『波のうえの魔術師』  石田衣良 | ページをめくった先に広がる世界と解け合う心

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波のうえの魔術師 (文春文庫)/石田 衣良
¥500
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***この本は2009年8月に読了しました***

あの銀行を撃ち落とせ!謎の老投資家が選んだ復讐のパートナーはフリーターの“おれ”だった。マーケットのAtoZを叩きこまれた青年と老人のコンビが挑むのは、預金量第三位の大都市銀行。知力の限りを尽くした「秋のディール」のゆくえは・・・。新時代の経済クライムサスペンスにして、連続ドラマ化話題作。
(Bookデータベースより)



新聞で読んだヨーロッパの蔵相の言葉を思い出した。
「マーケットに恋はできない」
おれは自信を持っていえる。いいや、そのフランス人は間違っていると。
なぜなら、その春おれはマーケットと恋に落ちたのだから。




マーケットと恋に落ち、いつの間にかその虜になった主人公が、波のうえの魔術師と称した小塚老人と結託し銀行株を狙い落とす!

まず、株の単語の長ったらしい説明とかがないのが良かったですね。
でも株式売買をそんなに知らない人でも結構さらりと読める作品でしょう。
株をしない方は信用売買の空売りとかくらい知っておいた方がわかりやすいでしょうが。


主人公が株を始めたときの記述は自分で始めて株式売買をしたときの昂揚感を思い出しました。
当時、秒単位でかわる値動きをリアルタイムボードでみたときは、ほんとうにドキドキしました。
ひさびさに株をやりたくなった気も。笑


時代背景はちょうど自分が株を始めてやった頃かな。なので入り込みやすかったです。
そして現実にあった経済の流れを踏襲しているのでリアリティもありました。
それに信用収縮による悲劇は去年のリーマンショックをフラッシュバックさせるので読んだ時期としても悪くなかったかな。
膨らみすぎた信用が一気に収縮されるさまは、バブル崩壊時と去年のリーマンショック以降と根本的な大差はないかもな、と思いました。
バブルは日本国内だけですみましたが今回は世界全体を巻き込むほど。そして崩壊スピードも桁違いでしたね。大きな違いはその2点かと。


小塚老人のセリフにありましたが、日本人は汗水かいて働いて稼いだお金が美徳として扱われやすい、と。
金で金を生むのは、汗をかかない最低の仕事だと見なしているふしがある、と。
よくファイナンシャルリテラシーについて、日本人は欧米に比べ圧倒的に不足している、といわれます。
その通りだと思います。幼少期からの教育からして全然違いますからね。
まぁ単純にファイナンシャルリテラシーをあげれば良いってもんでもないでしょうけど。何も知らないカモのまま外資にいいように貪られるのはやっぱりいい気はしないですね。

労働の代価ではなくリスクの代償としての金。投資家が扱うきれいな金と、血と汗でこさえる金。
どっちの金もまった同じ値打ちを持ってる、と言いそして、時代が変わった、金も変わっていくさ、と寂しそうに言ったヤクザの辰美も印象的だった。



ちと小難しいこと書きましたが、そんなに量もなくサラリと読めるし、ところどころの表現なんかは、相変わらず好きです。
著者の得意技、若者の成長ストーリーもしっかり健在です。


ちなみに「ビッグマネー!~浮世の沙汰は株しだい~」という題名でTVドラマ化されてたみたいですが、相変わらずTVドラマは観てません




火のついた心でおれは考えていた。この数字を打ち倒す。
奈落の底までたたき落とす。それがおれたちのちょっと洗練された形の復讐なのだ。
数よ、泣き叫ぶがいい。



さまざまな戦略を駆使し臨んだ「秋のディール」その結末は・・・。




最後に以下、完全にネタバレになりますので、未読の方はご注意。

風説の流布に関してはいただけない。もちろんインサイダーも。
犯罪行為ときちんと描写はありますが、それでも、ね。
小塚老人の策により、まつば銀行は株価下落と言う痛手を被り、外資であるZEに資本提携を余儀なくされたので、結果的に小塚老人と主人公の狙い通りだったのだろう。
今後まつば銀行は、リストラや給料の見直し等があるかもしれない。
そういう意味では、復讐を成し遂げたのかもしれない。
しかし、結果として数多のステークホルダーから金を巻き上げたことがほとんど描写がなく、復讐行為自体を美化し過ぎた感があった。
もしかしたら、今回の売買劇の裏で株主の中には大損をし、家庭崩壊や自殺者が出たかもしれない可能性だって否定できないのに。
ということで、そこら辺を考慮した評価にしときます。



★★★


その他の石田衣良作品
『うつくしい子ども』  ◇『娼年』  ◇『波のうえの魔術師』  ◇『4TEEN』


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