センター試験世界史Bの問題文で次のようなものが出ました。
「奈良時代に編纂された『日本書紀』の雄略天皇5年(461年)条には、百済の女性が日本の各羅嶋で男児を出産し、その子は「嶋君」と名付けられ、長じて百済の王(第25代の武寧王)に即位したと記録されています。この挿話は『日本書紀』にのみ見えており、かつては単なる創作ではないかとも考えられていた。ところが1971年、韓国・公州の宋山里古墳から石板が出土し、そこには、武寧王の名である「斯麻」の文字とともに、彼が523年に62才で没したことが刻まれていたのである。これにより、『日本書紀』と石板とで、彼の名と生年がほぼ一致することが明らかとなった。考古学的な発見が歴史書の記述の信憑性を高めた一つの事例といえるだろう。」
これ、日本史じゃないですよ、世界史の問題文です。
でも、おもしろいですよね。
史料の記述が考古学的な発見によって実証されていく…
前から言うように、現在の教科書は一次史料に基づいて、客観的な事実にもとづいて説明していこう、という感じで作られています。政治的・思想的「偏見」を極力排除したものにだんだん変化してきました。
「百済が日本の植民地だった」というのは荒唐無稽な話ですが、「任那」の話や、『日本書紀』の記述で考古学的な研究とつきあわせた実証的研究が進んでいます。
https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-12423787736.html
いつまでも自分が習ったころの歴史の話や1970年代の歴史教育のままである、と考えて教科書を批判し、「イメージの学者」を非難するのは的外れだと思います。
さて、センター試験日本史Bの問題文に、こんなものも出ていました。
「…戦後の文化にアメリカが与えた影響も大きかった。戦時中禁止されていたアメリカ映画やジャズが復活し、ラジオ放送では、英会話講座が人気を博した。しかし、GHQは、日本人に完全に自由な言論や表現活動を保障したわけではなく、新聞や雑誌の原稿、ラジオ放送や映画、芝居の脚本まで、検閲の対象とした。」
そして、「占領軍進駐二伴フ報道取扱要領等」の四か条が示されています。
連合軍最高司令部 一九四五年九月一九日
日本帝国政府二対する宣言
題名 日本に与フル新聞紙法
一 報道ハ厳格二真実ヲ守ラザルベカラズ
二 直接タルト推論タルトヲ問ハズ、公安ヲ害スベキ事項ハ何事モ掲載スベカラズ
三 連合国二対シ、虚偽若ハ破壊的ナル批判ヲ為スベカラズ
四 連合国二対シ、破壊的ナル批判ヲ加ヘ、又ハ同軍二対シ、不信若ハ怨恨ヲ招来
スルガ如キ事項ヲ掲載スベカラズ
占領下の以上のような言論統制については学校教育でもちゃんと説明されていますし、実際こうして入試にも紹介されているものです。
占領下の言論統制ばかりを強調するなら、戦前の教育・学問・言論に対する統制にも触れなければ、「批判」の説得力は生まれません。
“war guilt”は「戦争罪悪感」と訳するとして(「戦争の責任」という語感だと個人的には思うのですが)、これをinformationするprogram、というのですよね、“WGIP”は…
これ、「戦争への罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画」って、「超訳」すぎませんか?
ポツダム宣言に「軍国主義の除去」という項目があります。
これに基づいて、日本人に「戦争が悪いことだ、ということをどうやって伝えるか」という計画でしょう。
戦前の報道管制、言論統制の中で「知らされていない」ことをどうやって日本国民に知らせていくか、ということの、手順で、これをGHQが作成していないほうが不思議です。
こんな計画があった、と説明されても、はい、そりゃそうでしょう、という程度の話で、このセンター試験に紹介されているように、
「GHQは、日本人に完全に自由な言論や表現活動を保障したわけではなく、新聞や雑誌の原稿、ラジオ放送や映画、芝居の脚本まで、検閲の対象とした。」
という事実を超えるものではありません。