が高まる」と信じている…。監督ハイロとも話し、この日の試合に急遽、合流する事が決まりましたが…。僕は解雇になった影響でプラテンセ戦に向けた1週間の練習を全く行う事ができませんでした。そんな状況で、自分が試合に行くだけでチームを勝たせられるほどこの世界は甘くはないし、僕にはそんなマジックはない…。それでも、行く事になったからには、「ドン・レネのためにも全力を尽くす」事を心に誓いました。
プラテンセ戦に帯同するため、チームの宿泊先のホテルに向かいます。そこで一度は解雇になって完全に別れた選手たちと再び合流…。みんなもう、ビックリ!!「Yoji、どうした!?復帰か!?復帰なのか!?ヨッシャー!!」 選手はみんな、僕の「帰還」を歓迎してくれました。みんなに聞くと、さすがの「ありえない」事だらけのホンジュラスでも、このように短期間で突然、解雇になったり、突然、復帰したりなんて事は、滅多にないらしい…。いかに自分に起こった出来事が特殊なものか、改めて思い知りました。
そんな中で行われたプラテンセとのアウェー戦でしたが…。チームは「動けない、集中力がない、考えられないミス連発」という今季最悪の内容で、「0-2」完敗…。実に「6試合ぶり」となる敗北を喫し、首位からも陥落…。2位に後退してしまいました。GKもこれまでの活躍が嘘のように終始不安定な出来で、この日の2失点により、前節まで単独で「リーグ最少失点」だったのが、失点数でオリンピア(それまで2番目に少なかった)に並ばれてしまいました…。依然、オリンピアと同数で「リーグ最少失点」ではありますが、「単独」に強いこだわりをもってここまで取り組んできたので、本当に悔しかったです。あの解雇さえなければ、プラテンセ戦に向けたGK練習も行えたのに…。もちろん、GK練習が行えていれば無失点に抑えられたかどうかなんて分かりませんが、あの解雇騒動により、チームとしてこれまで「良い流れ」で進んでいたものが、一気に掻き乱された感は否めませんでした。少なくとも、僕自身の仕事と人生は、大いに掻き乱されました。会長は勝ちたいのか?勝ちたくないのか?僕にはそれすら分からない。理解できない。本当にもったいない、残念な敗北となりました。
プラテンセ戦後、チームのバスに乗って、「もう、帰ってくる事はない」と思っていた、愛するトコアの町に再び帰ってきました。
トコアに帰ってからはなかなか新住居が決まりませんでしたが、そこでもドン・レネが親身になって助けてくれました。そして、やっと決まった新住居は、ドン・レネの配慮で「エアコン、TV付き」の部屋になりました。解雇前に住んでいた部屋 は、エアコンもTVも何もありませんでした(それはそれで気に入っていましたが)。不思議な事に、解雇後の方が解雇前よりも生活環境が向上するという現象が起きました。実はこの新住居(エアコン、TV付き)は、解雇前に住んでいた部屋の倍以上の家賃がかかるのですが、それでもドン・レネは僕のためを思い、あえてこの高い部屋にしてくれました。家賃は前述したように、全て、ドン・レネが僕の「個人スポンサー」となって支払います。これはチームの中でも破格の待遇…(監督でさえ、チームから家賃は「半額」しか支給されていません。半分は自費で払っています。ましてやチームのスポンサーが、「個人」(僕)をこうして直接サポートするなんて事は、前代未聞です)。
僕がチームに復帰してからは、たくさんの選手たちから「Yoji、一体、どこに住んでいるんだ?」「給料は誰が払うんだ?」などと聞かれましたが、それに対して僕は一切、誰にも詳細は話しませんでした。なぜか?僕のこの待遇をチームメイトたちが知って「どうしてYojiだけが?」と妬みを買うと、また解雇騒動の時のように、誰に横槍を入れられるか分からない…。隠し事をするのは好きではないのですが、自分の身を守るためには時にそれが必要な事を今回の件で学びました。他にも本当に様々な事を、今回の「解雇」から学びました。
※これが僕の新住居です。奥にTVとエアコンが見えます。日本人の感覚からしたら、単なるボロい宿…。しかしホンジュラス人の感覚からすると、エアコンとTVが付いてるだけで、凄く恵まれているのです。僕はTVは日本でもあまり見ないタイプの人間なのですが、こちらではヨーロッパや中南米のサッカー中継を多くやっているので、TVがあるのは本当に助かっています。エアコンも、無かったら部屋の温度が37度くらいまで上昇するので、かなり助かっています。全ては、ドン・レネのおかげ。感謝の気持ちを、僕はピッチで「結果」を出す事で返していきます。ドン・レネも、それを最も望んでいるから…(ちなみにこの部屋はドン・レネが経営するホテル・ヤダーリーではありません)。
こうして僕は、ドン・レネの力により、レアル・ソシエダに「電撃復帰」を果たしました。
しかし必ずしも、スッキリとした気持ちで復帰した訳ではありません。自分に対してこのような酷い扱い(突然の解雇)をしたチームへの復帰は、正直、気が進みませんでしたし、復帰する気は僕の中で全くありませんでした。ドン・レネとのあの電話のやり取りの中でも、一時は「無理だ」と断っています。最悪の内容のプラテンセ戦の試合中も「本当に、復帰したのは正しかったのか?復帰すべきじゃなかったのでは?」と何度も自問自答しました。
それでも、ドン・レネとその家族の熱意に感銘を受けて復帰を果たした今(ドン・レネのみならずその家族も僕の復帰を後押ししてくれた)、僕の中で迷いは完全に消え去りました。
確かに復帰後も、チーム(会長)からは試合前の食事で僕の分だけ準備されないなど、腹が立つ扱いが続いています。けれど…そんな事はもう、どうでも良い。自分にとってマイナスになる人物の事など、どうでも良い。そんなのは放っておいて、それよりも僕に対して良くしてくれたドン・レネや愛するレアル・ソシエダの選手たちのために、今季終了まで無心で全力を尽くす事を心に決めました。
この先に何が待っているのか…。全く、分かりません。
それでも僕は今回の「解雇」を通じ、世の中には僕を追い落とそうとする人間が居る反面、それを遥かに上回る僕を助けてくれる仲間が居る事を改めて知りました。遠く離れた日本でも、本当にたくさんの人がメールやフェイスブック を通じて応援・激励のメッセージを送ってくれました。皆さん、本当に、ありがとうございました。
自分には、これだけ多くの「仲間」が居る。
もう、恐れるものは、何もありません。
僕は前に進むのみです。
「夢実現」はもちろん、「ホンジュラスに恩返しする」という原点の「恩返し」のために、僕は今後も、ただただ全力を尽くしていきます。
リーグ戦は、残り「2試合」。
次なる相手は破竹の5連勝で我々に代わって「首位」に立った「最強オリンピア」。アウェーで引き分けに持ち込んだ【前回対戦時 】とは比べものにならないほど、オリンピアのチーム状態は上がっています。正に、最強の相手…。
1週間ぶりにチームに復帰し、迎えた「首位攻防戦、天王山」。
「2位・レアル・ソシエダ」VS「1位・オリンピア」
つづく
◎連絡先メールアドレス【 cafehondurasyoji@hotmail.co.jp 】