part6START
―――
ミッチイのお風呂は2時間もかかるンだ
「ああ、これでやっと人ごごちがついた!」
ハンバーグを食べたマーチャンは満足そうにお腹をさすります。
アーチャンは例によって大好物のスパゲッティ。
大将はカニコロッケであとの2人はエビフライ。
他に、コーラやミルクセーキを平らげます。
フィンガー5の5人はなんでも食べますが、アーチャンだけは魚に手を出しません。
それというもの、沖縄にいる小さい頃、魚の骨がノドにつかえるひどい目にあったことがあるからです。
代々木公園から1時間ほどで、安兄の運転する車は東村山の自宅にやっと着きました。
「ただいまぁ」と真っ先に玄関に入ってゆくのがミッチイ。
彼は兄のカズが何もかもやってくれるので“オレ知らないよ”とばかりに、さっさと家に上がると手に持っていた本をひろげます。
ミッチイは大変な読書家で本が好きなのです。
マーチャン、アーチャン、大将が入ってくると急に家の中がにぎやかになり、最後にカズがテレビ局に来ていたファンからもらったプレゼントをかかえてエッチラ、オッチラ、と入ってきます。
「遅いから早くお風呂に入りなさい!」とお母さん。
「ハーイ!」と真っ先に飛び込むのがマーチャン。
その次がアーちゃんで以下、大将、カズ、安兄、ミッチイの順ではいります。
この順番はいつも変わりません。
どうしてかというと、お風呂に入る時間の短いものが先に入り、ゆっくり組はアトまわしだからです。
マーチャン、アーチャン、大将は”カラスの行水”です。
ところが、ラストのミッチイときたら「お風呂の中で居眠りでもしてるんじゃないか」と、みんなが心配するほどに長湯で2時間近くも入っています。
「あれは沖縄にいる長女に似たんですよ、きっと・・・。
当時は町のお風呂屋さんに行ってたんですが、長女はいつまでたっても帰ってこん。
それで、子供たちに、“風呂屋に弁当持って行ってやれよ”とよくいったもんですよ」
お父さんが解説してくれました。
前には夜の11時に帰ってきても、
それから自転車を引っ張り出して家の周りを乗り回していたアーチャンでしたが、ここんところ疲れているのかあまり自転車には乗りません。かわりにテレビを見ています。
ちょうどその時間のテレビといえば『11PM』など大人向けの番組を放送中。
女の人の裸が登場すると「始まったよ、早く!」とアーチャンがみんなに知らせます。
すると、カズ、アーチャン、安兄がテレビのまわりに飛んできます。
ミッチイひとりがモジモジ。「早くこいよ!」とカズに呼ばれて顔をポーッと赤くするミッチイ。
安兄らに手伝ってもらって、8畳間に6人分の布団が敷かれます。
タンスや机があるため、6人分の布団を敷くともう足の踏み場もありません。
「夜中にトイレに行って帰ってくると自分の寝る場所がなくなってることがあるくらい」だそうです。
敷いた布団の上でアーチャンがカズを相手にプロレスごっこをはじめます。
レッスンや仕事中にはガミガミとアーチャンをしかり続けるカズですが、仕事を離れれば弟思いの優しいお兄さんなのです。
入口に近い机の前では、眠い目をこすりながら大将が算数の宿題に取りくんでいます。
「大将、これ!」と、ミッチイが宿題の答えをメモして渡します。
「いいの、宿題は自分でやらなくちゃ意味ないもの。」
大将はミッチイが書いてくれた答えをそっと押し返すのです。
「しかし、もう今夜は遅いだろう。いいかげんに寝ないと・・・」
しかし大将は兄たちのこの好意をガンとして受けつけません。
そして、どんなに眠かろうとも、また遅い時でも
自分の手でキチンと宿題をやってからでないと寝ないのです。
そこへゆくと、アーチャンの方は、チャッカリしたものです。
宿題が出ると「お兄ちゃんたのむーー!」と最初からミッチイに手をすり合わせます。
「たまには自分でやったらどうだ」といわれても、
「やりたいけれど、明日の仕事に影響するといけないからなぁ」といいながら、ケロリとした顔でテレビを見ているのです。
しかたなく兄たちが答えを出してやると「サンキュー、サンキュー」と、それを丸写しにするだけ。
いまほど仕事が忙しくなかったころには、よくトランプやサイコロゲーム、それに将棋などをやりました。
将棋が強いのはマーチャンで、アーチャンは最初元気が良くても、少し形勢が不利になってくると「やーめた」と投げ出してしまいます。
そのくせ、他の誰かがやっているとそばから口を挟み、「ダメだよ、そんなことしちゃ」と大騒ぎするのです。
また、アーチャンは手品やなぞなぞの本をかってきて、「ねぇ、ちょっと見てよ!」と腕のほどを披露するのです。
「ねぇ、どうなってるかおしえてよ」手品に興味がある大将がきくと、
アーチャンは、「100円くれたら教えてやるよ」と手を出します。
「いやよ!」「じゃ、教えてやらない!」「ケチ!」と、またまたケンカが始まります。
子供たちがどんなひどいケンカをしていても、お父さんとお母さんは知らん顔をしています。
「子供たちのことは、一夫をはじめ、全員に任せてあるので口は出しません」というのが、この玉元家のモットーなのです。
長い間、フィンガー5は長男のカズを中心に自分たちのことは自分たちで処理してきました。
「明日、着ていくものを整理したか!」
カズの命令で他の4人は下着や洋服を点検します。
「やっぱりこれ、やめとこう!」アーチャンがタンスの中をゴソゴソやりはじめます。
おしゃれなアーチャンは注文がうるさいのです。
ところが、床にもぐりこんで真っ先に寝るのがアーチャン。
アーチャンは隣に寝ている大将の耳を引っ張りながら眠るへんな癖があるのです。
おかげで大将の片耳が大きくなってしまったそうです。
一番寝つきの悪い大将もどうやら寝つき、玉元家の一日は静かに幕をとじてゆくのでした。
―――
玉元一家全員集合
part6をもって、「完」です。
次からは、アタック162問を書こうと思います。