本屋さんで平積みにされていたので読んでみた。デフレが続き、もはやトップグループから脱落しつつある日本を、商品・サービスの価格から比較して、日本経済の停滞を描写している。
本書が例証するようにもはや日本は賃金・物価が安い国である。
・ディズニーランドの入園料は世界でも最安水準
・100均・回転寿司の価格は世界でも最安水準
・インドでIT人材を採用しようにも日本企業は低賃金過ぎて採用できない
・ニセコの不動産の高騰と国内で叫ばれるが国際的にみると割安
・初任給はシンガポールどころか韓国よりも低い
・ホテルの平均客室単価も世界四大都市で最安
・低賃金の日本人のアニメーターが中国の下請けとして高値で業務を受託
・経営難の日本企業が買収され中国などに技術が流出
「安いことはいいことだ」と思う人もいるが、結局、価格が安いと企業の収益が下がり、従業員の給与も上がらず、経済全体だと給与が上がらないのに増税はされるので可処分所得の減少で消費も落ち込み、そうすると消費が冷え込むので企業収益が下がるということで負の循環に陥る。結果的に安い価格で収益を出すために低賃金で従業員を酷使するブラック企業が創出される。日本全体でみても経済規模がシュリンクしてしまう。そうなると、低賃金を嫌った優秀層は国内の外資系企業や海外に転職したりすることになり、また海外の優秀な人材を採用することも出来なくなる。つまり、人材において日本の競争力が下がっていく。マクロな経済のことなんて関心がないという人もいるかもしれないが、個人レベルでみても、一物一価が世界的に保たれている高級ブランドは、どんどん日本人にとって高嶺の花になるし、海外旅行でNY・パリ・ロンドンなどにいけば物価の高さに驚くことになる。エルメス・ヴィトンなどの高級ブランドは価格が上がっているが、それは欧米は経済成長し価格が上昇しているためである。
高度成長期のジャパンアズナンバーワンといわれた時代を知っている人にとっては上記の事実は衝撃的だろうが、若手は非正規雇用も多く、また給与は据え置きで税金だけ高くなっているので手取り賃金は減少しており、本書の内容にはさほど驚かないのではないだろうか。メガバンなどでも新卒の初任給は20万を下回る水準のはずである。中国・台湾・韓国の傘下に入る企業も多いが、これからはASEAN諸国に日本企業が買収されるようになるだろう。日本はもはや抜きんでた国ではないのだ。
日本はなぜ賃金が低いかといえば、年功序列で若手の賃金が安く設定されているためである。そのせいで、優秀層は低賃金を嫌って外資系企業に流れてしまうし、日本企業は国際的な労働市場で買い負けている。さらに日本は解雇が難しく労働市場が硬直的で企業は機動的に人員調整ができないので正社員雇用を厳選して採用するので、調整弁として非正規雇用を活用しているので、特に経験・スキル面で乏しい若手が非正規雇用で低賃金で買い叩かれている。非正規雇用が増えることで低価格ビジネスが生まれ、低収益・低賃金・低消費のスパイラルに陥ってしまう。
しかし、日本は非正規雇用は多いが、その結果、失業率は低い。一人当たり名目GDPで、日本全体とシンガポールを比較すると、断然いまやシンガポールが上だが、東京とシンガポールを比較すると実はほぼ同等だったりする。つまり、日本全体だと国力は落ちているが、東京のみでみると、別に先進的なシンガポールとも張れるぐらいの一人当たりの豊かさはあるのだ - ただそれは日本国内における東京と地方の差も意味しているのであるが。たしかに経済力で抜きんでた国ではもはやないし、危機感を持つことは大切であるが、過度な悲観論に陥る必要もなかろう。
話題の本であるし、読んで興味深い情報もあったものの、日経新聞記者が執筆したとは思えないほどに論が雑で内容に深みがないとも思った。どちらかというと大学生が一生懸命書いたレポートという感じ。「価格停滞=日本経済はダメ」ということを、手を変え品を変えて延々と記述しているのみで、精緻な分析も生産的な主張も何もない。そして比較も誇大にみせるためにやや恣意的な比較もあり、読んでいて溜息をつく場面も多かった。経済学者へのインタビューなども掲載しているが、あまり筆者の論を補強したり深みを持たせるに至っていない。掲載されている人も、日経新聞の記者というので取材には応じたという感じだろう。著者は愛媛新聞にまず入社し、そこから日経新聞に転職しているが、正直、優秀層はもはや斜陽産業の新聞社にはいかないので、本書の著者レベルでも入社できてしまうのだろう。日本の衰退はもとより、新聞記者の質も下がっているなぁと本書を読んで感じてしまった。
