『日本国紀』読書ノート(75) | こはにわ歴史堂のブログ

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75】田沼意次の政策は、評価されていないことはない。

 

「この政策はあまり評価されていないが、私は画期的なことであったと思う。」(P206)

 

おっしゃる通り、かれこれ20年近く前から、田沼意次の政治は評価されています。

だいたい現在40歳以上の方々は、田沼時代は賄賂政治など「マイナスイメージ」で語られていた時代の教育を受けていると思います。

「あまり評価されていない」というのは、もう昔の話です。

 

ただ、田沼意次の政治を誤解されているところがあります。

 

「幕府の財政を立て直すため、それまでの米中心の経済から、商業振興策へと転換を図った。」(P206)

 

というのは少し誤解があります。

やっぱり「米中心の経済」であることには違いありません。

 

「江戸幕府が開かれて百五十年以上、どの将軍も老中も思いつかなかったことだ。」(P206)

 

と説明されていますが、すでに指摘したように、徳川吉宗は株仲間を公認しています。

https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-12432461444.html

 

百田氏は「株仲間」のことをあまり詳しくご存知ないようです。

そもそも1648年から1670年の間に、幕府は「株仲間」を禁止する法令を何度も出しています。株仲間は早い時期に存在していました。

高校の教科書などでも出てくる大坂の二十四組問屋、江戸の十組問屋は株仲間です。

徳川吉宗は、株仲間を公認し、冥加金を納めれば販売権の独占を認めていきました。

ですから、田沼意次が最初に始めたことではありません。

 

細かいことが気になるぼくの悪いクセ、なのですが、

 

「彼は商品流通を行なうための株仲間(幕府から営業の独占権を与えられた商人の集まり)を結成し、そこから冥加金を取った。これは現代の事業税に近いものがある。」

 

株仲間は、自主的に結成された株仲間(願株)と、幕府が命じて作らせた株仲間(御免株)の二つがあり、百田氏の説明は「御免株」のことになります。

それから、「冥加金」は、許認可税で、結成を願い出た場合、許可された場合に支払うものです。ですから、「現代の事業税に近いもの」は「冥加金」ではなく「運上金」、ということなります。

 

「積極的に商業振興策をとったことで、幕府の財政は大いに改善され、社会の景気もよくなった。」(P207)

 

と説明されていますが…

まず、株仲間から得た運上・冥加が幕府の収入に占める割合がどれくらいだったか、あまりわかっていないのです。

前に説明しましたように「小物成」といっしょに扱われて計上されていました。

https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-12432595760.html

 

逆に言えば、農業外の雑収入扱いで、新しい税、という認識は少なかったかもしれません。

幕府の財政が回復したことはトータルな対策、つまり、田沼意次が、税収が増えることならなんでもやったから、です。

専売制もその一つです。銅座・真鍮座・人参座・朱座を設けました。

金・銀・銭3貨を金に一本化した貨幣制度を導入し、秤量する必要が無い南鐐二朱銀を発行しました。

上方は銀、江戸は金が主要通貨でしたから、日々の相場で金・銀が交換されていたのを、銀貨に「二朱」と記して、レートにかかわらず二朱、と定めて交換させたものです。初めての計数銀貨を通用させました。

 

さて、ここに「田沼マジック」がありました。

南鐐二朱銀は、銀純度98%という超高品質の銀貨でした。

16朱=1両ですから、南鐐二朱銀は8枚で1両です。

一方、「金1両=丁銀60匁」が幕府の江戸時代の公定レートでした(これ、おぼえておいてくださいよ。)

 

さぁここから算数の世界です!

南鐐二朱銀の重量は1枚=2.7匁。8枚つまり1両分は21.6匁。純度98%ですから銀の実質量は21.1匁になります。

 

「南鐐二朱銀8枚=銀21.1匁=1両」

 

です。

さて、さきほど「金1両=丁銀60匁」が公定レートだといいました。

徳川吉宗は元文の改鋳で、金銀の質を落とした貨幣を発行した、という話、おぼえていますか?

元文丁銀の純度は、な、な、なんと46%

あれ? つまり… 丁銀60匁に含まれている銀は 27.6匁 になっちゃいます。

元文丁銀を南鐐二朱銀8枚に直すごとに、27.621,6=6匁。つまり1両ごとに6匁の「出目」が出ます。

市中に出回っている元文丁銀を鋳つぶすたびに南鐐二朱銀10枚以上作ることができていきます。

これこそ百田氏の好きな「通貨政策」のはずなのに、なぜかまったく触れられていません。

荻原重秀がケインズの先取りとか宗春のインフレ政策とかの話なんてどうでもいいので、ここで「通貨供給量増加」による良質なインフレの話をしてほしかったところです。

 

田沼意次の評価、かつて説明された「三大改革」、などが教科書で現在ではどう説明されているかを以前にお話しさせていだいたので、添付しておきます。

よければ参照してください。

https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-11869688567.html

https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-11834929548.html