「京都に行かない？」
「え？」
ボクの突然の問いかけに、あきさんは驚いたような顔をした。
少し乱暴に戻されたティーカップがカシャンと音を立てる。
「どうして、急に？」
目をまん丸にするあきさん。
予想通りの反応に、つい笑みが零れてしまう。
「この間お店にいらしたお客様が京都の方で、いろいろお話を
うかがったんだ。もう少しすると京の町並みが桜一色に染まって
それはもう見事だそうだよ。是非一度お越し下さいって・・」
沈黙の後あきさんが尋ねた。
「そのお客様って女性の方？」
ボクは一瞬どきりとした。
「え？そうだけど」
「その方が京都の町を案内してくれるの？」
脳裏に菜々さん、鈴子さん・・そして梨香さんの顔がよぎる。
「京料理の特製弁当をご馳走するって言ってくれたけど・・」
「お弁当？!」
あきさんが訝る様な目をした。
「今度お弁当屋さんを開業されるそうなんだ…
あ、でもそれは単なるリップサービスだよ」
喫茶店では菜々さん。
『匠ショップ』からの帰り際には梨香さんがそれぞれに
「京都に来たら鈴子のお店のお弁当をご馳走しますね」
と言ってくれた。
もちろん社交辞令にしか過ぎないだろうけど…
僅かに眉根を寄せたあきさんは、ティーカップに注がれた
ミルクティーを一口飲んだ。
ボクもそれに倣う。
姉貴・・モデルのMisonoが伝授した『ロイヤルミルクティ』
茶葉の香りが口いっぱいに広がっていく。
あきさんは思案するように手元のカップをじっと見つめた。
…女性特有の”勘”というのを働かせているんだろうか？
ボクは内心ヒヤヒヤする。
この旅の本当の目的を気取られはしないかと・・
「ボクからのホワイトデーのプレゼントにしたいんだけど」
「えっ・・」
弾かれたように顔上げるあきさんと、まともに視線がぶつかった。
少し潤んだような瞳でじっと見つめられ、ボクははにかむように微笑んだ。
「来月お休み取れないかな？」
「うん・・大丈夫・・だと思う…」
あきさんも照れたような笑みで応えてくれた。
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