ほんとうのさいわい。 | 俺様の「好きにやらせろ!」 Ⅱ

ほんとうのさいわい。

人生における幸せ、ってば何だろうか、だなんて、ふと想ってしまう今日この頃なる、俺様です。そんな折り、レポーティングがだいぶ遅れている 島旅 のお供に、是非とも持って行って読みたいと想った、優しい気持ち本。巻末の解説にて、本作が未定稿であり未完成作品であることやら、年譜にて、没年齢が奇しくも今の俺様と同じ37歳だったりを、初めて知ることになった宮沢賢治ってば、文章表現がとってもピュア。その繊細さに、幾度となく、涙が勝手に流れ出しそうになったりして。「ほんとうのさいわい」 を求めて、俺様もきっとまっすぐに進みます。本冊はちなみ、実家で見つけた昔文庫本 (昭和五十四年六月改訂二十四版発行) にて、260円なり。時代の移ろいを感じつつ、現代にも通ずる豊かなる感受性、かく在るべき、とか想わんとす。

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なんというきれいさでしょう。空がまるで青びかりでツルツルしてその光はツンツンと二人の目にしみ込み、また太陽を見ますと、それは大きな空の宝石のように橙や緑やかがやきの粉をちらし、まぶしさに眼をつむりますと、今度はその蒼黒いくらやみの中に青あおと光って見えるのです。あたらしく眼をひらいては前の青ぞらに、桔梗いろや黄金やたくさんの太陽のかげぼうしが、くらくらとゆれてかかっています。

(『ひかりの素足』 より)
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ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口つきで、檜のまっ黒にならんだ町の坂をおりて来たのでした。
坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。ジョバンニが、どんどん電燈の方へおりて行きますと、いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影ぼうしは、だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横のほうへまわって来るのでした。

(『銀河鉄道の夜』 四 ケンタウル祭の夜 より)
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牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、来たの大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連なって見えました。
ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、さっきのみんなの持って行った烏瓜のあかりのようだとも思いました。
そのまっ黒な、松や檜の林を越えると、にわかにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亙っているのが見え、また頂の、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢の中からでもかおりだしたというように咲き、鳥が一疋、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。
ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投げました。
町の灯は、暗の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供らの歌う声や口笛、きれぎれの叫び声もかすかに聞こえて来るのでした。風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、ジョバンニの汗でぬれたシャツもつめたく冷やされました。

(『銀河鉄道の夜』 五 天気輪の柱 より)
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するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと言う声がしたと思うと、いきなり目の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そこらじゅうに沈めたというぐあい、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと穫れないふりをして、かくしておいた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばらまいたというふうに、眼の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは、思わず何べんも眼をこすってしまいました。
気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に窓から外を見ながらすわっていたのです。車室の中は、青い天鵞絨(ビロード)を張った腰掛けが、まるでがらあきで、向こうの鼠いろのワニスを塗った壁には、真鍮の大きなぼたんが二つ光っているのでした。

(『銀河鉄道の夜』 六 銀河ステーション より)
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にわかに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。見ると、もうじつに、金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を、水は声もなくかたちもなく流れ、その流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。その島の平らないただきに、立派な眼もさめるような、白い十字架がたって、それはもう、凍った北極の雲で鑄たといったらいいか、すきっとした金いろの円光をいただいて、しずかに永久に立っているのでした。

(『銀河鉄道の夜』 七 北十字とプリオシン海岸 より)
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窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの河のまん中に、黒い大きな建物が四棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼もさめるような、青宝玉と黄玉大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろのだんだん向こうへまわっていって、青い小さいのがこっちへ進んで来、まもなく二つのはじは、重なり合って、きれいな緑いろの両面凸レンズのかたちをつくり、それもだんだん、まん中がふくらみだして、とうとう青いのは、すっかりトパーズの正面に来ましたので、緑の中心と黄いろな明るい環とができました。それがまただんだん横へ外れて、まえのレンズの形を逆にくり返し、とうとうすっとはなれて、サファイアは向こうへめぐり、黄いろのはこっちへ進み、またちょうどさっきのようなふうになりました。銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所が、睡っているように、しずかによこたわったのです。

(『銀河鉄道の夜』 九 ジョバンニの切符 より)
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「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら、峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから」
燈台守がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです」

(『銀河鉄道の夜』 九 ジョバンニの切符 より)
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「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さんこう言ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蠍がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命にげてにげたけど、とうとういたちに押さえられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがれないで、さそりはおぼれはじめたのよ。そのときさそりはこう言ってお祈りしたというの。

ああ、わたしはいままで、いくつもの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだを、だまっていたちにくれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神様。私の心をごらんください。こんなにむなしく命をすてず、どうかこの次には、まことのみんなの幸のために私のからだをおつかいください。って言ったというの。

そしたらいつか蠍はじぶんのからだが、まっ赤なうつくしい火になって燃えて、よるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さんがおっしゃったわ。ほんとうにあの火、それだわ」

(『銀河鉄道の夜』 九 ジョバンニの切符 より)
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ああそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙や もうあらゆる光でちりばめられた十字架が、まるで一本の木というふうに川の中から立ってかがやき、その上には青じろい雲がまるで環になって後光のようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。みんなあの北の十字のときのようにまっすぐに立ってお祈りをはじめました。あっちにもこっちにも子供が瓜に飛びついたときのようなよろこびの声や、なんとも言いようない深いつつましいためいきの音ばかりきこえました。そしてだんだん十字架は窓の正面になり、あの苹果(りんご)のような青じろい環の雲も、ゆるやかにゆるやかに繞(めぐ)っているのが見えました。

(『銀河鉄道の夜』 九 ジョバンニの切符 より)
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そのときまっくらな地平線の向こうから青じろいのろしが、まるでひるまのようにうちあげられ、汽車の中はすっかり明るくなりました。そしてのろしは高くそらにかかって光りつづけました。
「ああマジェランの星雲だ。さあもうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ」
ジョバンニは唇を噛んで、そのマジェランの星雲をのぞんで立ちました。そのいちばん幸福なそのひとのために!
「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中でなしにほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない」

(『銀河鉄道の夜』 九 ジョバンニの切符 より)
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6/15 of Books 2009
宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」


銀河鉄道の夜 (角川文庫)/宮沢 賢治

★274頁/累計19,941頁
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■始まりは ココ から
<Books 2006>
<Books 2007>
<Books 2008>

<Books 2009>
1/15 『竜馬がゆく』全八巻完結。
2/15 情熱あってこその成長。
3/15
絶対的な何かとは。
4/15 5年。
5/15 何をおいていくか。



ふこらさーゆー♪ & ナンクルナイス
WE ARE ALL ONE & ***