第1044作目・『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

テーマ:

『インビジブル・ゲスト  悪魔の証明』

(2017年・スペイン)

〈ジャンル〉サスペンス/犯罪


~オススメ値~

★★★☆☆

・重厚なサスペンスミステリーを楽しみたい人にオススメ。

・衝撃のラストに驚かされる。

・イメージ操作が上手い。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『ホテルの密室で何者かに殴打されて殺害された女性の死体。密室の部屋で倒れていた若手実業家のドリアが警察に逮捕された。ドリアの担当となった敏腕弁護士グッドマンが法廷に備えてドリアと打ち合わせを始めると、密室殺人の発端となったと思われるドリアと被害者ローラのとある事件が明らかになる。だが、ドリアから供述を聞いたグッドマンは、その発言の違和感についてドリアに問い詰める。』


〜完全なる密室。顔のない犯罪者。3時間以内に真犯人を探し出せー。〜


《監督》オリオル・パウロ

《脚本》オリオル・パウロ

(「ボーイ・ミッシング」)

《出演》マリオ・カサス、アナ・ワヘネル、ホセ・コロナド、バルバラ・レニー、フランセスク・オレーリャ、ほか




【事件は密室で起きる】

スペイン発の重厚なミステリー映画だった。
以下、完全ネタバレ有りなのでミステリー映画を楽しみたい人は鑑賞前に読まないようご注意いただきたい。

↓↓↓↓







事件の発端はミステリーの王道、密室殺人からすべてが始まる
山奥のホテルの一室で、何者かに殴打されて死体で発見された女性ローラ。その部屋に一緒にいたのはダブル不倫のネタでローラに脅迫されていた若手実業家のドリアだった。
しかもそのホテルの部屋は冬季間は窓も開かず、完全な密室殺人。

当然容疑者となったドリアは敏腕女性弁護士グッドマンとの打ち合わせに応じる。
検察側が事件の新証人を手配したため、対策を練らなければならないというのだ。グッドマンの気迫に圧倒されたドリアは、これまで隠していた事件までの顛末を話す。

ローラとダブル不倫をしていた際、ドライブ中に別れ話で口論となり、誤って対向車と衝突事故を起こしてしまう
相手の青年ダニエルは即死。
事件の発覚を恐れたローラはドリアに事故を隠蔽しようと持ち掛ける。ローラの策に乗っかったドリアはダニエルの死体をトランクに隠して相手の車両もろとも湖へ沈めた
一方、ローラは車の修理のため近くを通りかかったトマス夫婦の世話になるのだが、なんと被害者のダニエルはトマスの息子であることが判明。急いで帰宅しようとするローラだったが、トマスの妻が息子の携帯に電話をかけたことでダニエルの携帯を持ち合わせていたローラは咄嗟に部屋の中へ隠してしまう。
挙動不審な様子で急いで帰ってしまうローラに不信感を抱いたトマス夫婦。

やがてダニエルは行方不明者となり、大規模な捜索が始まるのだが、トマス夫婦はあの日「鹿と衝突した」と嘘をついていたローラのことを疑っていた。
ローラの身辺を洗ううちに警察はドリアにも目を付け始める。その頃、実業家として社会的地位を確立していたドリアは金の力で自分の関与を隠蔽したが、
真実に気づいた何者かがドリアとローラを脅迫。あのホテルへ呼び出され、何者かに襲われたのだった。

↑事故の相手ダニエルを湖に沈めて隠蔽したローラとドリア。ダブル不倫をしていた二人はより重い罪を背負うことになる。


だが、すべての話を聞いたグッドマンはドリアの話の違和感を指摘。
グッドマンの推理はローラを殺害したのは無関係の第三者ではなく、トマスではないかという説であった。
息子への復讐であれば法廷も納得し、ドリアの罪は軽くなる。
ダニエル殺害を認めることとなるが、グッドマンの説得に納得したドリアはトマス犯人説に乗っかることに応じる。

↑ローラを殺したのは復讐に溺れたトマス夫妻だったのか……??

しかし、グッドマンがドリアにダニエルを沈めた場所を聞いたとき、ドリアは驚愕の真実を話す。湖に沈めたとき、ダニエルはまだ生きていたのだ。
ドリアは生きていることを確認して殺害したのだ。

ドリアの告白に激昂して推理を覆すグッドマン。
ローラとドリアの役割は反対だったのではないか
事故を隠蔽し、ダニエルを殺害し、ローラに罪を着せて彼女を殺したのはドリアなのではないか。
実はローラは事件の後、パニック障害となっていた。精神的に追い詰められていたローラが大胆な犯行計画を企てるとは思えない。
だが、冷淡で利己的なドリアならば犯人である辻褄が通る。

グッドマンの気迫に押されたドリアはその推理が正しいことを認め、グッドマンのことを信頼することを決める。
「少し休憩を挟みましょう」と部屋を退室するグッドマン。
緊迫した空気に緩和が見られたとき、ドリアは驚愕の真実に気付く


【ミスリードと印象付け】

なんと、ドリアとグッドマンの会話は盗聴されていた
グッドマンが退室後に変装をとくと、そこにいたのはトマスの妻だった。ドリアの部屋には間も無くして本物のグッドマンが現れる。
彼女とドリアの会話はトマスにすべて録音されており、トマスはドリアの告白を警察へ引き渡すのだった。

↑実はずっとドリアに問い詰めていたグッドマンはトマスの妻が変装した偽物だったのだ。


事件の援助者と思われていた弁護士が偽物で、被害者の遺族だったという大どんでん返し。
トマスの妻は演技経験があるというキーワードも伏線となっており、伏線の張り方が上手い

また一つの密室殺人から事件の奥行きが見えてくる構成も巧い
ローラが殺害された密室部屋で倒れていたのはドリアのみ。通常どう考えてもドリアが犯人なのだが、大体の人間が「そんなつまらないミステリーがあるか」と別の犯人を仕立て上げようとするだろう。もし、グッドマンがトマスでなく法廷にドリアの供述が持ち込まれていたら、大衆は「第三者が犯人」説を支持したに違いない
だが、ドリアは密室殺人に至る前段階に大きな罪を犯していたのだ。
密室殺人こそミスリードだったのだ。

↑密室殺人はドリアがローラに罪を着せるための加重された犯罪だった。冷酷な真犯人はドリアだったのだ。


そもそも犯行計画を立てた主犯がローラではなく、ドリア本人だったという展開も驚いたことの一つだった。
映画としてローラが冷徹な目つきで事故の隠蔽工作を思いつき、トマス夫妻の前で嘘をついたり、ダニエルの口座に金を横流しする様子を描いたら、すっかり私たちはローラに犯罪の主犯としてのイメージを抱いてしまう
ドリアはローラに弱みを握られた哀れな男であり、主犯ローラが復讐あるいはトラブルによって殺害された時に偶然巻き込まれた不運な男である。
そうやって印象付けされてしまうだろう。
やはり映像として見せつけられるインパクトは大きく、結果としてドリアが主犯でローラは事件をきっかけに精神を病んだ弱い女だったことが明らかになったとき、最初に抱いたイメージとのギャップに驚かされた。

鑑賞者は本作のミスリードと印象付けで巧みな罠に嵌められる
非常に上手いミステリー映画だったと思う。


(106分)