これは想像以上の傑作。イランのイスラム教シーア派の聖地マシュハドで起きた娼婦の連続殺人事件をテーマにした作品である。本作で、ジャーナリストのラヒミを熱演したザーラ・アミール・エブラヒミは、カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞しているが、これは名演だ。
シリアルキラーの作品なんてごまんとあり、さらに犯人の独善的な動機なども何も珍しくない。そう思って観始めたのだが、終始映画に釘付けだった。犯人を追う女性ジャーナリストと、連続殺人犯の交錯する緊迫感あるサスペンス的なストーリー展開や、被害者側の視点や加害者側の家族を含む視点などを織り交ぜて事件の複雑性を描き出す様は圧巻だった。不穏さを煽る音楽も効果的だ。
それにしてもイスラム教は中東の宗教であって、遠い国の話と考えられがちだが、イスラム教徒のうち6割はアジア圏にいる。世界最大のイスラム教国はインドネシアである。イスラム教でもどれだけ厳格なのかは国によるが、イランだと本作でも描かれるように女性は原則的に一人行動ははばかられる。劇中でも、未婚のジャーナリストがホテルに泊まろうとするとシステムエラーだと断られ、ジャーナリストだと職種を明かすと突然エラーは解消して宿泊が許される。なんなら一人で夜出歩く女性は娼婦に間違われる有様である(本作では描かれていないが犯人の奥さんが一人行動中に娼婦と間違われて危ない目にあって娼婦を敵視するようになったという)。警察も、中央や議員などの圧力があると明言し、裁判も選挙を気にして迅速に進んでいく。監督は随所にイランの社会の風刺を織り込ませているが、これが良いスパイスになっている。
ちなみに、本作は実話をベースに創作された作品だ。もとになった事件は、TVドキュメンタリー「And Along Came a Spider」(2003)となっている。ネットでドキュメンタリーも少し観たが、本作の事件はかなり実話に基づいているようである。本作ラストの父親を尊敬している息子さんの話すシーンも事実に基づいていたのでちょっとゾッとしてしまった。かなりインパクトのある事件だったようで、実のこと、本作の前に2020年にも、映画「キラー・スパイダー」で本事件は描かれている(こちらは未視聴)。
昨今、アスガル・ファルハーディー監督が好例だが、イラン映画(イラン舞台の映画)が国際映画市場で存在感を高めている。本作のイラン出身の監督アリ・アッバシにも期待である(なお、アリ監督はスウェーデン・デンマークで学んで現在はコペンハーゲン在住)。
★4.3 / 5.0













