アメリカで終身在職権をもつ大学教授アキ・ロバーツ(専攻は社会統計学・犯罪学)と、その父の竹内洋(教育学者)の本である。アメリカは世界最高水準の大学がひしめいているが、その実態はどうだろうか。本書はアメリカの大学を様々なトピックから読み解く。学者だけあって参考文献を章ごとに書いている。
本書を読んで初めて知ったのだが、カーネギー分類法という大学のランクがあるらしい。最高レベルの研究を行うR1に属する大学、その次のR2、普通のレベルのR3という具合である。ただ研究ではなく教育重視の大学は名門でもR2になったりするという。こちらは初耳の分類であった。また、大学ランキングの評価指標を分析し、大学を改革し、全米の大学ランキングを100位以上あげたノースイースタン大学の例は面白い。ランキングは頑張れば順位をあげることは可能なのだ。ランキング偏重は問題だが、実際には学生や教員にプラスの改革で結果オーライともいえる。
あと、米国の大学は学費が高いが昔はさほど高くなかったらしい。それが大学の管理職の増加やメンタルケアの専門スタッフの配置などで人件費が高騰しているという。一方で学費に見合ったサービスにするために豪華な寮やスポーツ施設を建設したり、至れり尽くせりだという。日本だと
国立大の寮は北欧の刑務所より酷いと言われるが(北欧の刑務所が恵まれすぎている)、ボストン大は26階のタワーマンションで、バージニア工科大ではカフェテリアでステーキやロブスターが食べられる。これらも学費に反映されているのだろう。庶民ではなかなか手が出ない世界である。ただハーバード大のような名門大だと寄付金は数兆円になるので、貧困層は学費免除が受けられる。ハーバード大は年収6万5000ドル(約700万円)を低所得の基準にしているので(浮世離れも甚だしいが)、それ以下の家庭は無料でハーバードに通えるという。とはいっても、潤沢な資金を持つ名門大だからなせる業で、多くの大学の大半の学生はローンで大学に通っており、全米におけるその総額は100兆円だという。格差社会反対のデモが起きるわけである。
あと、興味深いのがレガシー(大学卒業生の子女はその大学の入試で有利になる)である。トランプ米国大統領は名門ペンシルバニア大卒だが娘も同じくペンシルバニア大である。こちらもレガシーだろう。しかし、必ず合格できるわけではなく、ハーバード・プリンストンでもレガシーの合格率は3割ほどだという。一般人に比べれば合格率は数倍になるが、それでも7割落とされるというから甘くはない。
大学の成績インフレの話も面白い。成績を厳しくすると大学教授の評価も悪くなる。そこで、教授も甘めに学生の成績を評価してしまう。もともとはベトナム戦争の際に、大学を落第すると戦地に送られるので、大学教授が甘めにつけはじめたのが発端らしい。日本だとGPAを、単にA・B・C・D・不可としているところが多いが、アメリカはAを細分化してA+、A、A-とするところが多いという(GPA算出ではすべて4点で計算する)。アメリカは大学院進学者も多いのでGPAは重要な指標なのだ。結果、ハーバードの平均成績がA-、イェール大学は6割の成績がAまたはA-になり、名門の大学院に入るにはGPA 3.7とか3.8が必要みたいな異常なことになっている。日本ではこれだけのGPAはなかなかとれない。ちなみに、日本でも国際系の学部は留学必須のため、成績が甘くつけられる傾向がある。
他にもテニキュア(終身在職権)の話などは面白い。大学教授として実際に教育の現場に立ち会っていないとわからないだろう。ただ1ついえるのは米国の大学とて理想的な機関ではないということだ。日本は米国の法科大学院制度を輸入したりしているが、竹内氏が本書内で指摘するように其の沿革などもあわせて理解してメリット・デメリットを考えるべきなのだ。
沿革も分からないままアメリカの大学を良いというのは日本人(に限らないが)の悪い癖だろう。例えば、都会の大学より田舎の大学が良いという人がいる。アメリカの名門イェール大やプリンストン大は田舎にあるじゃないか、静かな環境のほうが勉強がはかどるのだ、と。しかしながら、ノーベル賞受賞者世界第1位のハーバードと第5位のMITは世界都市ボストンにあるし、4位のシカゴ大も全米3位の大都市の中である。田舎だから研究がはかどるともいえるが、都市で様々な刺激があった方が新しい発見をしやすいともいえるが、どちらも後付の理由だ。もともとハーバードがリベラルになって堕落したことに反発し会衆派がイェールをつくり、イェールも英国国教会に汚染されたと長老派がプリンストンをつくった。堕落した世俗から離れるために田舎に大学を作ったのだ。インテリが田舎に都市をつくったのでプリンストンもイェールも街は洗練されている。庶民文化が開花していた日本では俗世は悪いものではない。日本では田舎に大学をつくるのは土地が安いぐらいしか理由がないし、田舎には洗練された文化もない。結果的に日本の田舎の大学は、何かしらの特色がない限りさびれている。法科大学院もアメリカの法曹の歴史を知っていれば、導入できた代物ではないだろう。
なかなか読みやすいながら読み応えのある一冊だった。教育関係者にはぜひご一読いただきたい一冊である。