TEN NOVELS AND THEIR AUTHORS 1954 by W. Somerset Maugham
 
 先日アップした上巻 の続きですばるーんあか
 上巻に引き続き、モームは作者がどういう人間であったか、またどういう人生を生きたかに重大な関心を置いています。
 伝記を尊重し、しかしながら同時に伝記主義とは大分遠いところで小説を読むモーム。

残りの5冊は・・・

『ボヴァリー夫人』 フローベール著

『白鯨』 メルヴィル著

『嵐が丘』 エミリ・ブロンテ著

『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー著

『戦争と平和』 トルストイ著


です。この中で読んだことのないのは『ボヴァリー夫人』のみです。こちらも、読みたいと思っているものの1つ。

 フローベールロマン主義者であると同時にリアリストであり、人間の愚劣さを暴露することに病的な喜びを覚えました。


 猥褻であると裁判にかけられ、検事に幾つかの箇所を指摘されていますが、今になると(モームが生きていた時代ですが)むしろ控えめな描写であり微笑せずにはいられない、とモームは記しています。そして結局無罪になりますが裁判の時に「ボヴァリー夫人は私だ」と言った事が有名です。

 何だかチャタレー夫人の恋人 の時と酷似している気がします。


 同じフランス人だからかバルザックと比較して描かれていますね。

 豊かな想像力が赴くままに書かれたのではなく、ほとんどこの『ボヴァリー夫人』が推理一つで書かれた事に対し不思議だ、と言っています。



 『白鯨』は読んだことは読んだけど、つまり鯨を追いかけている話。よくヘミングウェイの『老人と海』 と比べられているような気が。

 モームも評価しており、海洋文学作品では世界一という声も多いそうですが、残念ながら、あまり私の好みではありません。良さがあまり分からなかったです。

 エイハブ船長がこの白鯨に片足を食べられていることからも、この「白鯨」は悪を表している、という意見が一般的ですが、モームは

 しかし何故、悪よりはむしろ善を表さないのか?と主張しています。

 エイハブ船長は気違いじみた自負心を持ち、無慈悲で苛酷で残忍で、復讐心が強いのだ、と。

 因みに日本でも大人気のスターバックスはこの『白鯨』の一等航海士スターバックから取られたとか。



 『嵐が丘』は大体のあらすじは『ヒースクリフは殺人犯か?』 に載せています。

 エミリ・ブロンテは気難しく、出来る限り男性を避け、姉シャーロットや妹には友達が(当然)いたが、エミリにはたった1人もいなかった。性格は矛盾だらけで、服装はあまりにも時代遅れであり、恐らく今の世の中に生まれていたにしても社会に順応するのは難しいだろう、と推測できるほど。

 出来映えは非常に悪いが、それと同時に非常に素晴らしくもある。

 矛盾していそうで、それが本質を突いています。

 シャーロットも彼女の唯一の作品『嵐が丘』には彼女の死後も未だにその力強さに感心させられる、と発言しているよう、確かにとても力強い作品ではあります。

 ただ、病的に暗いと言っても良いのでは。まず思い浮かぶのは、ヒースの生い茂る荒涼たる風景、薄暗くどんよりとした雲と、古びた館。空は青じゃない、黒に近いグレー。とても寒々しいイメージしかないのです。

 彼女の生い立ちを知っているつもりでは有りましたが、彼女の性格を知って納得・・ダッシュ彼女は自分の中にキャサリン・アーンショーを、そしてヒースクリフを見出したのだろう、とモームは考えています。



 『カラマーゾフの兄弟』は、東大教授が勧めていて未だに人気の高い作品ですね。しかしながら、何度挑戦してもダメなものです・・・。これの主題は神の追求だという意見が大半のようですが、モームはそうではなく、むしろ悪の問題なのだと主張しています。

 ドストエフスキーについては何も知りませんでしたが、驚愕しました。

 全く常軌を逸しており、傲慢で自分のことしか話さない。デビューがあまりにも華々しかったため、そうではないものをあからさまに見下す。


 男としても、最低。人としても、最低。夫としては、もっと最低。

 何故このような人がここまでの小説を書けたのか不思議でならないのです。

 重症なギャンブル癖(癖というよりむしろ、中毒・・・)があり、手元にお金が少しでもあると直ぐに賭けてします。旅に出れば金がなくなり帰れなくなる。その度に、友人らに手紙を送り多少の金を得るものの、それもすぐにすってしまう。

 更には食べていくのもやっとの状態になり、妻のものまで質に入れる羽目に。

 子供が生まれても変わらず、直ぐに後悔するものの妻と子の為に金を残すことは出来なかったらしいのです。

 

 先日ようやく読み終わった『戦争と平和』。 トルストイなら私は『アンナ・カレーニナ』 の方が好きですが、これが十大小説に選ばれることは納得です。



 それにしても、サマセット・モームが選んだ10つの名作。イギリス、フランス、ロシア文学(当時はソ連ですが)ばかりなのですよね。唯一、アメリカのものが『白鯨』。

 優れた文学作品はこの4国に多いのでしょうか。

 私が普段読むものも、大抵この4カ国のものなんですよね。

 因みにモームは↑イギリス文学のジャンルに入れているようにパリ生まれではありますが、イギリス人です。


 「結び」の中で想像上のこの十大小説に選ばれた作家らのパーティーが開かれます。しかし、オースティンを除いては全て病的であると診断されています。この結びのところだけでも必見ですラブラブ思わず笑ってしまいました。



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嵐が丘 (新潮文庫)/エミリー・ブロンテ
 
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白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))/ハーマン メルヴィル
 
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