我が家のこゆきちゃん、順調に成長中なのですが――  

ひとつ、なかなか厄介な問題がありました。


それが


トイレシート破壊問題。


ガリガリ引っ掻いて遊ぶのは、まあいいんです。  

本能っぽいし、ストレス発散にもなってるのかなと。


でもですね…


破いたあと、むしゃむしゃ食べる。


これはダメ。完全にアウトです。


見つけるたびにヒヤッとするし、  

体のことを考えると放置はできない。


ということで、対策を導入しました。


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■今回導入したのはこちら


ペティオ  

「お手入れらくらく ドッグトレー専用 シーツ破れ防止カバー」


トレーの上にカパッとはめるタイプのカバーで、  

シートを直接触れなくする構造です。


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■設置後の様子


見た目はこんな感じ👇







シートの上にメッシュ状のカバーが乗ることで、  

物理的に引っ掻けなくなります。


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■実際に使ってみた感想


これ、かなりいいです。


まず


・シートがほぼ無傷になる  

→ 破れないので当然食べられない


そして


・いたずら自体が減る  

→ 触っても面白くないのか、執着しなくなる


完全にゼロとは言いませんが、  

「問題として気になるレベル」からは脱出できました。


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■今回のポイント


今回改めて思ったのは


“行動を止める”より“できなくする”が正解


しつけでどうこうしようとするより、  

物理的に対策したほうが圧倒的に早いし安全。


特に「食べる系」は即対処が大事ですね。


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■まとめ


・引っ掻きはある程度仕方ない  

・でも「食べる」はNG  

・カバーで物理的に防ぐのが最短ルート


こゆきのように  

「とりあえず噛む・とりあえず食べる」タイプの子には  

かなりおすすめできる対策でした。


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さて、次は何を攻略してくるのか…。


子犬との暮らし、なかなか一筋縄ではいきませんね(笑)



 

最終決戦の、その後のこと。

すべての戦いが終わり、
白銀の魔法使いコユキだけが立っていたあの夜から、
どれほどの時が流れたのかはわからない。

けれど世界は確かに続いていて、
命はめぐり、
魂は新しいかたちでまた出会う。

――時は今。

剣も魔法も、
魔王も眷属も、
もう誰も知らない時代。

穏やかな朝と、
やさしい手と、
あたたかな部屋のある世界。

その家にはすでに、
二匹の猫が暮らしていた。

ひとりは、ひまわり。

六歳になる猫で、
明るく、まっすぐで、
家の中のいちばん日当たりのいい場所がよく似合う子だった。

毛並みはやわらかな光を含んだように美しく、
いつも堂々としていて、
初めて来た人にもまるで怖じることなく近づいていく。

窓辺に立てば、
まるで「この家はわたしが守る」とでも言いたげに外を見つめる。

もちろん本人にそんな自覚はない。

けれどその背中には、
かつて陽光の勇者として立っていた魂の名残が、
たしかに残っていた。

そして、もうひとり。

そら。

三歳の猫で、
ひまわりとは対照的に、
少し気まぐれで、
少し自由で、
思いついたらふらりと別の部屋へ消えていく子だった。

高いところが好きで、
棚の上や家具のすき間や、
「どうしてそんなところに?」と思う場所に、
気づけばいる。

そのくせ、
自分では一度も迷っているつもりがないらしく、
見つけられるたびに、
きょとんとした顔をしていた。

鋭く、
しなやかで、
遊びの最中でも相手の動きを読むのが異様にうまい。

猫じゃらしの軌道を見切るその目には、
空色の剣士だったころの気配が、
ほんの少しだけ宿っているように見えた。

そんな二匹が暮らしていたある日。

家の外から、
かすかな声が聞こえた。

ミューミュー。

小さく、
細く、
けれどどこか懸命な声だった。

もう一度。

ミューミュー。

窓の外。

ひまわりが最初に気づいた。

ぴくりと耳を動かし、
窓辺へ駆け寄る。

続いてそらもやってくる。

何事かと外をのぞきこむ二匹の視線の先にいたのは、
黒い子猫だった。

まだ小さい。

少しやせていて、
毛並みも汚れていて、
不安そうに鳴いている。

けれどその目だけは、
妙にまっすぐだった。

家の人はその声に気づき、
そっと窓の近くへやってきた。

「どうしたの?」

やさしい声。

黒い子猫は、
その声を聞いても逃げなかった。

鳴きながら、
ただそこにいた。

助けを求めるように。
けれど同時に、
どこかでその家を知っていたかのように。

ひまわりは窓の内側から、
じっと子猫を見つめていた。

そらはというと、
少し離れた場所から様子を見ていたが、
やがてゆっくり近づいてきて、
窓の向こうの黒い子猫と視線を合わせた。

一瞬だけ、
時間が止まったような気がした。

誰も前世を覚えているわけではない。

勇者だったことも。
剣士だったことも。
黒衣の僧兵だったことも。

そんなはずはない。

それでも、
魂というものが本当にあるのなら。

長い旅をともにした気配や、
命を賭けて背中を預けた相手のぬくもりを、
完全に忘れきれるものだろうか。

黒い子猫は、
また鳴いた。

ミューミュー。

その声に、
ひまわりは小さく返事をするように鳴いた。

そらは少しだけしっぽを揺らした。

家の人は、
そっと窓を開けた。

冷たい外気が入り込む。

けれどその隙間から、
黒い子猫は迷わず中へ入ってきた。

静かな足取りで。
けれどどこか安心したように。


その姿を見て、
家の人はやさしく言った。

「うちに来る?」

黒い子猫は逃げなかった。

抱き上げられても暴れなかった。

まるで、
ずっと前からその手を知っていたかのように、
力を抜いて身を預けた。

そうしてその子は、
家に迎え入れられた。

名前は、チョコ。

黒くて、
つやのある毛並みが、
ちょうど甘いチョコレートのようだったから。

こうして、
ひまわり、そら、チョコの三匹の暮らしが始まった。

最初の数日は、
さすがに少し距離があった。

ひまわりは姉のように堂々としていたが、
相手がまだ小さいことをちゃんとわかっているらしく、
無理に近づきすぎることはしなかった。

そらは気になるくせに素直ではなく、
少し離れたところから様子を見ては、
ふいに近づき、
またふらりと去っていった。

チョコはそんな二匹を、
静かに見ていた。

よく鳴く子ではなかった。

ひとたび家に慣れてしまうと、
驚くほど寡黙で、
気配を消すのがうまかった。

気づけば部屋の隅にいて、
気づけばひまわりの近くにいて、
気づけばそらが高いところから降りられなく……なってはいないのだが、
なぜか困った顔で止まっている場所の近くにいた。

家の人は笑った。

「チョコって、静かだねえ」
「ひまわりは面倒見がいいね」
「そらは自由だなあ」

そう、
三匹は少しずつ、
けれどたしかに家族になっていった。

朝は三匹で窓辺に並び、
外を眺めた。

昼は陽だまりで眠り、
ときどきじゃれ合い、
ときどき追いかけっこをし、
ときどきなぜかそらだけが別の部屋にいて、
あとから何事もなかった顔で戻ってきた。

そのたびに、
ひまわりは呆れたように見つめ、
チョコは静かにその横に座っていた。

夜になると、
三匹は近くで眠った。

ぴったりくっつく日もあれば、
少し距離をとる日もある。

けれど不思議と、
誰かが本当にひとりになることはなかった。

見えないところで、
いつもちゃんとつながっていた。

ひまわりは、
どこか守るように家の真ん中にいた。

そらは、
自由に見えて、
でも危ないことがあると真っ先に駆けつけた。

チョコは、
何も言わないかわりに、
気づけばいちばん必要な場所にいた。

まるで昔からそうだったかのように。

それからの十五年。

季節は何度も巡った。

窓の外に桜が咲き、
夏の光が差し込み、
秋の風が抜け、
冬の朝には三匹が身を寄せ合った。

若かった三匹は少しずつ年を重ねた。

ひまわりの足取りは少しゆっくりになった。
そらも高い場所へ飛び乗る前に、
一度だけ考えるようになった。
チョコは相変わらず静かだったが、
昔よりもっと穏やかな目をするようになった。

それでも三匹は一緒だった。

おいしいごはんを食べ、
お気に入りの場所で眠り、
家の人に撫でられ、
安心できる日々を重ねていった。

戦う必要は、もうなかった。

誰かを倒す必要も、
何かを守るために命を削る必要もない。

ただ、
朝が来て、
昼が過ぎて、
夜になって、
また明日が来る。

その当たり前を、
三匹はゆっくり味わうように生きていた。

きっとそれは、
前の世界で十分すぎるほど戦った魂に与えられた、
やさしいご褒美だったのだろう。

そして十五年後。

また新しい風が、
その家へやってくることになる。

あいちゃん。

新たな転生者が、
新しい家族としてその家にやってくるのは、
もう少し先のこと。

けれどその日までの十五年間、
ひまわりとそらとチョコは、
たしかに幸せだった。

仲良く、
穏やかに、
あたたかく。

かつて剣を取り、
拳を握り、
世界のために戦った三つの魂は、
今度は猫として、
同じ家の中で、
同じ陽だまりを分け合って生きたのである。

勇者も、
剣士も、
僧兵も、
もういない。

そこにいるのは、
ひまわりと、
そらと、
チョコ。

窓辺で眠り、
ごはんの時間を楽しみにし、
撫でられるのが好きな、
三匹の猫たち。

けれどもし、
その寝顔をそっと見つめたなら。

陽だまりの中で重なるその姿のどこかに、
かつて命を預け合った仲間たちの面影が、
ほんの少しだけ見えるかもしれない。

世界を救ったあとにたどり着いたのは、
壮大な伝説の続きではなく、
こうして静かに流れていく、
小さくて大きな幸せの時間だった。

それはきっと、
どんな勝利よりもやさしい、
本当の意味での救いだったのだろう。




 

 

 

ずっと気になっていた場所を、ようやく見直しました。

 

それが、キッチンの隅に置いていた

Amazonの紙袋です。

 

我が家では紙類を廃棄するとき、

Amazonの紙袋をゴミ袋代わりに使っていました。

 

通販で届くたびに増えるし、

サイズもちょうどいい。

 

紙類をポイポイ入れられて、

いっぱいになったらそのまま処分できる。

 

便利さだけで言えば、

かなり優秀だったんです。

 

でも、どうしても気になっていたのが見た目。

 

キッチンの隅に茶色い紙袋があるだけで、

そこだけ一気に生活感が出てしまうんですよね。

 

白い壁。

木目の家具。

できるだけ色を抑えた空間。

 

その中で、Amazonの紙袋だけが

妙に目立っていました。

 

便利だからまあいいか。

 

そう思いながら使い続けていたのですが、

一度気になり始めると、やっぱり気になる。

 

そこで今回、思い切って卒業することにしました。

 

代わりに選んだのは、

ニトリのNインボックスです。

 

重ねて置けるタイプのボックスで、

見た目はシンプルな白。

 

これを置いてみたら、

思っていた以上にスッキリしました。

 

やっていることは、今までとほとんど同じです。

 

紙類をポイポイ入れるだけ。

 

でも、入れ物が紙袋から白いボックスに変わっただけで、

キッチンの隅の印象がかなり変わりました。

 

茶色い紙袋がなくなったことで、

色のごちゃつきが減って、

空間にまとまりが出た感じです。

 

しかもNインボックスは重ねられるので、

縦の空間も使えるのがありがたいところ。

 

今回は上下に重ねて設置しました。

 

見た目はスッキリ。

でも、使い勝手は今まで通り。

 

このバランスがちょうどよかったです。

 

収納って、

大きな家具を買い替えたり、

特別なことをしなくても、

 

「とりあえず使っているもの」を変えるだけで、

かなり印象が変わるんですね。

 

Amazonの紙袋には本当にお世話になりました。

 

でも、キッチンの隅を見たときに

ちょっと気分が上がるようになったので、

今回の卒業は大正解でした。

 

生活感をゼロにするのは難しいけれど、

少しだけ整えることはできる。

 

そんな小さな見直しでした。

 

紙ごみ入れだけでなく、ペットシーツの一時置き、掃除用品、ストック収納にも使えそうです。


色の強いパッケージや紙袋を隠すだけで、部屋の印象はかなり変わると感じました。

 

 

 

 

その夜、
空はまるで最初から壊れていた。

星は見えない。
月も見えない。
闇が濃いのではない。

闇そのものが、
空のかたちを乗っ取っていた。

魔王城の最上層。
ねじれた尖塔の先に築かれた、
終焉の玉座の間。

そこはもう、
石でできた城ではなかった。

床は脈打ち、
壁は夜のように揺らぎ、
天井のかわりに広がるのは、
底なしの闇だった。

その中心に、
アイ・ノクスフェリアは立っていた。

漆黒の衣。
深淵を編んだような長い髪。
静かに笑う、あまりにも美しい顔。
その瞳の奥には、
夜の始まりよりさらに古いものが沈んでいる。

魔王。

四眷属を失い、
ついにみずから王座を降り、
最後の戦いに立つ者。

その前に、
四人は並んでいた。

ヒマワリ・ソレイユ。
ソラ・アズリエル。
チョコ・ノクティス。
そして、
コユキ・エヴァーホワイト。

陽光の勇者。
空色の剣士。
黒衣の僧兵。
白銀の魔法使い。

ここまで幾度も死線を越え、
傷つき、
笑い、
迷い、
それでも前へ進み続けてきた四人だった。

魔王は彼らを見て、
愉しげに目を細めた。

「ようやく来たか」

その声は穏やかだった。

穏やかであるのに、
一言ごとに空気の温度が下がる。

「勇者。
剣士。
僧兵。
魔法使い。
おまえたちはよくここまで夜を裂いてきた」

その指先が、
ゆるやかに宙をなぞる。

それだけで、
玉座の間の闇がざわりと揺れた。

「だが――ここから先は、
もはや希望では届かぬ」

ヒマワリが一歩前へ出る。

盾を構え、
黄金の剣をまっすぐ向ける。

「届くよ」

短い返答だった。
けれどそれは、
誰よりも強かった。

魔王は少しだけ笑う。

「よい」

そして、
世界が崩れた。

最初に砕けたのは距離だった。

一瞬前まで玉座の前にいたはずの魔王が、
次の瞬間にはもう、
ヒマワリの目の前にいた。

黒い手が伸びる。
闇が槍になる。
ヒマワリは盾で受ける。

轟音。

いや、
音ではなかった。
世界のほうが悲鳴を上げたのだ。

床が裂ける。
空間が軋む。
ヒマワリの足が大きく沈む。

「ヒマワリ!」

ソラが飛ぶ。

二本の剣が夜を裂き、
魔王の腕を左右から断ちにかかる。
だが魔王は避けない。

避ける必要がなかった。

剣が触れた瞬間、
その軌道そのものが闇へ呑まれた。

「っ……!」

ソラの目が見開かれる。

理解したはずの理が通じない。
読んだはずの流れが、
最初から存在しなかったように消される。

チョコが沈黙のまま踏み込む。

黒炎の拳。
夜を宿した最短の一撃。
四眷属すら砕いてきた拳王の本気。

それすら、
魔王は片手で受けた。

受けたのではない。
握り潰したのだ。

黒炎が、
魔王の掌の中で音もなくひしゃげる。

「似ているな」

魔王が低く言った。

「だが浅い」

次の瞬間、
チョコの身体が吹き飛んだ。

壁へ叩きつけられる。
石ではない闇の壁が波打ち、
彼の背を深く打ち返す。

コユキはすでに詠唱に入っていた。

白銀の魔法陣が幾重にも重なり、
玉座の間そのものを組み替えていく。

凍界。
拘束。
断絶。
浄化。
観測。

彼女がこの旅で積み重ねてきたすべての理が、
白銀の光となって広がった。

「夜そのものを名乗るというのなら――」

コユキの瞳が鋭く光る。

「その理ごと、
わたくしが読み切って差し上げますわ!」

術式が閉じる。

空間ごと魔王を封じるための、
白銀の極大拘束。

だが、
アイ・ノクスフェリアはただ微笑んだ。

「読めるか?
名もなき夜を」

そして、
指を鳴らした。

白銀の術式が、
内側から黒く染まった。

コユキの顔色が変わる。

「侵食――!?」

それは四眷属の時の比ではなかった。
理ごと喰われる。
術式の構造そのものを、
夜へ書き換えられていく。

コユキは奥歯を噛みしめ、
強引に術式を切り離した。

間に合った。
だが、
ほんのわずかでも遅れていたら、
白銀の理そのものが崩されていた。

ヒマワリが再び前へ出る。

黄金が燃える。

「みんな、下がって!」

その声にはもう迷いがない。

彼女は覚醒していた。
深淵のメルカディアを越え、
仲間を照らす光になると決めた勇者だ。

陽光の剣が、
真っすぐ魔王へ振り下ろされる。

その一撃だけは、
魔王も真正面から受けた。

光と闇がぶつかる。

初めて、
玉座の間に本当の衝撃が走った。

魔王の足元が半歩滑る。

ヒマワリの目が見開く。

届いた。

ほんの少しでも、
確かに届いたのだ。

「ソラ!」

呼ばれるより早く、
空色の剣士は動いていた。

右で斬る。
左で崩す。

二刀を得て、
努力を知った天才は、
ここへ来るまでに何百何千と剣を振ってきた。

風を読む。
間を裂く。
殺すためではなく、
道を作るための連撃。

魔王の闇が初めて乱れる。

チョコがその隙へ踏み込む。

黒炎が拳へ集まり、
今度はひとつの点へ収束する。

沈黙の僧兵が、
言葉のかわりにすべてを込めた一撃。

「……砕けろ」

低い声。
だがそれは祈りにも近かった。

拳が魔王の胸へ届く。

魔王の身体が初めて大きく揺れた。

闇が裂ける。
王の衣が切れる。
深淵の奥から、
ほんのわずかに赤い傷がのぞく。

勝てる。

その希望が、
四人の胸を一瞬だけ駆け抜けた。

だが、
その一瞬だけだった。

魔王は傷を押さえもせず、
静かに笑った。

「そうだ。
それでいい」

その声に、
コユキだけがぞっとした。

まずい。

そう思った時には、
もう遅かった。

魔王は最初から、
この一瞬を待っていたのだ。

四人が届いたと思う、
その瞬間を。

希望が最も高く持ち上がった、
その一点を。

そこを、
折るために。

魔王の両手が開く。

玉座の間全体が、
深く脈打つ。

そして世界そのものが、
夜へ裏返った。

光が消える。
風が消える。
音が消える。
仲間の気配さえ、
一度ばらばらに切り離される。

ヒマワリが叫ぶ。
ソラが踏み込む。
チョコが拳を上げる。
コユキが詠唱する。

けれど、
その全部が半拍ずつ遅れた。

夜に沈められたからだ。

最初に膝をついたのはソラだった。

空がない。
風がない。
上も下もわからない闇の中で、
空色の剣士の感覚は根元から狂わされた。

それでも立とうとした。
立って、剣を振ろうとした。

だが、
魔王の闇はあまりにも深かった。

「風を失えば、
おまえは半ば死ぬ」

低い囁きとともに、
黒い刃がソラの胸を貫いた。

「ソラ!!」

ヒマワリの叫びが裂ける。

だが、
ソラは最後まで剣を止めなかった。

崩れ落ちながら、
空色の剣士は二本の刃を交差させる。

右で斬る。
左で崩す。

最後の最後に放たれたその一撃は、
魔王を包んでいた闇の流れを鋭く切り裂き、
王の周囲を巡っていた“夜の循環”を乱した。

それは致命傷ではない。

だが確かに、
魔王を守る理のひとつを崩した一撃だった。

魔王の目がわずかに細まる。

「風の剣か」

ソラは苦しげに息を吐きながらも、
なお魔王を見据えていた。

自分の一撃が届いたことを、
きっと感じていたのだろう。

そして空色の剣士は、
静かに崩れ落ちた。

ヒマワリの中で、
何かが切れた。

「返せえええ!!」

勇者は叫び、
これまでで最も強い光を放つ。

黄金は朝日ではなかった。
それは太陽そのものを削り出したような、
灼けるほどまっすぐな光だった。

魔王でさえ一歩押される。

だが、
押しただけでは終わらない。

ヒマワリはソラが裂いた闇の綻びへ、
黄金の剣を真正面から叩き込んだ。

勇者の一撃は、
魔王を守る夜の層を焼き、
その胸に刻まれた傷をさらに深く広げた。

魔王の足元が、
今度こそ大きく揺らぐ。

「……なるほど」

魔王が低くつぶやく。

「これが勇者の光か」

光は深く届いた。
王の核までは届かずとも、
その表層を確かに焼いた。

それは致命傷には足りない。
だが、
魔王の“耐える形”そのものを
ひとつ削り取るには十分だった。

けれどその代償は大きい。

魔王の返しの一撃が、
ヒマワリの盾を砕き、
そのまま腹を貫く。

陽光の勇者は膝を折りかけ、
それでもなお倒れなかった。

「……チョコ」

震える声。

けれど瞳はまだ燃えていた。

「お願い」

その言葉だけを残して、
ヒマワリの光は散った。

そして最後に、
チョコが動く。

黒衣の僧兵は、
もう満身創痍だった。

だがその拳だけは、
まだ死んでいなかった。

ソラが乱した夜の流れ。
ヒマワリが焼いた闇の層。

その二つを見たうえで、
チョコ・ノクティスは
最後の一歩を踏み込む。

「……砕けろ」

低い声とともに、
黒炎が拳へ収束する。

燃え上がるのではない。
沈み、
圧し、
内側へ潜る、
夜の底のような炎。

拳は、
ヒマワリの光が焼いた傷跡へ
まっすぐ叩き込まれた。

その衝撃で、
魔王の身体が
初めて明確に仰け反る。

魔王を支えていた核が、
そこでようやく大きく揺らいだのだ。

ソラが流れを断ち。
ヒマワリが夜を焼き。
チョコが核を砕く。

三人の最後の一撃が、
別々に放たれながら、
ひとつの傷として魔王に刻み込まれていた。

魔王は苦しげに息を吐く。

「……見事だ」

それは、
魔王からの本心の言葉だった。

だが次の瞬間、
闇が爆ぜる。

チョコの身体が深く裂かれ、
黒衣の僧兵もまた膝をつく。

それでも彼は、
最後まで前を向いた。

「……あとは、頼む」

その声は、
誰へ向けたものか明白だった。

残ったのは、
白銀の魔法使い
ただひとり。

立っている仲間は、
もうコユキしかいなかった。

けれど、
魔王はもはや無傷ではない。

空色の剣が、
夜の流れを乱した。

陽光の剣が、
王を守る闇を焼いた。

黒炎の拳が、
その核を深く砕いた。

三人の命を賭けた最後の一撃は、
確かにアイ・ノクスフェリアを弱らせ、
最後の白銀へと道を繋いでいた。

静寂が落ちる。

魔王城の最上層。
終焉の玉座の間。
砕けた光。
折れた風。
沈んだ闇。

その真ん中に、
コユキ・エヴァーホワイトが立っていた。

白い髪は乱れ、
息は浅い。
術式の回路は焼け、
指先は震えている。

でも、
その瞳だけは折れていなかった。

魔王が静かに彼女を見る。

「なるほど」

低い声。

「最後に残るのはおまえか。
白銀の娘」

コユキは答えない。

答える余裕なんてない。
泣く余裕もない。
ただ、
目の前に立つしかなかった。

ヒマワリの光が散った。

ソラの風が止んだ。
チョコの闇が沈んだ。

ならば、
ここで立つのは自分だ。

「……残るのが、
わたくしでなくて、
誰だと言うのです」

かすれた声だった。

けれどそれは、
たしかに白銀の誇りだった。

アイ・ノクスフェリアは少しだけ笑う。

「気高いな」

「当然ですわ」

コユキは杖を構える。

その瞬間、
彼女の周囲に、
今までとは比べものにならない数の白銀の魔法陣が展開した。

攻めるためではない。
守るためでもない。

世界そのものを書き換えるための、
最後の理。

「わたくしは、
ひとりではありません」

コユキの声が、
玉座の間に響く。

「陽光はここにある。
風もここにある。
闇もここにある」

その白銀の光の中に、
三人の残滓が浮かぶ。

ヒマワリの黄金。
ソラの空色。
チョコの黒炎。

命はもうない。
だが彼らがここまで刻んできた軌跡は、
たしかにコユキの中へ残っていた。

白銀の理は、
それらを束ねる。

魔王の表情が、
初めてわずかに変わった。

「……それが答えか」

「ええ」

コユキは微笑む。
泣いているようにも見える笑みだった。

「これが、
わたくしたちの白銀ですわ」

次の瞬間、
最終術式が発動した。

白銀の光が、
玉座の間を丸ごと呑み込む。

闇が叫ぶ。
城が軋む。
夜そのものが引き裂かれる。

アイ・ノクスフェリアは最後まで立っていた。

魔王にふさわしく、
美しく、
不敵に。

「見事だ、白銀の娘」

それが最後の言葉だった。

光がすべてを貫く。

そして、
静寂だけが残った。

どれくらい時が経ったのか、
わからない。

崩れかけた玉座の間に、
ひとりだけ立っている影があった。

コユキ・エヴァーホワイト。

白銀の魔法使い。

彼女だけが、
生きていた。

空はまだ暗い。
けれど、
ほんのわずかにひびが入っている。

魔王の夜が終わりかけているのだ。

コユキは、
動かない三人のもとへ歩いた。

ヒマワリ。
ソラ。
チョコ。

誰も、もう返事をしない。

白銀の魔法使いは、
そこで初めて膝をついた。

泣いた。

声も出さず、
ただ肩だけを震わせて、
静かに泣いた。

最終決戦は終わった。

魔王は滅びた。
世界は救われた。

けれどその代償は、
あまりにも大きかった。

陽光の勇者は還らない。
空色の剣士も還らない。
黒衣の僧兵も還らない。

ただひとり、
白銀の魔法使いだけが残った。

それが勝利だった。

それが、
この物語の終わりだった。

そして、
その終わりを抱えたまま、
コユキ・エヴァーホワイトは立ち上がる。

生き残るとは、
残酷だ。

けれど、
託された者には
歩く義務がある。

白銀のウィザード。

最後に残ったその名は、
もう気高いだけの名前ではなかった。

悲しみも、
喪失も、
それでも消えなかった誇りも、
すべてを抱いて立つ者の名前になっていたのである。