久しぶりに新書を読んだ。ナポレオン戦争が終結し、第一次世界大戦が開戦するまでのおよそ100年間を「ベルエポック」(「良き時代」)と呼ぶ。この時代に西洋社会は安定し、国民国家・民主主義国家が定着し、市民社会が確立し豊かな市民生活が花開き始めた。西洋において生活水準が向上する一方で、列強は各地に植民地を樹立していった。まさに歴史学において豊かなヨーロッパと、貧しいそのほかの地域に分離した「大分岐」の時代である。その100年間あまりの時代に焦点をあてて本書はヨーロッパの繁栄を様々な面から分析している。
やはりパクスブリタニカの成立には、技術の発達により航海が容易になったこと、また電信網の敷設により情報のやり取りが容易になったことが大きいようだ。これにより列強は容易に軍隊を各地に送り込んで制圧し、またリアルタイムに植民地を支配することができるようになる。本国から植民地まで、情報の伝達が到達に数ヶ月要していたのでは支配などできなかった。その点でやはり産業革命の意義は大きい。
興味深いのは「労働時間」の発見である。農村で労働していた時代は、特に時間に対してお金が発生しないが、工場労働者は時間に対してお金が発生する。そのため、労働時間ということが意識されるようになる。一方で、労働時間以外は自由な時間であり、余暇時間も意識されるようになる。その点で、工場労働のような都市的労働の普及は、「余暇時間」の発見とも表裏一体だった。
また余暇時間の誕生により観光の人気も高まる。当時の著名な旅行家の多くがイギリス人というのも偶然ではない。もともと観光というのは一部の特権階級に独占されていたが、19世紀には上級中流階級でも観光が楽しめるようになる。いまでは観光や旅行を当然のように思っているが、交通機関が未発達の100年前、それは大変貴重な経験だった。観光という行為は極めて近現代的行為なのだ。
しかし、ヨーロッパ支配も長くは続かない。二度の世界大戦をとおしてヨーロッパは疲弊し、アメリカにその覇権を譲る。ヨーロッパの繁栄の裏で、植民地は貧困に悩まされ、英国やフランスの恣意的な国境分断により国際問題が噴出する。19世紀のベルエポックも一面的に良き時代と言うことは出来ない。現代社会を知るにはその前の近世・近代が重要である。現代社会を用意した19世紀の歴史を知るには本書はとても読みやすく良書だと思う。高校生・大学生、歴史に疎い社会人にぜひおすすめしたい一冊。