第1509作目・『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室』

(2023年・日本)

〈ジャンル〉サスペンス/アクション



~オススメ値~

★★★☆☆

・冒頭から緊迫した事故シーンで楽しめる。

・鈴木亮平の名医らしさが感じられる演技。

・窮地に訪れる奇跡で、救命の希望を感じさせられる。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『事故現場や事件現場で一人の死者も出さないことを信念として活動する都知事直轄の救急救命のプロフェッショナルチーム、"TOKYO MER"。チーフドクターの喜多見は元妻の高輪千晶と復縁し、千晶は妊娠していた。この日も飛行機不時着事故の現場に出動したTOKYO MERは命辛々の緊迫した状況の中で乗員乗客すべてを救出し、死者ゼロを達成する。ところが、妊娠中の妻との約束を忘れていた喜多見に千晶は愛想を尽かし、横浜の実家へと帰省してしまった。その頃、厚生労働大臣の両国はアメリカ帰りの救命医、鴨居友をチーフドクターに迎え、TOKYO MERに対抗するべくYOKOHAMA MERを立ち上げる。YOKOHAMA MERはTOKYO MERのように医師が危険を晒して事故の最前線に向かうのではなく、安全を配慮した上で救命する緊急救命室のモデルケースとして両国から期待されていた。そんな中、横浜ランドマークタワーで悪質な放火事件が発生。火は一気に回り、上階層に取り残された客も多数いる状態だった。TOKYO MERは急いで現場へと駆け上がるが、YOKOHAMA MERは両国の指示によって地上での治療から動かない。そんな中、喜多見は上階層に千晶も取り残されていることを知る。』


〜必ず、守る。〜


《監督》松木彩

《脚本》黒岩勉

(「映画 謎解きはディナーのあとで」「ONE PIECE FILM RED」「ゴールデンカムイ」)

《出演》鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、要潤、小手伸也、佐野勇斗、ジェシー、菜々緒、杏、徳重聡、橋本さとし、鶴見辰吾、仲里依紗、石田ゆり子、ほか





【安心感を感じられる医師】

事故や事件が起きた時に治療を必要とする患者がいて、現場から治療にあたるまでの時間をいかに短くするかが、その後の命を左右するとも言えるだろう。救急救命において、ERカーはその最高峰。
医者を現場まで運び、医者が災害現場で治療やトリアージを即座に行う。必要があれば、ERカーの中で緊急手術を行うこともできるのだ。
医者が待つ病院へ患者を運ぶのではなく、患者が待つ現場へ医者を運び、治療を施すチームが都知事直轄の救命救急組織、「TOKYO MER」である。

連ドラ版からスペシャルドラマを経て、遂に劇場版。
連ドラ時代から事故や災害での救命救急を描いたテーマは映画向きだとは感じてはいたが、やはり見応えがあった
圧巻だったのが冒頭シーン。
冒頭から飛行機の不時着炎上事故が発生していて、映画になったスケール感の変化を感じさせる。燃料に引火して爆発する可能性の高い飛行機から患者を運び出し、ERカーの中でオペをする中で破片の飛び散った飛行場を慎重に抜け出すという緊迫感がたまらない。
この事故一本だけで映画化できるレベルの大規模事故である。

「TOKYO MER」はその性質上、死者を生み出さないことを至上命題としていて、この日も百戦錬磨のチーフドクター、喜多見は取り残された乗員乗客たちを救命するため炎上する機内に飛び込んでいた。
真っ暗で煙がたちこめ、あちこちで助けを求める災害現場に喜多見医師が現れて、「安心してくださーい!」と医師が到着した第一声を発するのが、いつも本当に希望を持たせてくれる。
緊急手術が必要になった時でも、喜多見はいつも心配そうに見守る家族や患者に笑顔を向けて優しく「大丈夫」と励ましてくれるのだ。

鈴木亮平演じる喜多見の笑顔を見ると、たとえ重傷を負っていても本当に大丈夫になるんだと思わせてもらえる。俳優・鈴木亮平に医者の信念が憑依していて、すごく安心感を感じさせられるのである。
鈴木亮平の卓越した演技力は連ドラの初回から通して変わらない。専門的な用語が多い医療シーンで早口で捲し立てる緊迫した手術シーンも、その直後に患者に向ける笑顔も、メリハリが効いているのが本当の名医のように感じさせる

そんなTOKYO MERが今回対峙することになるのが、YOKOHAMA MERの面々である。
YOKOHAMA MERは全国の政令指定都市に広めようとしている厚生労働省直轄の救急救命組織の1チームで、今回全国に先駆けて施行的に稼働し始めた。
そこには厚生労働大臣の総理の席へと繋げるための思惑があり、ゆくゆくはTOKYO MERさえも都知事から奪い取ろうとする算段が見え見えであった。
喜多見は仲間が増えたと単純に喜ぶが、政治的な思惑を考えると穏やかな状況ではない。

しかも、厚生労働省はTOKYO MERのシステムそのものは評価しつつも、喜多見チーフの医療方針に関しては否定的だったのだ。
医師は医師であるゆえに、危険な現場に赴く必要はない。災害現場の最前線で、レスキュー隊によって救助されてくる患者の治療にあたることを至上命題とする、としているのだ。
燃え盛る飛行機の機内に突入するようなリスクは医師が負うべきではない。
まぁ、不用意にリスクを負わない官公庁が取り仕切るまともな組織であれば、ごもっともなご意見なのかもしれない。

TOKYO MERの喜多見チーフが、「待っているだけでは救えない命がある」と主張するのに対し、YOKOHAMA MERの鴨居チーフは「待っていないと救える命も救えない」と主張する。
真っ向から対峙する2チーム。いずれも人の命を救うという点では協働しているのだが、それぞれの立場と思惑が違うため、その接触は冷や冷やしてしまう。
ヒーロー物にもよくある展開だが、強大なライバル出現によって主人公のヒーローの立場危うし、というわけである。



【誰もが人を救うことができる】

そんな2チームが対峙した現場が、横浜ランドマークタワーの高層ビル火災であった。
人為的な放火による大規模火災なのだが、高層階に人々が取り残されてしまった。その中には偶然にも妊娠中の喜多見の妻、千晶も。
そんな現場の指揮を取るのが、厚生労働省のMER推進統括官となった音羽だった。

賀来賢人演じる音羽は医系技官であり、かつてはTOKYO MERに派遣され、共にチームで救急救命していた喜多見チーフの相棒的存在なのだ。
クールな音羽はMERにいた頃も、当時の厚生労働大臣からの密命で内部からの崩壊を任務としていたため、どこか彼らとは距離を置いた立場で喜多見と何度か意見を対立させていたが、次第に音羽はMERへの理解を示し始めていた。

鴨居からなぜTOKYO MERを擁護するのか尋ねられた時、音羽の頭の中にあったのはやはり、喜多見チーフの亡くなった妹、涼香の存在だった
あるテロ事件に巻き込まれて亡くなった涼香は、音羽にとってもかけがえのない存在だった。
彼女が亡くなった時、そしてその失意を乗り越えた喜多見チーフを目の当たりにした時、音羽はMERの存在意義を確信したはずなのだ。

鴨居と音羽は元恋人同士であった。
かつて鴨居に夢を語っていたように、音羽は日本で平等に医療を受けられる現場を作るために医師免許を持ちながら厚生労働省に入省した
MERなら、どんな現場に入っても経済的な差異や立場の違いで治療の差が開くことはない。災害現場はいつも命が平等に扱われるからである。
トリアージを行い、治療を施す必要性の高い順から治療を施す
それを先駆け的に実現してきたのがTOKYO MERであり、更に危険を顧みずに目の前の命を救うために飛び込む喜多見チーフがいたから、これまでも多くの命を救い続けてきたと言える。
音羽にとって、TOKYO MERは救急救命の形を変える希望の光だった。もはや涼香のような犠牲者をこれ以上生み出してはならない。

ランドマークタワーの火の回りに逃げ道を塞がれ、取り残された人々とTOKYO MERの面々が窮地に陥った時、厚生労働大臣は音羽にYOKOHAMA MERは救助には向かわないよう指示を出す
しかし音羽は、医師としての信念の元に厚生労働大臣の意思に背いて、YOKOHAMA MERに喜多見チーフらの支援を命じたのだ。
建前では人は救えない。やはり待っているだけでは救えない命がある。それをよく知っているのは、音羽がかつて現場で直視してきたからに他ならない。
厚生労働大臣から指揮官のクビを言い渡された音羽は、喜んでMERの制服を着て現場へと駆け付けていく。
やはり彼は根っからの救急救命医なのだ。指揮を託して現場へと向かう音羽の姿は、救世主となる二人目のヒーローの登場を感じさせた。

一方、千晶と喜多見チーフは高層階から中層階まで降りてきていたが、火の手に道を阻まれ、ついに孤立してしまった。
身重の千晶はこれ以上は進めないと、赤ん坊を帝王切開で取り出して二人だけで逃げてくれと喜多見に頼み込む。
かつて涼香を亡くした喜多見にとってはあまりにも辛すぎる選択である。もう二度と大切な人を失わないと誓っていたはずなのに、なぜ神はこれほどまでに残酷な試練を与え続けるのだろう。

「TOKYO MER」は連ドラ時代から何度も窮地に立たされ、いよいよこれは諦めるしかないのではないかという状況下で、必ず助けの手が入って感動を呼んできた
毎度毎度お馴染みのパターンなのだが、今回はさすがにもうダメだと感じさせられる。
絶体絶命の大ピンチ。あぁ、劇場版は連ドラのように一筋縄ではいかないのだなと諦めかけたその時、やはりお馴染みの希望の光が訪れるのだ。

孤立無援でどうしようもなくなり、これは諦めて死ぬしかないのかと力尽きかけた瞬間、多くの助けの手が入る展開は本当に生きる喜びを実感させられて感動する
皆が手分けしながら脱出ルートを作り出し、一人ではなし得なかった救助もいとも簡単に乗り越えてしまう。
人は人に生かされているのだと改めて感じることができるのが、本作で描かれる救命現場なのである。

そのためには多少都合の良い展開も多いのは大目に見てほしい。
それまで負傷して動けなかったレスキュー隊全員が急にムクムクと起き上がり始めるのは「いやいや…」と思ったし、冬木先生がランドマークタワーの70階まで階段駆け上がって来れるとは思えない……
…だが、人は人に生かされているからこそ、いつも以上の底力が発揮されていると考えれば良いだろう。
「火事場の馬鹿力」はこのシリーズには存在するのだ。

万が一、災害現場に遭遇することがあった際には我先に出口へ殺到する一員ではなくて、自分も人も生かすための一助ができる人でありたいものだと思った。
死者ゼロを達成するためには、医師のみならず、現場にいるすべての人間の協力が必要なのである。


(128分)