脳が認める勉強法』(原題『How We Learn』Benedict Carey[著]・花塚恵[訳]:ダイヤモンド社)

“の内容を、司法試験系をはじめとする試験対策に適用・応用していく記事を、断続的に書いていこうと思う。”と書いたのが昨年6月5日…7か月以上経って、ようやく書く余裕ができましたσ(^_^;)

 

まず1発目はやはり、『4A基礎講座』を他の司法試験系の基礎・入門系の講座と比べたときの最も分かりやすい特徴といえる、OUTPUT→INPUTの順に進めることの効果について書きたい。

(以下、ページ番号引用は上記書籍から。)

 

「自分の知らないことをいきなりテストとして出題され、間違った回答をする――こう言われると、有効な学習手法というよりも、やる気を失い失敗するためのレシピのように思えるだろう。」(P145)

しかし、

「『間違った推測』をすることで、次のテストでその問題もしくはそれに関係する問題に正解する確率が増すのだ。」(P145)

具体的には、アフリカの国の首都を5択で問う24問の

「半分は、事前に勉強することなく5択の問題に答えるという方法で勉強した。そして残りの半分は、見て覚えるという昔ながらの方法で勉強した。…翌日になったら、24カ国すべての首都を5択問題でテストする。テストを終えたら、最初の半分と残りの半分で結果を比較する」(P148)

と、

「ほとんどの人は、最初に覚えた国の問題で、10~20パーセント高い点数をとる。自分で答えを推測した後に正解を聞くやり方で覚えたほうだ。」(P148)

という実験が挙げられている(なお、この学習効果は、回答後すぐに正解を教わったときにとくに顕著となる」(P145)とも)。

 

このように間違うことの効用は、私も以前、記事『問題を「解く」とはどういうことか?~その2』で書いていた。「答えを推測したおかげで、勉強して覚えるときよりも覚えたいという意識が強く働き、正しい答えがより深く脳に刻み込まれた」(P148)というのは、同記事の(2)と同様の分析といえるだろう。

ただ、さらに

「なぜそうなるのか?」まで掘り下げると、「確かなことは誰にもわからない。」(P148)のだそうだ。

「可能性としては、事前テストの実施が『望ましい困難』として機能することがあげられる。」(P148)

この「望ましい困難」とは、「記憶の検索が困難になるほど、その後の検索と保存の力(学習の力)が高くなる…原理」(P58)とされている。

がんばって記憶を検索すればするほど、その検索回路が太くなるイメージか。「事前テスト」の場合、もともと記憶がない以上、その記憶の検索は最大限に困難だから、その後の検索と保存の力(学習の力)も最大限に高くなるということだろう。

「もう一つ考えられるのは、間違った推測のおかげで、流暢性が招く幻想が排除される可能性だ。」(P149)

この「流暢性が招く幻想」とは、「事実や公式や要旨がその場ですぐに思いだせると、翌日や翌々日になっても思いだせると信じてしまう」(P123)こと、「人は忘れるという事実を忘れてしまう」(P123)こと、という形で表現されておりこれを生みだす「学習テクニック」の具体例として、「マーカーで線を引く」こと等が挙げられている(P124)

他方、「事前テスト」をすると、「何も勉強せずいきなり推測するのだから、『エリトリアの首都の名称を見た(勉強した)ばかりだから知っている』という錯覚に陥らずにすむ。」(P149)

「また、ただ覚えるだけのときに見るのは正解だけで、5択問題を解くときのように、残る4個の選択肢は目にしない。…しかし、試験の問題では、ほかの選択肢が提示される…と、とたんに自分の答えに自信がなくなる。正しい答えだけ覚えようとすれば、脳裏や問題用紙に現れるかもしれないほかの選択肢のことを何も理解できない」(P149)

これも、記事『問題を「解く」とはどういうことか?~その2』の(1)と同様の分析といえるだろう。

 

以上は、「選択形式」(P145)の問題についての話なので、短答対策でいきなり短答過去問を解くといった勉強法にはそのまま妥当する。

確かにこれは外国での研究なので、日本では、文化等による差異が生じる可能性は否定できないが、私が上記研究を知らずに経験的に書いた記事『問題を「解く」とはどういうことか?~その2』と概ね一致していることから、それなりに信用できると思っている。

 

というわけで私も、まず短答対策では、少なくとも理論的には、いきなり短答過去問を解くのが最も効率が良いと考えている(ので、INPUT講義に当たる4A条解講義の真価は、短答・論文過去問をくり返しくり返しくり返し解いて「完璧」にした上で、 超直前期に、知識の総まとめをする点にあると考えている:記事「4A条解講義(知識集中完成講義)について」の(b))。

ただ、実践的には、ひたすら短答過去問を解いて「間違った回答」を続けると、だんだん「やる気を失い」(P145)挫折する例も聞くので、『4A基礎講座』では、短答過去問をくり返し解く前に4A条解講義をザッと倍速等で聞き流して短答・論文過去問を自力で解くハードルを下げることも狙っている(cf.記事「4A条解講義(知識集中完成講義)について」の(a))。

 

そして私は、論文対策でも同様に、いきなり論文過去問等を解くのが最も効率が良いと考えており、それを実現できるツール(4A)もあるので、『4A基礎講座』では各科目、OUTPUT講義に当たる4A論文解法パターン講義から始めるカリキュラムとしている。

ただ、4Aを使っても、全くの独力でいきなり論文過去問等を解くのは難しいと思うのだ(一応、4A論文解法パターン講義の途中で、つまり後の方の科目は独力で、司法試験系に超短期合格した受講生は数人いるが…)。

そのため、4A論文解法パターン講義では、私が皆さんに4Aに沿って問いかけ、皆さんに“次の一手”を考えてもらいながら、4Aを使っていきなり論文過去問等を解くナビゲーションをしている(cf.動画「論文解法パターン講義 刑法 第1回」)。

逆に言えば、上記研究の成果は、ただ単に4A論文解法パターン講義を“聞く”“受ける”のではなく、皆さん自身が“次の一手”を考えながら4A論文解法パターン講義を受けないと、得られない。

 

ま、論文式問題についての理論的研究は上記書籍には書いてないので、あくまで私の現場での経験的・臨床的な実践にとどまるんだけどね。

ただ、論文式問題についての理論的研究がまだされていないのは、そもそも「自分の知らないことをいきなりテストとして出題され」たときに、「間違った回答」(P145)どころか、一言も回答できない手法で教育しているところばかりだからではないか(cf.記事『「論点」「論証」単位≒「判例」単位の指導の意味を問う』)。

エリザベス・リゴン・ビョ-クとニコラス・ソ-ダ-ストロ-ムの上記研究は、未発表のまま続いている(P348)とのことなので、今後の進展に期待したい。